【フジロック’26総括レポート】The xxからマッシヴ・アタックまで大充実、世界のシステムから解き放つオルタナティブの光

「FUJI ROCK FESTIVAL 26」が7月24日(金)、25日(土)、26日(日)にわたって新潟県湯沢町・苗場スキー場にて開催された。29回目の開催となる今年は、7月23日(木)の前夜祭から延べ4日間で12万3500人が来場。土曜日1日券、3日通し券が売り切れとなり、TOMORAのトム・ローランズが苗場食堂で急遽DJを行うなど、サプライズ出演も話題となった。音楽ライター・金子厚武が3日間の模様を振り返る。

【2日目・7月25日(土)はこちら】

【3日目・7月26日(日)はこちら】

◎1日目・7月24日(金)

2026年のフジロックはRED MARQUEEのテレビ大陸音頭からスタート。昨年のROOKIE A GO-GO出演者から一組が選ばれて、翌年のRED MARQUEEに出演する流れは、一昨年のROOKIE A GO-GOに始まり、今まさにブレイク中のkurayamisakaと一緒で、金曜日の11時ながら会場を埋めたオーディエンスからは熱量の高さが伝わってきた。そして、実際に彼らはその期待に見事に応え、朝イチから爆音をかき鳴らしたわけだが、高い演奏力で繰り出される変則的なビートやリフのかっこよさもさることながら、「ロックが一番最高じゃん!」や「清々しすぎる今日!」といった千代谷竜司の言葉がフェスのムードにぴったりハマっていたのも印象的。ラストを名曲「超常現象を信んじてみる。」で締めくくるまで、一気に駆け抜けた40分。カムバックお祭り。3日間頑張れそう。

テレビ大陸音頭(Photo by Ruriko Inagaki)

テレビ大陸音頭は「直撃世代」で「スマホ捨てて、サッカーしようぜみんなで」と歌っているわけだが、つい先日までは約1カ月間、アメリカ・メキシコ・カナダの共催によるサッカーのワールドカップが大いに盛り上がっていた。そして、メキシコでの開会式と、内容以上にその存在意義が賛否両論だった決勝戦でのハーフタイムショー、そのどちらもで披露されたのが大会の公式ソング、コロンビア出身のシャキーラと、ナイジェリア出身のバーナ・ボーイによる「Dai Dai」であった。今年はSpotifyが年末に発表する「世界で最も再生されたアーティスト」で、ここ数年ずっとテイラー・スウィフトと1位を争ってきた、プエルトリコ出身のバッド・バニーがスーパーボウルのハーフタイムショーに出演し、ついに来日も果たしているわけだが、中南米は2026年のトレンドであり、そのムードは今年のフジロックでも確かに感じられた。

初日にそれを最も体現していたのが、メキシコシティ郊外ナウカルパン出身のガマ兄弟率いるソン・ロンペ・ペラ(Son Rompe Pera)。彼らの音楽的なスタイルはハードコアパンクだが、アフリカからラテンアメリカに持ち込まれ、メキシコでも伝統楽器として長く愛されてきたマリンバを用いていて、そのダンサブルな楽曲はコロンビア由来のリズムから派生して「クンビア・パンク」と呼ばれている。レゲエやソカなども組み込んだ多彩なビートは非常に楽しく、最初は様子見だったオーディエンスも徐々に体が動きだし、特にこの日は後にターンスタイル(Turnstile)とHi-STANDARDの出演が控えていたこともあってか(Ken Yokoyama、絶対このバンド好きそう)、前方では「いっちょやっとくか」と言わんばかりにモッシュが起こり始め、それに伴ってバンドの演奏もさらに熱を帯びる。ライブ後半でタイガーマスクも登場すると(タイガーマスクのキャラクターはメキシコのルチャリブレ/プロレス文化と深く結びついている)、巨大なサークルモッシュも出現。最後にメンバーがでかいマリンバを自ら担ぎ上げて撤収するまで、大盛り上がりのライブとなった。やはりこういう「発見」こそがフジの醍醐味だ。

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SON ROMPE PERA

JULY 24 FRI - CRYSTAL PALACE TENT

┈┈┈┈┈┈┈┈#SONROMPEPERA#fujirock #フジロック pic.twitter.com/8caS0cpZxv — FUJI ROCK FESTIVAL (@fujirock_jp) July 25, 2026

ソン・ロンペ・ペラ、CRYSTAL PALACE TENTでのパフォーマンス映像(フジロック公式)

今もなおサウス・ロンドンでジャズとヒップホップが洗練され続けていることを伝えるGREEN STAGEでのロイル・カーナー(Loyle Carner)の名演を見届けて、RED MARQUEEのスネイル・メイル(Snail Mail)へ。最新作『Ricochet』はリンジー・ジョーダンにとって初めて自らのポートレイトをアートワークに冠していないアルバムで、その代わりに据えられたアンモナイトのような貝殻がこの日のステージにも投影されていたが、渦巻き模様に「内側へと崩れ落ちていく収縮と外側へ広がる無限性」という二つの意味を重ね、声帯ポリープの手術やノースカロライナへの移住など、前作からの間に数多くの変化を経験し、6月に27歳になったリンジーの表現者としての成長が確かに感じられるステージだった。音楽性で言えば、『Ricochet』ではメトロポリス・アンサンブルによるカルテット編成のストリングスが特徴だったが、この日は女性のサポートメンバーがアップライトベースを弓弾きし、他にもギターやシンセを弾いたり、コーラスをしたりと、重要な役割を担っていたのが印象的。もちろん、90年代オルタナ愛が伝わる「Valentine」は大盛り上がりだったし、ラストの「Pristine」からは当時と変わらないリンジーらしさも感じられたが、ギターやイヤモニのトラブルにも動揺せず、しっかりステージをやり切って見せた、その成熟ぶりが何より印象的だった。

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スネイル・メイル(Photo by Kazma Kobayashi)

GREEN STAGEではターンスタイルとHi-STANDARDが新旧のハードコアパンク魂を見せつけ、WHITE STAGEでは今年結成30周年のASIAN KUNG-FU GENERATIONがセレブレーションのようなライブを敢行。オープニングでは世界各国の言語で「ASIAN KUNG-FU GENERATION」という名前がスクリーンに映し出されたが、アニメやJ-POPの人気が高いメキシコを含む今年の中南米ツアーも大成功だったという。しかし、5曲目の「リライト」終わりで泣く泣くWHITE STAGEを離脱して、初日のヘッドライナーであるThe xxが待つGREEN STAGEへ。メンバーそれぞれのソロ活動を経て、今年の4月にメキシコシティで8年ぶりのライブを行い、コーチェラでのステージはYouTubeの中継でここ日本でも大きな話題となったように、ブランクを全く感じさせない素晴らしいライブを披露してくれた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(Photo by Taio Konishi)

ターンスタイルのような音数があるわけでもなく、同じスリーピースでもHi-STANDARDのようにギターとベースに音圧があるわけでもなく、それでもなぜThe xxの楽曲はこんなにもエモーショナルで、こんなにも美しいのか。それはまさに「LESS IS MORE」の精神を感じさせるものであり、この余白を含めたサウンドデザインこそがThe xxの最大の魅力であることを改めて伝えてくれる。ロミーがオーディエンスに「Weve miss you」と伝えてからの「Angels」、「X」の文字が浮かび上がった「Infinity」といったロマンチックな前半の流れも良かったし、後半はそれぞれのソロ曲も織り交ぜ、ジェイミーの「Loud Places」からダンス空間へと移行して、ロミーの「Enjoy Your Life」へと繋いだ歓喜の瞬間は間違いなくこの日のハイライト。オリヴァーが客席に降りて「GMT」を歌い、最初の一音が鳴った瞬間に大歓声が起きた「Intro」で締めくくられるまで、初日のヘッドライナーに相応しい貫禄のステージだった。

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The xx(Photo by Masanori Naruse)

◎2日目・7月25日(土)

2日目は大雨の中でGREEN STAGEのBialystocksからスタート。7月15日に日本武道館での初単独公演を成功させたばかりというタイミングで、ジャズを基調としながらもジャンル横断的な音楽性、甫木元空のソウルフルなボーカル、昨年の君島大空合唱形態に続いて、2年連続のGREEN STAGEとなったギターの西田修大をはじめとしたサポートメンバーの演奏、どれも素晴らしく、すっかりでかいステージが似合うバンドになった。また、この日は映画監督でもある甫木元が演出を施したような、天気の変化ともあいまったライブの流れが印象的で、特に一旦やんだかと思った雨が「雨と共に 歌と共に」と歌う「Nevermore」から再び降り始め、後半の「どうでもいい事ばかりしがみつき!」からテンポチェンジをするタイミングで大雨になった瞬間は非常にドラマチック。彼らのことを初めて知った曲で、個人的に思い入れの強い「I Dont Have a Pen」ではシャボン玉が舞い、「Over Now」で太陽がひょっこり顔を出し、繰り返される転調からラストで甫木元が高音のファルセットを聴かせる「Everyday」でハイライトを迎えると、最後は「雨もノロマも陽気な鼻歌運ぶ」と歌う「Upon You」で大団円。彼らはミュージカル映画からの影響も公言しているが、この日のステージはさしずめBialystocks版の『雨に唄えば』と言ったところか。

✴︎ THANK YOU !! ✴︎#フジロック #Bialystocks

2026.07.25

FUJI ROCK FESTIVAL'26

AT GREEN STAGE

[ 編 成 ]

甫木元空 (Vocals)

菊池剛 (Keyboards)

西田修大 (Guitar)

熊代崇人 (Bass)

小山田和正 (Drums)

市原ひかり (Trumpet)

オオノリュータロー (Background Vocals)

Photo by… pic.twitter.com/bk6qtZKBKU — Bialystocks (@bialymusic) July 27, 2026

1日目のソン・ロンペ・ペラに続いて、2日目に中南米のパワーを感じさせたのが、GREEN STAGEに登場したアルゼンチン・ブエノスアイレスのラ・ボカ出身のラッパー、トレノ(Trueno)。今年の4月にリリースされ、スペインのエル・グインチョらが参加した新作『TURR4ZO』を聴いたくらいで、あまり前情報を入れていない状態で見たのだが、ドラムとギターに加え、3MCのビースティ・ボーイズ的スタイルで始まり、ミクスチャーなサウンドで「FUCK EL POLICE!」と連呼したり、別の曲では「これが本物のギャングスタ・ラブ」とアピールしたりと、政治・社会的なメッセージも強い。今年のワールドカップでアルゼンチンは決勝でスペインに敗れて惜しくも二連覇を逃し、準決勝で当たったイングランドは勝った試合の後にオアシスの「Wonderwall」を歌うことが話題となったが、かつてイギリスの労働者階級が「成功するにはフットボールかバンドか」と言われたのに対して、アルゼンチンにおける「成功するにはフットボールかヒップホップか」を体現するのがトレノだと言ってもいいのかもしれない。音楽的にはラテントラップからカリビアン、ディスコファンクに至るまでかなり幅広く、ラストはリリックでリオネル・メッシにも言及したヒット曲「DANCE CRIP」で締めくくり。トレノの出身地のボカはディエゴ・マラドーナでも知られていて、まだ24歳ながら世界的な名声を獲得した彼は、まさにアルゼンチン音楽界の「神の子」だと言えよう。

#フジロック 2026

アルゼンチン出身の実力派ラッパー #Trueno(トレノ)の日本初ステージが終了

早速本日のセトリのプレイリストを公開!

なんと父でアルゼンチンのレジェンドラッパーPedro Peligroらも登場し、エネルギー溢れるパフォーマンスを魅せてくれました… pic.twitter.com/JTjrMpAGM0 — ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) July 25, 2026

今年の中南米ムードをさらに決定付けたのが、GREEN STAGEをSFチックな異形のパーティー空間に変えたベースメント・ジャックスの存在だ。90年代から活躍するイギリス・ロンドン出身のユニットで、ハウスを軸としながらも、当時からサンバやサルサといったラテンミュージックから強く影響を受けていた彼らのステージは、複数のソウルシンガーやダンサー、トランペッターやパーカッショニスト、「Raindrops」で登場した花の精霊(?)なども入り混じり、パーティーというよりむしろカーニバルと言っていい。トランペットが華やかな「Bingo Bongo」や、ジャジーなピアノを用いた「Do Your Thing」といった序盤の曲からそのムードは明らかで、終盤の離脱で最後の「Wheres Your Head At」が聴けなかったのは流石に残念だったけど、それでも十分に満足のいく内容だった。しばらくオリジナルアルバムのリリースからは遠ざかっているが、現時点での最新作がスペイン語で「トゥギャザー」を意味するアルバムタイトルの『Junto』(2014年)だったことを思えば、この10年で頭角を現した多数のラテン系アーティストとともに、今こそ『Junto』の続編的な新作を作るべきでは?なんてことを思わずにはいられなかった。

ベースメント・ジャックス(Photo by Taio Konishi)

なぜベースメント・ジャックスを終盤で離脱したのかといえば、それはRED MARQUEEのサーストン・ムーア・グループを頭から見たかったから。現在は見ることができなくなってしまったソニック・ユースと同じ編成で、この日はドラムがスティーヴ・シェリーということで、まさに正統後継バンド。サーストンの「ピース&ラブ!」の一言で始まったライブは、変則チューニングと反復を基調とした実験的なロックが時間をかけて大人の成熟したロックになったことを感じさせつつ、それでもユースな衝動は今も変わることがない。ベースのデヴォン・ロスがボーカルを取る場面もあったり、デレク・ベイリーとの共作経験もあるギターのアレックス・ワードはクラリネットも吹いたりと、各メンバーも多才だし、スティーヴのミニマルとダイナミクスを行き交うプレイもまだまだ健在。サーストンの動きは少しだけゆっくりになったものの、アンプの前に立ってフィードバックノイズを出す姿だけでご飯が何杯でも食べられそう。この日がちょうど68歳(!)の誕生日ということもあってか、サーストンは終始ご機嫌で、ラストはドラム・スティックを使ってノイズを撒き散らし、再び「ピース&ラブ!」という言葉を残してフィニッシュ。混沌の先の未来の姿。

Fujii Kaze(藤井 風)がおそらくは今年のGREEN STAGEの最大集客を記録し、WHITE STAGEではこちらも話題のXGがパフォーマンスを終えた後、GREEN STAGEのヘッドライナーであるクルアンビン(Khruangbin)のライブがスタート。サポートを加えた4人編成ながら、リズムは手数も音量もミニマムに絞った生ドラムということもあり、1日目のThe xx以上に音数は少ない印象。しかし、それでも大きなステージでのライブを成り立たせることができるのは、ギターのマーク・スピアーをはじめとしたメンバーの確かな力量とセンスがあってこそ。スクリーンに映し出された満月が徐々に欠けて行き、ちょうど「So We Wont Forget」で一度消えると、再び反対側から光りはじめ、「People Everywhere ii」で再び満月に戻るまでの90分のサイケデリックジャムは、ステージ上空に浮かんだリアルな月の存在もあって、とにかく幻想的。ゆらめき IN THE AIRとはこのことか。

話をもう一度中南米に戻すと、そもそもなぜラテンミュージックが注目を浴びるようになったのかといえば、それはストリーミングサービスの浸透によって、世界にはアメリカやイギリスの音楽と同等の、あるいはそれ以上の潜在リスナーをラテンミュージックが持っていることが可視化されたから。そして、音楽の世界地図の更新はアジアでも起こっていて、K-POPやJ-POPに対する注目もそうだし、タイやインドネシアといった東南アジアの盛り上がりも無視はできない。テキサスのバンドでありながら、60年代のタイ・ファンクをルーツに挙げるクルアンビンの多文化的なあり方は、ベースメント・ジャックスのあり方にも通じるものがあり、イランのポップスにも影響を受けているという部分も含め、やはり今年のラインナップには欠かせない一組だったと言えるだろう。ラストはローラ・リー・オチョアがステージを降りてオーディエンスの前を横断して、指ハートを作ると、マークが「ツキガキレイダネ」と一言。ピース&ラブ。

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クルアンビン(Photo by Jackie Lee Young)

◎3日目・7月26日(日)

2026年のフジロック、個人的なお目当ては間違いなく3日目。長年フジに通っている人ならなんとなくわかってもらえるであろう、「WHITE STAGEが3つある」かのような、広義の意味での「オルタナティブ」がずらりと並んだラインナップが相当に魅力的だ。それは2019年のルーキー以来の出演となったFIELD OF HEAVENのトップバッター・んoonからしてまさにそうで、ボサノヴァからドラムンベースまでを内包したフューチャーソウルとも言うべき音楽性も、ハープなのにハープじゃないような音色を奏でるハープ奏者、やたら手数の多いベーシスト、存在感抜群のボーカリスト、淡々としているがゆえに逆に気になるキーボードという編成も、カテゴライズからは見事にすり抜ける。衣装も楽器の役割もパフォーマンスもとても自由で、FIELD OF HEAVENという空間との相性の良さを強く感じさせるステージだった。

2019年のルーキーからフジロックに

戻ってこれました。本当に嬉しかったし、

みなさんと景色がとても素敵で幸せでした。

雨の中歩いてきてくれて、観てくれて、

踊ってくれて、歌ってくれて… pic.twitter.com/KTFTOe8uVX — んoon/フーン (@hoon_jp) July 26, 2026

リハーサルでジャミロクワイの「Virtual Insanity」を披露して、WHITE STAGEへのご挨拶を済ませた礼賛(心の中で、「ジャミロクワイはサマソニだよ!」と突っ込んだけど)。川谷絵音をはじめ、メンバーの多くがオルタナ愛を持っていることもあり、ミクスチャーな「超BUSY」でライブをスタートさせ、マスロック風のイントロから「TRUMAN」に入るあたりは、多少この日のラインナップを意識したのかもしれない。それでも、新曲の「高ぶるブルー」をはじめ、「鏡に恋して」や「ホレタハレタ」といったポップソングをブレずに届けたのはかっこよかったし、「マシ」や「果てない」でのアンチ冷笑のメッセージも明確。そして、さらに印象的だったのが、サーヤが自分を支えてくれた曲として披露したアデル「Rolling In The Deep」のカバー。この曲は昨年11月の武道館公演でも披露されていたが、そのときはアコースティックセットだったので、バンドセットでの披露はおそらく初。サーヤ自身による訳詞をスクリーンに映しながら、高い歌唱力で歌い切る姿は実にたくましい。「芸人がフロントマンで、穿った見方をされるのは当然だと思ってるので、今日どんなもんなんだろう?と思って、遊び半分で来てくれた方、ここまで残っていただいて本当にありがとうございます。ちゃんと音楽してるのを見せられたかなと思います。これからも活動を続けて、本気でやってるのがもっともっと多くの人に伝わるように頑張りたいと思うので、よろしくお願いします」という真摯なMCも含め、とても礼賛らしいライブだった。

『FUJI ROCK FESTIVAL'26』

@ 新潟県湯沢町 苗場スキー場

ありがとうございました!! pic.twitter.com/E6131gorc7 — 礼賛 (@raisan_official) July 26, 2026

RED MARQUEEにはthe cabsがフジロック初登場。昨年12年ぶりの再生を果たし、当時からのファンはもちろん、動画でしかライブを体験できなかった世代も巻き込んで、この一年は大きな会場やフェスへの出演を繰り返してきたわけだが、高橋國光にとってフジという舞台はやはり特別だったようで、「人生そのものみたいな3日間」「このステージに立てて夢のよう」「こんな未来は想像してなかった」と感慨を何度も繰り返していたのが印象的だった。ライブ自体のクオリティもすっかり仕上がっていて、イントロから歓声の上がった「二月の兵隊」や、難曲の「花のように」など、高橋のテクニカルなギタープレイとシャウト、首藤義勝のナイーブな歌声と土台を支えるベース、中村一太のパワーと手数と細やかさが同居するドラムが渾然一体となったパフォーマンスはやはり素晴らしい。ライブ中盤では新曲「パリ、わたしたちの」も披露されたし、後半の「チャールズ・ブロンソンのために」〜「camn aven」〜「キェルツェの螺旋」という流れはもはやトランスにも近い盛り上がり。最後に高橋がエフェクターをいじってノイズを出し、さらには思いっきり蹴りを入れてステージを去るまで、あっという間の60分だった。

Thank you!!

2026/07/26

FUJI ROCK FESTIVAL 2026

RED MARQUEE

photo by @2drider #thecabs #fujirock pic.twitter.com/BoNxF6T1dV — the cabs (@thecabs_japan) July 26, 2026

GREEN STAGEに移動して、僕にとっては青春の音楽と言っても過言ではないモグワイ(Mogwai)。おそらくニーキャップ(Kneecap)から譲り受けたのであろう、パレスチナの国旗がアンプに貼られ、ドラマーはセルティックの……ではなく、サッカー日本代表のユニフォームを着ていて、相変わらずのフットボールファンぶりも嬉しい。中村俊輔に始まり、古橋亨梧、前田大然と、日本とセルティックの関係性はこの20年でより強固なものとなり、ワールドカップでの前田大然のビューティフルゴールにもきっとご満悦だったことだろう。彼らは2006年に先日フランス代表監督への就任が発表されたジダンのドキュメンタリー映画のサントラを手がけているが、近年は映画やドラマの劇伴を多数手掛けていて、それに伴いサウンドスケープがよりドラマチックになっていることも、この日のライブからは確かに感じられた。「Yes! I Am A Long Way from Home」や「Helicon1」といった静と動で聴かせる初期曲と、最新作『The Bad Fire』の曲を織り交ぜたセトリのバランスもいいし、中盤で披露された「Mogwai Fear Satan」は完全なクラシック。シンセをフィーチャーした4つ打ちの「Remurdered」、スチュアートが弦を引きちぎった「Were No Here」、ボコーダーを用いたラストの「Lion Rumpus」で多面性を見せつつ、最後にthe cabsと同じくエフェクターをいじってノイズを出して終わるのはやはりオルタナ仲間といった感じ。GREEN STAGEの音響で聴くノイズシンフォニー、最高でした。

雨が降っては止んでを繰り返し、ぬかるんだ道に足を取られないようにしつつも急いでWHITE STAGEへと移動して、ジョーディー・グリープ(Geordie Greep)。キース・ジャレットのように毎回違うセッション・ミュージシャンのグループを起用するスタイルで、昨年の来日時にはサックスの松丸契とキーボードの梅井美咲が参加していたが、今回はその2人に加えて、ドラムに大井一彌、ギターに小金丸慧が参加。サウスロンドンの鬼才を東京の精鋭たちが迎え撃つ形で、松丸のポストによれば「2日間計6時間くらいのリハ」だったそうだが、インプロの応酬によるライブはとにかくスリリング。ハードコアとジャズ、そこにブラジルやキューバといったラテン音楽のエッセンスを交えたジョーディらしさはすでに確立されたものがあり、前回も参加している松丸と梅井からはその場を楽しんでいることが伝わってくるが、直接ジョーディーから身振り手振りで指示を受けることが多いドラムの大井は相当負担が大きかったはず。しかし、それでも何とか喰らい付いたのは流石の一言で、近年はTHE SPELLBOUNDやDos Monosなど、同期を使った演奏も多い大井にとって、このフィジカルな演奏はかなりの快感でもあったのでは。なお、スクリーンにはデジタル時計が映し出されていたが、盛り上がりすぎて結局演奏は持ち時間を1分オーバー。この後のGREEN STAGEには平沢進+会人が登場し、FIELD OF HEAVENでは噂のアンジーヌ・ド・ポワトリーヌ(Angine de Poitrine)が入場規制を記録と、変態たちの共演が楽しすぎる。

RED MARQUEE本編ラストを飾ったのはアメリカン・フットボール(American football)。the cabsが再結成をして2020年代の人気バンドになったことは、彼らの大きなルーツの一つであるアメフトが再結成によって2010年代にミッドウェスト・エモのレジェンドとしての評価を確立したこととよく似ている。彼らはパンデミックによって再びバンドとしての危機を迎えていたが、サポートメンバーの助力もあって、7年ぶりとなる新作を完成させ、最大7人編成で新しいアメフトの姿を見せてくれた。よってセットリストの半数が『LP4』からの楽曲で、よりエフェクティブで、スケールの大きな音世界を構築し、その一方でザ・スミスのようなネオアコっぽい曲調と歌がマイク・キンセラのルーツを改めて感じさせた。最も大きなリアクションがあったのはやはり「Never Meant」で、サイケデリックな「Honestly?」も含め、『LP1』の人気の高さを感じさせたものの、そこでは終わらず、音源ではターンスタイルのブレンダンが参加した「No Feeling」から、2部構成の大作「Bad Moons」で締め括ったのは、レジェンドとして生きるのではなく、現在進行形のバンドとして歩むことを選んだバンドの矜持が感じられるものだった。

アメリカン・フットボール(Photo by Hachi Ooshio)

3日目のGREEN STAGE、ヘッドライナーはマッシヴ・アタック(Massive Attack)。噂で聞いていた通り、かなり政治的・社会的メッセージ性の強いライブだった。フリー・パレスチナを掲げ、イスラエルやアメリカを、資源をめぐる戦争を批判し、K-POPの先駆者・ソテジワアイドゥル「Regret of the Times」のカバーで市民の抵抗運動に寄り添う姿勢を示し、格差を助長する経済システム、AIによる監視社会や垂れ流されるフェイクニュースに警鐘を鳴らす。漆黒のサウンドで世界の陰部を次々と炙り出す、その姿勢が何より印象的だった。本来ならばThe xxをはじめ、インディR&B以降の世界に影響を与え続けるブリストル・サウンドの始祖として、その音響的な側面にも言及するべきだろうし、エリザベス・フレイザー、ホレス・アンディといったシンガーが顔を揃えた豪華さにも注目するべきだと思うが、やはり現場にいて、どうしてもメッセージの方に気持ちが持っていかれたというのが正直なところ。僕らは世界のシステムの中を生きていて、常に何かの罪に加担せざるを得ない。そんな悲しみを浄化したのが最後に演奏された大名曲「Teardrop」で、エリザベス・フレイザーの歌がGREEN STAGEに残ったオーディエンスに「あなたが悪いわけじゃない」と語りかけるようなムードは特別なものがあった。

今年のワールドカップは参加国が32から48に拡大され、アフリカのカーボベルデのような小国が健闘し、その一方でスタープレイヤーが実力通りの活躍を見せるなど、確かに盛り上がった。裾野の広がりと、スターへの一極集中が同時に起こっているという意味では、音楽の世界とも相似していると言えるだろう。しかし、そもそもイスラエルとともにイランを攻撃しているアメリカで開催することの是非が問われ続けていたし、開催に先駆けてFIFAがトランプ大統領に平和賞を贈っているのも大きな批判を呼んだ。大会中にはトランプの電話によってアメリカの選手のレッドカードが取り消されたとも言われ、運営に関しては「史上最悪のワールドカップ」という声も少なくない。それでも、FIFAの会長であるインファンティーノの再選は確実と見られているそうで、やはり一部の権力者が力を握り続けるシステムはここにも存在している。

マッシヴ・アタック(Photo by Taio Konishi)

さて、マッシヴが終わって、当初はこの後にWHITE STAGEのミツキを見に行く予定だったのだが、歩き回って疲れてしまい、「途中から見るのもなあ」と思って、急遽2日後の単独公演の2階立ち見席を購入。ミツキは本編の最後で、「日本の田舎でも都会でも、アメリカに行っても、世界をツアーで回っても、どこにも当てはまらなかった。変な人同士、集まってくれてありがとう」と声を震わせながら話をした。「どこにも当てはまらない」という悲しみを受け止めた上で、それを誰かとシェアすること。それこそがオルタナティブミュージックの存在意義であり、この感覚だけがほんの一瞬でも世界のシステムから僕らの心を解放してくれるのかもしれない。今年のフジロックに参加した人であれば、きっとこの感覚もシェアできるはずだ。

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公式サイト:https://fujirockfestival.com/