Suchmosが起こした地殻変動、時代を動かす遺伝子が交錯した、Fujii Kazeを迎えた一夜

5月14日からスタートしたSuchmosの対バンツアー「The Blow Your Mind TOUR 2026」が7月2日のZepp Haneda公演でファイナルを迎えた。このツアーは2025年から活動を再開したSuchmosにとって、「果たさなければならない約束」だったと言っていいだろう。

【画像】Suchmos、Fujii Kaze(全31枚)

もともと2020年3月からの開催が予定されていた「The Blow Your Mind TOUR 2020」がパンデミックの影響で全公演中止に。その翌年から活動休止をしていたこともあって、本公演は実に6年という月日を経て開催された、念願のツアーだったのだ。YONCEのMCでの言葉を借りると、「バラバラで最高」な対バン相手は、IO、GLIM SPANKY、くるり、長岡亮介、cero、ハナレグミ、The Birthdayと、まさにSuchmosが内包する多面性を表すラインナップ。半数以上が2020年のツアーにも出演予定だったアーティストであることも胸熱だが、そのツアーのファイナルに新たに迎えられたのがFujii Kazeだったことにも明確な物語があった。

Fujii KazeがYouTubeでの活動を通じて注目を集め、やがて2020年代を象徴する存在になったことと、2010年代にSuchmosが起こした地殻変動を切り離して語ることはできない。Suchmosのブレイクによって、ジャズ、ソウル、R&B、ファンク由来の楽曲やプレイヤーが再びJ-POPの最前線に送り込まれ、「シティポップ」のワードとともに大波が生まれたからこそ、Fujii Kazeのような音楽家にも注目が当たったという側面は間違いなくあるし、実際にFujii Kazeは2017年に「STAY TUNE」のピアノカバーを投稿している。そして、彼がYouTubeを飛び出して、本格的なバンド編成でのライブをする上で、ギタリストとして招かれたのがTAIKINGだったというのは、Suchmosの存在の大きさを改めて証明する出来事であった。つまり、Fujii Kazeをゲストに迎えて開催されたこのツアーファイナルは、10年の物語を回収する重要な一夜だったのだ。

ちなみに、ツアータイトルの「Blow Your Mind」は、Suchmosのメンバーが敬愛するジャミロクワイのヒット曲から付けられたもの。「STAY TUNE」のミュージックビデオは「Virtual Insanity」のオマージュになっていたが、Fujii Kazeも2017年に「Virtual Insanity」のピアノカバーを投稿している。こんな繋がりに加えて、「Blow」が付けられたツアーのファイナルに「Kaze」が迎えられるというのも、なかなか良くできた話ではないだろうか。

Fujii Kaze

「Suchmosの『The Blow Your Mind TOUR』にお招きいただきまして、前座を務めさせていただきます」という挨拶からして彼らしいユーモアとリスペクトを感じさせたFujii Kazeのライブだが、実際には「前座」という言葉がこれほど不似合いなライブもないだろうというくらい、とにかくスター性がものすごい。昨年はヨーロッパツアーと北米ツアーを行い、今年4月に開催され、TAIKINGも参加したコーチェラでのライブも大きな話題を呼んだように、もはや国内のアーティストでありながら外タレと呼びたくなるような、圧倒的なオーラを放っている。また、新作『Prema』の楽曲を軸にしたコーチェラのセットリストとは異なり、この日はこれまで発表した3作のアルバムを順番に辿っていくようなベスト選曲に近い内容で、凄まじい盛り上がりだった。

『HELP EVER HURT NEVER』からの曲を並べたライブ前半は「何なんw」からスタート。Tシャツにジャージのスポーティーな格好で軽快にステップを踏みつつ、伸びやかな歌声を聴かせ、アウトロではステージ中央に置かれたグランドピアノを激しくも流麗に弾き、そこからシームレスに「もうええわ」へと移っていくつなぎも憎い。再びピアノを使ったつなぎからの「死ぬのがいいわ」では鍵盤に横たわりながら歌ったり、続く「まつり」ではスタンドマイクでパフォーマンスをしたりと、一挙一動が絵になるし、一瞬たりとも目が離せないステージングは流石の一言だ。

MCでは「Suchmosが出てきた頃は私は岡山のただの青年でしたからね。で、ピアノをYouTubeにあげたりしてましたけど、Suchmosはマジで日本の音楽を一気にオシャレにした人たちだと思っています」という言葉に大きな拍手が起こり、「あれから日本のおしゃれなバンドが増えてきて……私もそれに乗らせてもらったりして」という冗談混じりの発言に笑いが起きたりと、スターでありながらも人間味があり、アットホームな雰囲気もいい感じ。さらに「共通の友達やらお世話になってる人もいっぱいいますけど、何よりの共通点いうたら、同じCMソングをやっております。それでは聴いてください。『STAY TUNE』」と言って始まったのは、もちろん「STAY TUNE」ではなく、同じHonda「VEZEL」CMソングの「きらり」。ここから『LOVE ALL SERVE ALL』ゾーンに突入すると、

「damn」ではベースのKOBY SHYとギターのDuranがステージ前方に出て盛り上げ、そのままアッパーに「旅路」までを一気に駆け抜けていった。

サポートメンバーを紹介して、ライブの後半は『Prema』ゾーン。AOR風の「You」を聴かせると、「次でお別れです。何事にも終わりが来ます」「これからも粛々と皆さまと参りたいと思います」と話して、Fujii Kazeのメッセージの軸にある「手放すことの尊さ」を綴った「Okay, Goodbye」へ。自身の弾くピアノとともに始まるこの曲の美しさと儚さには特別な感情を呼び起こされる。「さよなら」を終えて、ステージ袖に戻っていく……と思わせて、「まだ帰りません。あと一曲だけ歌います」の一言に場内から割れんばかりの大歓声が起こると、ラストの「Prema」ではオーディエンスの大合唱が起きて、実にドラマチックな大団円。何度も挨拶を繰り返すその姿は最後までFujii Kazeらしく、愛に溢れた、あっという間の1時間弱だった。

2番手のSuchmosはTAIHEIの艶やかなエレピから、YONCEの「こんばんは、Suchmosです。お好きにどうぞ」の一言を皮切りに、お馴染みの「Pacific」でライブがスタート。会場には最高の風が吹いていて、あとはこの波に乗るだけ。2曲目にいきなりアンセミックな「MINT」が届けられ、ミラーボールが輝いた瞬間は早速訪れた最初のピークタイムとなった。ここから一気にギアを上げて、「Alright」から「DUMBO」とアッパーな曲を続けたが、この日はSuchmosのライブのみに集中したTAIKINGがいつも以上にとにかく楽しそうだったのが印象的。「Alright」ではFujii Kazeに負けじと軽快にステップを踏み、抜群の存在感を放っていた。

YONCE

TAIKING

TAIHEIのソロをフィーチャーした「Whole of Flower」、Suchmos流のウェディングソング「Marry」という『Sunburst』からの2曲で最新のモードを示すと、MCではYONCEが今回のツアーの対バンを振り返り、「ホントにみんなバラバラすぎて、超面白かったですよ。バラバラ最高だよねってことを今日は言いたいと思います。もしかして、一つになっちゃったりしてます? ぜひバラバラでよろしくお願いします。この地球という星は、いかにバラバラかにかかっていると俺は思ってます」という言葉に拍手が起こる。「ここから過激な表現が続きます」と言って、Kaiki Oharaのスクラッチから始まった「YMM」ではRen Yamamotoのベースをフィーチャー。今年の2月に正式加入が発表されたYamamotoにとって、今回がメンバーとしての初めてのツアーになったわけだが、すっかりバンドの屋台骨となり、グルーヴを支えていた。なお、Yamamotoは昨年Fujii Kazeが「MUSIC STATION」に出演した際のバンドメンバーでもあり、彼の参加が大きな話題を呼んだことを覚えている人も多いはず。やはり、SuchmosとFujii Kazeはファミリーなのだ。

TAIHEI

Kaiki Ohara

Ren Yamamoto

Fujii Kazeへのお返しとばかりに「聴いてください、『きらり』」と言って始まった「STAY TUNE」はすっかりOKのドラム曲となり、アウトロの手数の多いプレイが最高。そして、YONCEがJAGATARAの江戸アケミの名言「自分の踊り方で踊ればいいんだよ」を引用して、無職、金持ち、専業主婦、シングルマザー、搾取してるやつ、搾取されてるやつ、幸せ者、くたびれてるやつに「Dance Your Dance!」と繰り返し、「今はただ黙って、己の踊りを踊れ!」と絶叫して始まった「GAGA」では、後半のトランスゾーンでステージとフロアの双方が爆発。さらにはBPMがグッと上がり、躍動感が増した「VOLT-AGE」を畳み掛けて本編が終了した。サッカーの日本代表が負けちゃったのは残念だけど、まだ見ぬ最高の景色はここにあったね。

OK

風が吹けば、Show must be going on。アンコールでは「ピアノと歌を自在に操る、音楽界の大谷翔平」という紹介でFujii Kazeが登場し、「Miree」をコラボレーションで披露。YONCEとFujii Kaze、稀代のボーカリストにして、現代において失われつつある「愛と自由」を体現する2人の表現者が並び立つその絵は実に貴重なものであり、YONCEの後を受ける形で2番をFujii Kazeが歌い出した瞬間は鳥肌ものだった。さらに、アウトロではTAIKINGが「青春病」のフレーズを弾き、Fujii Kazeがそれに合わせて「青春病」を一節歌う場面も。Fujii KazeがTAIKINGと握手を交わしてステージを去るシーンは、数々のライブをともにしてきた盟友との固い信頼を表していた。

「この際なので、Kazeくんに先輩風なんてものをビュービュー吹かすお話になってしまうかもわかりませんけど、彼がティーンエイジャーの頃、『岡山の青年』と彼自身は先ほどお話していましたが、彼のもとにSuchmosという、この未だになかなか大人になりきれないバンド、6人組がやっている、完全にやりたいように好き放題やってやろうというので始まったバンドの音楽が岡山の彼に届いて、そうしたら、とんでもないスケールの人物が出てきたじゃあありませんか。そういう人たちの入口になれていることが本当に誇らしいなと思っています」というYONCEの言葉に再び大きな拍手が起こり、この日の最後に届けられたのは「Life Easy」。悠々自適に、誰のためでもなく、自分のために生きて、その先で会おうぜ。バラバラだからこそ最高な「The Blow Your Mind TOUR 2026」は、まさにこのメッセージを体現するものであった。

LIVE PHOTO BY 川上智之,上山陽介

<ツアー情報>

『Suchmos BAY SIDE TOUR 2027』

https://w.pia.jp/t/suchmos-tour2027/

2027年

3月13日(土)宮城・ゼビオアリーナ仙台

3月14日(日)宮城・ゼビオアリーナ仙台

4月16日(金)福岡・マリンメッセ福岡B館

4月17日(土)福岡・マリンメッセ福岡B館

4月24日(土)神奈川・Kアリーナ横浜

4月25日(日)神奈川・Kアリーナ横浜

5月1日(土)兵庫・GLION ARENA KOBE

5月2日(日)兵庫・GLION ARENA KOBE

※お一人様4枚まで購入可能。

※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)、大人1名につき子供1名まで膝上可。但し座席が必要な場合はチケット必要。