
16時以降のGREEN STAGEでは、ステージ前方エリアに椅子やシートを置くことができない(今年から導入されたという新しいルールだ)。タイムテーブル後半へ向かうにつれて観客が増えることを見越した規定なのだろうが、7月24日(金)のフジロック、GREEN STAGEでは、とりわけそのルールが「どうぞ自由に狂ってください」というお膳立てのように感じられてしまった。言わずもがな、ターンスタイル(TURNSTILE)とHi-STANDARDが続けて登場するタイムテーブルがその理由だ。
ハードコアを背骨にしながらあらゆる境界を超えていくダンスを暴発させ、理想郷たるモッシュピットを描き出し続けたことで、最新作『NEVER ENOUGH』とその収録曲がグラミー賞のロック/メタル/オルタナティブにまたがる計5部門にノミネート、最優秀ロック・アルバムと最優秀メタル・パフォーマンスの2冠を獲得したターンスタイル。日本のメロディックパンク・シーンを切り拓き、自由とは自分たちで掴むものであるという姿勢自体をメッセージにしてきたHi-STANDARD。ハイスタにとっては27年ぶりの苗場帰還ということもあり、GREEN STAGE全体にハッピーな狂宴が広がることを誰もが予見していたはずだ。そもそもフジロックに通底する自由な空気とは、一人ひとりが自治と自助の精神を持って足を運んでいることから生まれている。そういった「自分たちの場所は自分たちの責任で守る」というマインドは、ターンスタイルやハイスタが鳴らしてきた音楽の在り方と、ぴたりと共鳴すると言っていいだろう。自由の体現として、自治から生まれる楽園の具体化として、これ以上ないタイムテーブルである。
ダンスへと更新されたハードコア
17時に登場したターンスタイルは、シンセのロングトーンが幽玄な風景を描き出す「NEVER ENOUGH」で口火を切った。ブレンダン・イェーツ(Vo)のクリアで朴訥とした歌唱に合わせて早速大合唱が起こり、いわゆるモッシュパートが存在しない曲であるにもかかわらず前方エリアは押しくらまんじゅう状態だ。
ステージ上のLEDビジョンには、不調和な7色のカラーバーが映し出されていた。一般的な虹ともテレビのカラーバーとも異なる配色で、その違和感自体がターンスタイルの音楽のカラフルさを象徴しているように見える。彼らの音楽もまた、既存のジャンルや様式にきれいに収まるものではない。ハードコアを背骨にしながら、サンバ、R&B、ニューウェイヴ、ジャージークラブまでを、ダンスというひとつの衝動へと接続してしまう。
Photo by Masanori Naruse
なおかつ、マッチョで、激しく、いかつい──という型が定着したがゆえに、外部に開かれていないコミュニティと捉えられやすかったハードコアを「ダンスミュージック」として読み替えることで、マッチョイズムに陥らない新しいハードコアの姿を提示したことも彼らの独自性のゆえんだ。ハードコアを愛するからこそハードコアの血脈に対する自己反省を込め、あらゆる型をダンス誘発装置に刷新し、境界をダンスによって超えていく。それがターンスタイルの音楽であり、今目の前で起こっている幸福なライオットの正体なのだと思う。実際、ブレンダンがステージ上で口にするのは「Lets dance!」という言葉ばかりである。
Photo by Masanori Naruse
「T.L.C. (TURNSTILE LOVE CONNECTION)」ではイントロのシンセが鳴った瞬間、ピットの熱気が弾けた。2ビートに乗って暴動が巻き起こるのはわかるのだが、808のビートに合わせて雪崩れ込むモッシュパートでは、ハードコアモッシュではなくランニングマンを披露する観客、サンバみたいな動きをする観客、空に向かって正拳突きを続ける観客など、一人ひとりがバラバラなまま混ざり合うダンスフロアが顕現。
「I CARE」では軽快なリズムに合わせて観客の姿が次々にLEDに映し出され、幼い子どもから年季の入ったファンまで、等しく笑顔を浮かべている中には、前年のグラストンベリーで「I CARE」の演奏中にダイヤル式電話機を掲げた観客へのオマージュのように、電話機を高々と掲げる人もいた。様々な人が、思いのままに自分の命を表明するための音楽。言葉にすればたったそれだけだが、そもそもハードコアの根本にあるのは、システムでは括れない個人の存在を抱きしめ、表明していく精神だ。それをまさに体現するため、ハードコアの型を壊すことで、その本質を取り戻さんとしているのがターンスタイルなのだ。
『NEVER ENOUGH』の中では比較的オーセンティックなハードコアのフォルムをとっていた「SOLE」でも、その音によってGREEN STAGEに巻き起こったのはモッシュというより原始の人間祭だ。ピットを上空から捉えた定点映像とステージ上の映像が交互に映し出されるLEDは、混ざっては離れ、離れては混ざる人間の細胞そのものを表しているようである。細胞というのはいささか飛躍した比喩かもしれない。だが、「Everyone, alright? Its so good to be back!」以外はMCらしいMCもなく、ひたすら音の連打だけで「行こう」「踊ろう」「超えよう」と語りかけてくるライブを観ると、そんなことを本気で感じてしまう。
Photo by Masanori Naruse
ラストナンバー「BIRDS」に至るまで、誰もが一人ひとりのままクロスし続ける理想郷のようなライブだった。
人生を鳴らす、新しいハイスタ
続いてGREEN STAGEに登場したのは、実に27年ぶりのフジロック出演となるHi-STANDARD。27年前、同じくGREEN STAGEで「MOSH UNDER THE RAINBOW」の演奏中、実際に虹が架かったエピソードは今もなお語り草であり、ゆえにこの日のライブを「神話の再来」的に迎える長年のリスナーも多かっただろう。
しかしあれから長い時間が経ち、ハイスタは活動休止を経験し、バンドを再構築するための時間を費やしてカムバックを果たし、日本のロックにおける革命児としてではなく3人の人生の結晶としてハイスタを転がし続け、そしてドラマーの恒岡章の急逝という到底受け入れられない事態すらも超えて還ってきた。新メンバーとしてZAX(Dr/The BONEZ)を迎え、不撓不屈の精神のもとにHi-STANDARDを新たに生まれ変わらせる覚悟でミニアルバム『Screaming Newborn Baby』を作り上げた今のハイスタは、レジェンドとしてではなく、ただただ3人の人生を鳴らし切るために走っている。27年前の幻影を重ねるべきではないのだ。
冒頭、「行くぜ。行こうぜ。よっしゃ来い」という難波章浩のひと言から「Turning Back」に雪崩れ込み、立て続けに「Standing Still」をプレイ。どうしてもAIR JAM 2000を想起してしまう「よっしゃ来い」にも、『MAKING THE ROAD』のオープニング通りのセットリストにも、ノスタルジックな感情を覚える人が多かったかもしれない。しかし当の3人はというと、つんのめる寸前のスピードで前に前に転がるばかりで、すべてを振り切るような獰猛さをステージ上で放っている。音と音がぶつかりながら昇っていくアンサンブルのデッドヒート感はハイスタ特有だが、しかしその姿を「成熟」という言葉で表せるかといえば、違う。むしろそのサウンドは成熟とはかけ離れた蒼さを湛えていて、(結成から35年を数えるバンドに対して失礼かもしれないが)何しろフレッシュである。
Photo by Masanori Naruse
逆に言えば、どれだけ外から伝説的に語られようが、どれだけ尊敬を集めようが、ステージ上では「ただの3人組」として転がり続けるところがハイスタの凄まじさだと言っていいだろう。50代を迎えた難波章浩はインタビューにおいて「最高のお爺ちゃんバンドになってやる」という言葉で今のハイスタのモードを表していたが、つまりは、肉体的に老いていく自分たちをありのまま受け止め、果てるまで生き切ると腹を括ることが新しい衝動になっているのだろう。新しいハイスタ、新しい衝動。老成の中にも蒼さは生まれ得るのだ。
そのことをド直球で表すように「まだまだ成長期!」という言葉を吐いて「Growing Up」を投下し、「My First Kiss」で大合唱を巻き起こし、ユースカルチャーの先頭を走っていた頃とは違う「誰にでも開かれたロックバンド」としての姿勢を「All Generations」で表し、今も恒岡章の魂はここにあると言わんばかりに「Dear My Friend」を打ち上げていく。どの楽曲においてもピットからは「この曲は俺のバイブルだ」と言わんばかりの歌声が巻き起こるが、3人自身にとっても、曲が絆であり、絆が曲であることは変わらないのだろう。
Photo by Masanori Naruse
ライブが進めば進むほど、曲のBPMというよりも音のスピードが上がっていく。メンバー同士の呼吸が、反応が、目まぐるしいほど速いとでも言えばいいのか。ロックバンドという巨大な生物を目にしているような感覚に陥ってしまう。それほどまでに、ハイスタが生々しくうねっている。「Teenagers Are All Asshole」につなぐ前のインタールードには『THE GIFT』ツアーで恒岡が珍しくマイクを取った際に歌った♪オー、ニーッポーン♪というチャントを織り込み、ここにもハイスタのすべてをステージに注ぎ込まんとする執念が感じられた。
「ニッポンコール」をきっかけに、難波と横山は日本という土地への思い、右や左といった立場を超えて互いを認め合うこと、ロックやパンクによって人と人をつないでいくことを語った。かつてはパンクを反体制の音楽として捉えていたという難波は、今は自分が生まれた場所を好きでいていいのだと話し、「敵は横にいない気がする」と続けた。
こうした言葉には、さまざまな立場からの意見があるだろう。今の日本の情勢を見れば、戦争に巻き込まれる、あるいは加担することへの危機感は決して生活から遠いものではない。だからこそ、「体制とかじゃなくて」という難波の言葉に、反発や違和感を覚える人もいるかもしれない。しかし、この場でハイスタが伝えようとしていたのは、自分たち自身で自分たちの自由を守り、人それぞれが幸福を掲げることが何よりの闘争になるということだったのではないか。そのために、この音楽から生まれる楽園がある。それを伝えるための言葉だったのだと、僕は思う。
Photo by Masanori Naruse
フジロックならではの選曲である「Have You Ever Seen The Rain」から、同じくカバー曲として続けた爆速の「California Dreaming」、まさに声と声を重ねることによって「ユナイト」を体現したような「Our Song」、このライブ最大のモッシュピットが巻き起こった「Stay Gold」、「これからもロックしようぜ!」という絶叫から雪崩れ込んでピットを破裂させた「Just Rock」、そして、持ち時間が5分余ったことを受けて急遽演奏された「Cant Help Falling in Love」──怒涛の1時間10分、どの瞬間にも大合唱が生まれ、笑顔まみれのモッシュピットが巻き起こる、ひたすらロックを信じ続けるバンドによる凄まじいライブだった。
▼TURNSTILE SET LIST
1. NEVER ENOUGH
2. T.L.C. (TURNSTILE LOVE CONNECTION)
3. ENDLESS
4. I CARE
5. DULL
6. DON'T PLAY
7. Drop
8. I Don't Wanna Be Blind
9. SOLE
10. HOLIDAY
11. LOOK OUT FOR ME
12. MYSTERY
13. BLACKOUT
14. BIRDS
▼Hi-STANDARD SET LIST
1. Turning Back
2. Standing Still
3. Growing Up
4. My First Kiss
5. All Generations
6. Dear My Friend
7. Close To Me
8. Teenagers Are All Assholes
9. Have You Ever Seen The Rain
10. California Dreaming
11. Tinkerbell Hates Goatees
12. Our Song
13. Fighting Fists, Angry Soul
14. Brand New Sunset
15. Stay Gold
16. Maximum Overdrive
17. Just Rock
18. Cant Help Falling in Love





