韓国の5人組 Azikazin Magic Worldが語る、音楽×ゲームで呼び起こす「切なくも美しい記憶」

ソウルを拠点に音楽・映像・ゲームを横断する5人組クリエイティブ集団、Azikazin Magic Worldは、2026年1月に初のフルアルバム『Memory Overdrive』をリリースした。そのアルバムを携えて本格初来日を果たし、さる6月に渋谷ANewFaceでポップアップを開催。映像集団tsuchifumazu主催のイベント〈tsuchifumazu ”Party” 2026 TOKYO〉に出演した。

『Memory Overdrive』においてAzikazin Magic Worldがドラムンベース/ジャングルのサウンドで描くのは、架空の町「ドレフィン町」を舞台にした物語である。主人公「ジュジュビ」は、仲間の「ツラ→キッズ!」との記憶を消費することでしか強くなれず、戦うたびに心が空になる。それでも仲間は、ほろ苦い笑顔で再び初めてのように迎える。

また、彼らの大きな特徴の一つが、世界観を音楽やビジュアルのみならず、ゲームとしても表現する点だ。メンバーのライオンクラッドは以前、「私たちは実際にプレイできるゲームを制作し、それを撮影して没入度を高める」とBRUTUSのインタビューで語っている。今回のポップアップも、そのゲームを体験でき、Azikazin Magic Worldの世界を存分に楽しめる空間となった。

映像集団tsuchifumazuとは、4月のソウル公演を経て、6月27日の〈tsuchifumazu ”Party” 2026 TOKYO〉で再び共演し、Spotify O-EASTを大いに盛り上げた。この来日を機に、今回のインタビューが実現。彼らは我々をどのような世界へ連れて行ってくれるのか、作品の核から日本文化との接点まで、ポップアップストアに集まった彼らに話を聞いた。

Photo by Mado Uemura

5人の幼馴染で表現を始めるまで

ーまずは自己紹介からお願いします。

ギホ:Azikazin Magic Worldのクリエイティブディレクターで、映像ゲームを制作しているソン・ギホ(Song Kiho)です。

ムギア:シンガーソングライターのムギア(Moogia)です。

ライオンクラッド:キャラクターデザインとアートディレクションを担当し、ビート(トラック)も制作しているライオンクラッド(Lionclad)です。

ソンムン: 3D CGを担当しているイ・ソンムン(Lee Sungmoon)です。

スミン:空間の企画、マーチャンダイズのデザインなどオフラインのビジュアル面を担当しているアートディレクターのパク・スミン(Park Soomin)です。

左からイ・ソンムン、パク・スミン、ムギア、ライオンクラッド、ソン・ギホ

ーAzikazin Magic Worldは音楽グループでもあり、ゲーム制作集団でもあり、アニメーションや映像制作のクルーでもあり、架空の町・ドレフィンの住民でもありますね。皆さんをまだ知らない日本のリスナーに初めて自己紹介するとしたら、どのように切り出しますか?

ギホ:「ツラ→キッズ!」(Tra→Kids!)という世界観に浸れるようなキャラクターと世界を構築し、音楽やゲーム、アニメーションを通じてその世界をどんどん拡張していく韓国のメディアミックス・クリエイター集団、と紹介したいです。

ーメディアミックスがなぜ重要なアイデンティティだと考えているのでしょうか?

ライオンクラッド: 私たちが子供の頃に共有していたもの、つまり、私たちがこうして集まるきっかけになった核となる要素がまさにそこにあるから。単に一つの作品にとどまらず、そこから派生した様々なフォーマット──例えば、同じ一つの作品をゲームとしても、おもちゃとしても、アニメーションとしても友達と共有し合っていた青春時代の記憶が、私たち全員本当に大好きなんです。

だからこそ、あの頃のワクワクする感覚を、現代にもう一度呼び起こしたいと思いました。私たちが「メディアミックス・クリエイター集団」という概念を好むようになり、今ではとても気に入っている表現になっているのも、そうした背景があるからだと思います。

Azikazin Magic Worldが描く物語の主人公「ジュジュビ」(※公式ホームページより引用)

ツラ→キッズ!の仲間たち、下掲の「Shining Portal」MVより

※キャラクター紹介はこちら

ーすべての始まりは、ライオンクラッドさんのスマホのメモ帳に書き留められた世界観の設定と、一人で作っていたキャラクターだったと聞いています。皆さんの出会いについて教えていただけますか?

ライオンクラッド:実はそれほど「これだ!」という強いきっかけがあったわけではないんです(笑)。単に、今ここにいる仲間たちが、子供の頃からの地元の友達同士だったんですよね。ずっと友人として過ごす中で、「この関係性をどうにか一つにまとめられないか」とみんなで考えていた時期がありました。その時に目をつけたのが、私たちが普段から共通して大好きだった”キャラクターの持つ力”です。「キャラクター」を主軸に据えれば、多種多様な音楽活動も一緒に展開できるし、映像でストーリーを紡ぐこともできる。

私たちの創作における中心的な役割は、そうしたキャラクターから始まったように思います。そこから「これを軸に表現をしてみよう」と意気投合し、Azikazin Magic Worldがスタートしました。

ソンムン: なので、誰かがあらかじめキャラクターを作って楽しそうに遊んでいるのを見て、後から私たちが「自分たちも混ぜて!」と入ってきたわけではないんです。本当に最初の立ち上げの段階から、みんなで一緒にそのプロセスを共有してきました。始まりのきっかけとしてライオンクラッドがベースを創作しているのは事実ですが、そこに生命力を吹き込み、性格を形づくり、ストーリーを肉付けしていくのは、メンバー全員で一緒に手がけていることなんです。

ビートシーンから日本のアニメ音楽まで──多面的なルーツ

ー韓国・アメリカのヒップホップ、UKエレクトロニカ、フライング・ロータスなどといった音楽を聴いて育ったそうですね。皆さんの音楽的ルーツ、音楽を始めたきっかけについて教えてください。

ライオンクラッド:まず、私がこういったパフォーマンスを始めるようになった原点は、ヒップホップのバトルDJたちから大きなインスピレーションを受けたことにあります。当時大好きだったDJ Crazeの「New Slaves Routine」という動画を観たことが、自分で今みたいなパフォーマンスをやり始める最初のきっかけになりました。

そこから、ヒップホップの中でも「ビート・シーン」と呼ばれる領域、それこそフライング・ロータスや(韓国系アメリカ人の)トキモンスタといったアーティストたちに傾倒していったんです。当時のビート・シーンには在米韓国人のクリエイターが多く活動していて、それもあって親近感や興味がすごく湧きました。さらに、ビート・シーンはAdult Swimなどとも深く結びついていたので、アニメーション的な要素とも常に美しく連動していたんです。

日本で言えば、Nujabesが音楽を手がけたアニメ『サムライチャンプルー』などもまさにその系譜ですよね。だから私にとっては、そうした音楽シーンと、自分が子供の頃から好きだったアニメの感性が、すごく綺麗な地続きにあるように感じられて、ずっと愛着を持って追いかけてきました。

ーライオンクラッドさんは現在、AKAI MPCやSP-404MKIIといった機材を使ってますよね。手でサウンドを打ち込んでいくスタイルに、どうやって辿り着いたのでしょうか。

ライオンクラッド:最初はそういうバトルDJのカルチャーにインスピレーションを受けて、「スクラッチDJになりたい」と思っていたんです。ですが、そうやって音楽に触れているうちに、音楽をクリエイションすること自体がもの凄く楽しくなってきて。そこから作曲(トラックメイク)の道へと進むことになりました。

実はそれ以前から、PCの画面上でDAWのグリッドを見つめながら、MIDIで打ち込んでいく作曲方法は知っていたんです。ただ、どこか直感的にしっくりこない感覚が常にありましたし、生みの苦しみというか、創作におけるストレスがかなり強かったんですよね。ですが、バトルDJたちから影響を受けたことで機材やパフォーマンス自体に興味が湧いたので、そこからまずはMIDIコントローラーのMPDに触れ、その後MPCへと移行していきました。その時に「これこそが自分のワークフローなんだ」と気づかされたんです。作るプロセスそのものも楽しいですし、作った後にそれをプレイするのも面白い。そこで「自分はこのスタイルが合ってるんだな」と腑に落ちた気がします。

ームギアさんはいかがでしょう?

ムギア:私も同じように、元々のルーツはラップミュージックやヒップホップだったので、サンプリングをベースにした音楽が根底にあります。そうした私たちが好むジャンル特有の質感やエッセンスがうまく混ざり合い、独自のスタイルとして再構築されていくことで、今の形に辿り着いたように思います。

補足として付け加えると、ラップミュージックをずっと聴いてきた中で、現在のメロディラインを構築するにあたって最も大きな影響を与えてくれたのはドレイクです。現在の自分のシンギングスタイルにおいても、多大な影響を与えてくれたアーティストだと言えます。

ー日本のアニメ音楽に特有の、繊細な雰囲気がお好きらしいですね。そのなかでも耳に長く残っている曲があれば教えてください。

ムギア:『Memory Overdrive』の制作中に影響を受けたのは、『映画ドラえもん』の主題歌であるVaundyの「タイムパラドックス」と、『らんま1/2』のエンディング曲である「あんたなんて。」ですね。どこか切ないくらいに瑞々しくて不器用な感情、それが胸にこみ上げていくプロセス。そういったものを繊細でありながらも、しっかりと伝えてくれるように感じて、その感情の扱い方に感銘を受けました。私たちの『Memory Overdrive』では、できる限りそうした感情表現を作品の中に自然に溶け込ませたかったんです。

『Memory Overdrive』とループする記憶の円環

ーツラ→キッズ!の世界観は、「Eyeballs」(2020年のデビュー曲)や「Magic World Cosmos: Trash Mountain」(2023年)の頃から少しずつ積み重ねてこられたものですよね。今回の『Memory Overdrive』で「記憶」というテーマに絞ってアルバムを制作したのはなぜでしょう?「記憶が消えていくことの悲しさと美しさ」というようなテーマが、皆さんの中ではっきりとしたのは、いつ頃だったのでしょうか?

ギホ:自分たちが作りたいものは、「Eyeballs」の時期とは大きく変わっていますが、少なくとも「Hotel Room」(2024年)の頃には、アニメの『だぁ!だぁ!だぁ!』や『おジャ魔女どれみ』のように、「子供が子供を育てる構図」のストーリーを作っていきたいという方向性が、私たちの中でハッキリとしていました。

そうしていくうちに、「何一つ心配事のなさそうな子供たちの裏側に、もし静かな悲しみが生じるとしたら、それは一体どんなものだろう?」と考えるようになったんです。その時に、「この小さなジュジュビが、もし記憶をどんどん失っていくとしたら?」というアイデアが浮かびました。その設定が、少しずつ積み重なっていく切なさや悲しみをうまく表現してくれるのではないか、と感じたんです。

ライオンクラッド: 私たちのチーム名にある「아직까진(アジカジン)」を日本語に訳すと「今までは」「今のところは」といったニュアンスになります。この言葉の意味を掘り下げていくと、”いつかは失われてしまう、消えてしまうことの悲しさと美しさ”という今回のテーマに、やはりどこかで繋がっているように思うんですよね。

ただそれは、「大切なものはどうせ消えてしまう」という虚無的な意味ではありません。逆に「消えていってしまうものだからこそ、今この瞬間が愛おしく、大切なんだ」という、ポジティブな意味での切実さに強くフォーカスしたかったのだと思います。同じ地域で育った幼馴染同士が集まり、一つの目標に向かって活動を育んでいる私たち自身の姿と、作品におけるキャラクターたちの世界観には、そうした「共有してきた絆」という面で重なる部分があるのかもしれません。

もちろん、自分たちのペルソナをそのままキャラクターに投影しているわけではなく、私たちとキャラクターの世界は確実に切り離されています。ただ、チームで活動を続けながら大人になっていく過程で、当時は「未来に対する漠然とした不安」をみんなが等しく抱えていました。そうした自分たちのリアルな感情が、ある意味でこの作品へとさりげなく昇華されたのではないか、とも思っています。「消えゆくものと正面から向き合う」、そんな感覚でしょうか。

ー2020年のEP『Spaceship for Bad Dream』ではヒップホップやビートミュージックを基盤にしていましたが、今回の『Memory Overdrive』ではドラムンベース/ジャングル主体のサウンドへと変化しています。作り上げる世界観や設定に合わせて、音楽性そのものも変わっていったのでしょうか?

ライオンクラッド: はい、まさしくその通りです。ツラ→キッズ!の世界観は、この作品を機にかなり明確なものになりました。そのため、音楽として届けるストーリーも、その世界観としっかりリンクするものにしたいと考えたんです。

サウンド面では、ドラムンベースやジャングルをベースにしつつ、どこかローファイな質感を混ぜることで、一種の「デジタル風化」を起こしたようなテクスチャーを表現したいと思いました。それから、仲間たちと一緒に記憶の中をひたすら疾走していくような、どこかへ向かって激しく突き進んでいくスピード感を出したかったので、ハイテンポなBPMのジャングルやブレイクビーツの要素を多く取り入れました。

それに、以前からムギアの声は、ブレイクビーツともの凄く相性がよさそうだと感じていたんです。それで今回のアルバム制作にあたって、「こういう方向性でやってみるのはどう?」と彼に提案したという側面もあります。また、ジャングルやドラムンベースというジャンル自体、元を辿ればサンプラー主体の音楽と深く地続きなので、色々な意味で私たちがもともと好み、求めていた制作スタイルにぴったりと合致したんだと思います。

ームギアさんの歌詞には、とても個人的な起点があるように感じます。「Latesleep」は愛するペットとの別れを経験した翌朝、無理やり眠り続けようとしていた自分を朝日が容赦なく起こした瞬間の記録。「Woorinadea(僕たちはどこに)」は、その言葉の響きそのものに惹かれて生まれたそうですね。私的な記憶や、ひとつの言葉の音から物語が立ち上がっていくとき、ムギアさんの頭の中では何が最初に動くのでしょうか?

ムギア: 基本的に制作を始めるときは、頭の中にまるでGIFアニメーションのようにずっとループしている「ある特定のシチュエーション」をまず作り上げてから作業に入ります。そうすると、そのループするイメージの中から言葉を紡ぎ出したり、全体の雰囲気を構築していくことができるんです。それはどこか、小説を書いているような感覚にも近いです。そうして頭の中に仮想の状況を思い描き、そこへ向けて全体のムードをじっくりと作っていきます。

作曲について言えば、私は普段、先にコード進行を決めてからその上にメロディを乗せていく手法をとっています。私自身がもともと叙情的でメロウなスタイルのメロディラインを好む傾向にあるため、今作の世界観や設定にも、そうした音楽的な好みが自然と入り込み、反映されたのではないかなと思っています。

ーソンムンさんとスミンさんに伺います。アルバムの世界観を最終的に一つの作品として形にするためには、ミュージックビデオや公式ウェブサイトといったビジュアル面でのアウトプットも必要不可欠だったと思います。ビジュアルを完成させるにあたり、特にフォーカスしたポイントはどこにありましたか?

ソンムン:まず何よりも重要だったのは、メンバー全員が目にしたときに、「これこそが美しい」ということに対して一切の疑いがない、という点だったと思います。ウェブサイトのデザインにしても、MVのルックにしても、パッと見た瞬間に全員が「綺麗だ」「素晴らしい」と確信できる納得感があって初めて、私たちは作業を完了させることができるんです。

役割分担の面で言うと、ウェブサイトのデザインは主にギホが担当してライオンクラッドと一緒に進めることが多く、グッズのデザインや空間設計などはスミンが担っています。そして、3Dアニメーションや背景などのビジュアル制作は、主に私とライアンが担当しています。ですが、最終的に作品として完成に漕ぎつけるためには、メンバー全員から思わず「歓声」が上がるようなクオリティでなければならない、という共通のハードルがあります。一次的に私とライアンがMVのあるシーンを作って互いにフィードバックを交わすことはありますが、一番大切なのはやはり全員の共感なんです。

それは音楽も同じで、ライアンとムギアの二人だけで完結させるのではなく、ある程度形になった段階でみんなのところに持ってきて、全員で聴いて「めちゃくちゃ良いね!」となって初めて世に送り出すことができます。つまり、最初に手を動かし始める担当はそれぞれ分かれていても、最後の締めくくりのプロセスにおいては、全員の同意と意見が反映されて初めて、すべての表現が完成へと向かうのだと思います。

「Soyongdori」ミュージックビデオ

スミン:ソンムンが今話してくれたように、私が担当しているグッズや空間の設計、あるいはすべてのビジュアルに対しても、みんなが「最高だね」と納得するまで作り込んでいくプロセスがあります。グッズの制作で悩んだり壁にぶち当たったりした時も、チームのみんなが集まって「こういう風にデザインを紐解いてみたらどう?」とヒントをくれたり意見を出してくれたからこそ、最終的な形として完成させることができました。

ライオンクラッド: スミンはこの空間(ポップアップストア)全体の体験の設計や動線などをすべて作っています。それに、Tシャツやトートバッグのグラフィックについても、彼女がすべて自ら転写していて、文字通り一つひとつ手作りした作品なんです。前回の動画シリーズ『Crazy DnB!』のステージで使った、白いパイプで組まれたテーブルもデザインしていますし、MVのプロダクションデザイン全般も彼女が担当しています。

動画シリーズ『Crazy DnB!』で「Soyongdori」を披露

ーAzikazin Magic Worldにとって、設定・ビジュアル・音楽は一方通行ではないように見えます。「delete」という曲ではジュジュビのメモリースロットという設定が先にあって、それが「風鈴のような音」を呼び寄せた。逆に「Woorinadea」は言葉の響きが先にあって、そこから世界の心象が立ち上がっている。設定が音を決めることもあれば、音や言葉の響きが世界を連れてくることもある。設定・ビジュアル・音楽など、複数の要素が互いを引っ張り合うとき、いちばんの「軸」になっているのはどれだと感じますか?

ムギア: 以前の私たちなら、そうした中心軸として「キャラクター」を挙げていたと思います。長く活動を続ける中で、キャラクターのスタイルもかなり変化してきましたからね。

ですが今となっては、作品を作るうえでの本当の中心軸は「メンバーたちとの経験」そのものだと感じています。ここ最近、みんなで一緒に経験することが本当に多くなったんですよね。スペインのプリマヴェーラに出演したことや、今回このように日本でポップアップを開催している経験、あるいは自分たちのオフィスを移転したことまで、あらゆる出来事が作品にもの凄く大きな変化を与えています。

チームで同じ時間を過ごし、色々なことを経験しながら、お互いがシンクロしていくプロセス。それこそが作品に変化をもたらす原動力であり、私たちの表現の真ん中にある、確固たる中心軸なのだと思います。

ー最後の曲「S.a.v.e.d.a.t.a.」は、ゲームのセーブデータを読み込むように「最初からやり直せる」ことを伝えています。聴き終えて1曲目に戻るとまた違った読み方ができる。アルバム全体がセーブとリロードのループとして設計されていますね。ジュジュビが記憶を失っても、ツラ→キッズ!がほろ苦い笑顔でまた「初めまして」と迎える、その悲しくも美しい反復。この円環構造はどのように生まれたのでしょうか?

ギホ: まず、私たちの意図をそこまで深く汲み取っていただけて本当に嬉しいです。実はこの構造が誕生した背景には、ちょっとしたドラマチックな裏話があるんです。

それは、音楽ディストリビューターに最終音源を提出しなければならない、まさに「納品日」の朝6時のことでした。私はずっとイヤホンを耳に挿したまま、全トラックを何度も通して聴いていたのですが、頭の中でどうしても何かが引っかかる、腑に落ちない感覚がずっと残っていたんです。それまでも、ライオンクラッドとムギアが作った楽曲をどのように配置すればリスナーにとって最高の体験になるか、私とソンムンでずっとトラックリストの構成を悩み続けていました。その悩みが限界まで達した朝6時、あるアイデアがいきなり閃いたんです。

実は当初、元のトラックリストでは「Dorephin Shopping Center」という曲が最後に置かれていて、いわゆる大団円のエンディングソングのような役割になっていました。ですが、「この曲をむしろオープニングのような感覚で、一番上に持ってきて、アルバムを「S.a.v.e.d.a.t.a.」で締めくくったらどうだろう?」と思いついたんです。そうすれば、アルバムを地続きで初めて聴くときの1曲目の印象と、最後まで聴き終えてから再びセーブデータをリロードするように1曲目に戻って聴くときの体験が、180度ガラリと変わるはずだと確信しました。

そう思い立った瞬間、まずは朝6時にライアンを叩き起こしました(笑)。熱弁して説得し、次にムギアを起こして……という風に、メンバーを一人ずつ順番に起こしていったんです。ムギアは「えっ、今さら曲順を変えるの!?」って困惑していましたけどね(笑)。

そして、最後にソンムンを起こして「本当に申し訳ないんだけど、流通会社に今すぐ連絡してトラックリストの順番を差し替えてほしい」と頼み込み、滑り込みで修正した結果、このループ構造が完成しました。ディストリビューターの方からすれば、怒り狂うほど大迷惑な状況だったでしょうね(笑)。

ムギア: 今となっては、あの曲を1曲目にして確実に大正解だったと思います(笑)。

YOASOBIコラボの裏側、日韓クラブシーンの交差点

ーCakeshopやseendosi、Seoul Community Radioといった韓国のクラブシーンで育ってきた皆さんの目に、韓国のコミュニティは現在どのように映っていますか。韓国と日本のクラブシーンで、違う点や共通している点があれば教えてください。

ライオンクラッド:韓国のコミュニティは、まさに今、本格的に勢いづいている状況という認識です。最近、韓国ではエレクトロニック・ミュージックに対する関心がもの凄く高まっているんですよね。特に、機材を使ってパフォーマンスをするライブ形式の音楽であったり、人間が鳴らす電子音の生々しさに注目が集まっている気がします。いまやAIでも音楽を作れる時代ですが、だからこそ電子音楽を「ライブ」として体現し、音の歪みやエフェクトの質感を現場で肌で感じることに、多くの人々が面白さを見出してくれているようで、すごく嬉しいです。このコミュニティがもっと大きくなってほしいですね。

韓国と日本のクラブシーンを行き来してみて、最も大きく違ったのは「ビジュアル面のサポート」ですね。韓国のクラブには、視覚的な演出をサポートしてくれるシステムや環境がまだそれほど整っていません。一方で、日本に来て驚いたのは、音楽とVJのアーティストが一つのチームを組んで活動していたり、ギグを企画する際に必ずVJを前提として考えている点でした。今回私たちをサポートしてくれるtsuchifumazuのおかげで、そういうライブ・プロダクションという言葉や概念を知ったのも、実はつい最近のことなんです。

私たちのようにビジュアル要素を重視しているチームにとっては、そうした日本の環境が羨ましくもあり、同時にもの凄く魅力的なチャンスに映りました。ビジュアルを多彩に演出できる空間でパフォーマンスすることは、私たちにとって最高の機会ですから。韓国でも、これからそういった演出が可能なベニューがもっと増えていけばいいなと強く思っています。

この投稿をInstagramで見る Azikazin Magic World(@azikazinmagicworld)がシェアした投稿 2026年6月27日、〈tsuchifumazu ”Party” 2026 TOKYO〉にて

ーちなみに、日本や海外で気になるアーティストはいますか?

ムギア:日本では最近(共演という)ハッピーな接点があったパソコン音楽クラブを挙げたいです。パステル調のサウンドを、ポップかつパワフルに突き詰めていくスタイルに凄く刺激を受けています。

ライオンクラッド:シカゴの友人で、yesterdayneverhappenedという名義で活動しています。フットワークやジャングルをベースに音楽を作っていて、少し前にフルアルバムをリリースしたばかりですが、ゲーム的な要素や日々感じている不安、あるいは希望といった感情が、凄くエネルギッシュに落とし込まれているように感じました。

ーみなさんの大きな特徴のひとつが「実際に遊べるゲーム」を作ること。PlayStation×YOASOBI「PLAYERS」でもゲームを開発していましたよね。そのMVには総勢30組のクリエイターが集結し、Azikazin Magic Worldはそのうち3秒間のシーンを担当したわけですが、そこでギホさんが徹底的に作り込むため何百回もプレイし直したというエピソードも印象的です。

ギホ: まず、私たちはゲームとアニメーションが融合した形のMVや創作物のことを「ゲームアニメーション」と呼んでいます。最初にゲームのシステムをアニメーション制作に取り入れようと思いついたのは、私たちがゲーム好きだからというのもありますが、現実的なコスト面の制約もありました。通常のアニメーション制作には膨大な時間と人件費がかかりますが、「それならゲームエンジンを使って表現した方が、自分たちの強みを活かして遥かに効率よく、素晴らしいものが作れるんじゃないか」と考えたんです。

では、なぜ単なるモーショングラフィックスのツールで作るようなレベルにとどめず、わざわざ「実際に動くゲーム」として構築するのか。その一番率直な答えは、「それが何よりも面白いから」です(笑)。

YOASOBIさんのプロジェクトの際、たった3秒のシーンのために100回も200回もテストプレイしたというのは、本当に細かなタイミングの微調整のためでした。例えば、プレイヤーが曲に合わせて走ってきて、攻撃を繰り出し、モンスターにヒットする。そんな何気ない一瞬のカットを、音楽のビートと寸分違わず正確にシンクロさせるための調整作業が、たまらなく楽しいんです。

ビートに合わせて攻撃したのに「ちょっとモンスターの位置が遠いな」と思ったら、一度作業をストップして、モンスターの配置を少しだけ前に引っ張ってきて、また同じようにテストプレイしてみる。走って攻撃するその瞬間に「背景の雲の位置があまり綺麗じゃないな」と思ったら、今度は雲の位置を少しずつ動かしてみる。そうやって楽曲を何度も繰り返し聴きながら、この音楽に最も調和する「動的な演出」を突き詰めていくプロセス自体がめちゃくちゃ面白いんですよね。ある意味では、タイムライン上で1コマずつレイヤーをいじるモーショングラフィックスよりも、遥かに直感的で効率的だとも感じています。

それに、私が「あれこれ仕掛けを作ってみたから、ちょっとプレイしてみてよ」と、メンバーたちにコントローラーを手渡したりする開発のやり取り自体も最高に楽しいんです。さらに、そこで終わるのではなく、今回のポップアップストアのように、リスナーの皆さんが実際にゲームを通じてMVの世界観の中に入り込み、インタラクティブな体験を直接手渡すことができる。その一連の体験を共有できること自体が、私たちにとって何よりの喜びなんです。

YOASOBI「PLAYERS」MV、Azikazin Magic Worldが参加したのは2:30〜

YOASOBI「PLAYERS」MV、Azikazin Magic Worldの参加シーン

ー『Memory Overdrive』の世界観を構築するうえでも、そんなふうにゲームで遊んできた記憶が大きかった?

ギホ:もちろんです。何よりも、2000年代に韓国のオンラインゲーム界を牽引したゲーム会社・ネクソンの作品から、非常に多くのモチベーションやインスピレーションを得ています。具体的には『クレイジーアーケード』や『クレイジーレーシング・カートライダー』といった、当時のレトロなオンラインゲームからの影響がとても大きいです。

特に、私が人生で遊んだ最初のオンラインゲームでもあった『クレイジーアーケード』が、最近サービス終了を発表したんです。そのゲームの中に「ブームヒル村」という場所が登場するんですが、それはまさに私たちの世界観における「ドレフィン町」のような存在でした。そのブームヒル村を舞台に、ダオやベッチ、マリードといったキャラクターたちが『クレイジーアーケード』に登場し、のちに『カートライダー』にもそのまま登場するんです。

子供の頃、友達と一緒にPCの前に集まってワイワイとゲームをプレイし、そのプロセスの中で自然とキャラクターに深い愛着を抱いていった経験が、かけがえのない大切な記憶として残っています。ゲームを遊びながらキャラクターに感情移入し、絆を深めていくというあの特別な体験こそが、今のAzikazin Magic Worldのインスピレーションの源泉です。私自身が友達と共有したあの愛おしい経験をベースに、私たちの作品に触れてくれる皆さんにも、ゲームをプレイしながらキャラクターに愛着を持ってもらえるような、そんなプロセスを自分たちの手で必ず作り上げたいと思っていました。

「Azikazin Play World」:リミナルスペースを背景にした15分間のホラー・パズル・アートゲーム

「Rhythm* Pocket!」:リズムゲーム形式のライブパフォーマンス

ー最後に、チーム名の「Azikazin Magic World」には、「私たちは今なおマジックワールドに留まることができる」という気持ちが込められているそうですね。今後の活動を通して、日本のファンをどのような世界に連れ出してくれるのか、メッセージをお願いできますか。

ソンムン: 私たちが考える「マジックワールド」というのは、固定されたファンタジーではなく、すべての人がそれぞれの内面に持っている「自分だけの領域」のことだと思っています。ある人にとっては幼い頃の小さな記憶やささやかな夢かもしれませんし、大きく捉えれば、「自分はこう生きていきたい」という人生の目標や方向性そのものかもしれません。

私たちが韓国国内だけでなく、これから日本や海外のさまざまな場所で活動していく姿を見せることで、「自分も子供の頃、ああいうマジックワールドを心の中に持っていたな」と記憶の扉を開く存在になれたら、それほど嬉しいことはありません。

Azikazin Magic Worldホームページ

https://azikazinmagicworld.com/