
7月26日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話8~」をオンエア。今回の放送は、村上さんが、日常の何気ない出来事や気づきを楽しく語りながら、お気に入りの音楽を聴く恒例企画「村上の世間話」の第8回目。今回は、7月3日に発売された村上さんの新作長編『夏帆 The Tale of KAHO』についての話や、海外の旅先でのエピソード、世界的ポップスターとの知られざる交流秘話などがたっぷりと語られました。
この記事では、後半1曲と食堂車について語ったパートを紹介します。
「村上RADIO」
◆Ella Fitzgerald「Mr. Paganini」
エラ・フィッツジェラルドというと「マック・ザ・ナイフ」の入ったアルバム『エラ・イン・ベルリン』が有名ですね。これは1960年の録音ですが、そのコンサートがあまりに評判がよかったので、エラは1961年と62年にもベルリンに戻ってコンサートを開いています。そのときの録音が近年やっとCD化されましたが、今日は62年のコンサートから『ミスター・パガニーニ』を聴いてください。この時期のエラはまさに絶好調、聴いていてほれぼれします。伴奏の達者なピアノはいつもと同じ、ポール・スミスです。
【世間話】
さて、食堂車の話の続きですが、僕は一度東ドイツの鉄道に乗って、食堂車で食事をしたことがあります。まだドイツが東西に分裂していた頃のことで、東ドイツは締め付けの厳しいがちがちの共産主義国家でした。そのとき僕が乗ったのは、ベルリンからウィーンに行く国際特急列車で、外国人も乗車できますが、途中で列車から降りることはできません。いかつい顔をしたお巡りさんが見回りをして厳重に警備しています。窓の外の田園風景はのどかで美しいんだけど、なんとなく全体的におっかない雰囲気でした。
でもその列車には本格的な、とても優雅な食堂車がついていまして、僕は「おお、こりゃいいや」と思って、乗車すると同時に食事の予約をしました。そしてお昼が来るのを楽しみにしていました。で、お昼になって席に着いてメニューを開き、ワインを頼み、ペッパーステーキを注文しました。ところがこれが冗談抜きでまずいんです。ワインもまずいし、肉もまずい。堅くて味がしません。これにはがっかりさせられました。その少し後で東ドイツという国家そのものが崩壊し、ベルリンの壁が崩されました。そのとき、「立派な食堂車で、あんなまずい料理を出すんだから、一国が崩壊してもまあしょうがないか」とか思ってしまいました。食堂車、けっこう大事です。
ちなみにこの特急列車はVT18.16型と言いまして、もうとっくにお役御免になっていますが、鉄道マニアの間では今でもかなり人気があって、ドイツの鉄道博物館に行けば実物が展示されているんだそうです。食堂車をもう一度見に行ってみようかな。この列車の最高速度は時速160キロでした。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~村上の世間話8~
放送日時:7月26日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/