
King Gnuのドラマー・勢喜遊と、トラックメーカー/DJのYohji Igarashiによるユニット『Yu Seki & Yohji Igarashi』が、気鋭のラッパー・HANATANIと4thシングル「BAMBOO」を配信リリース。10月に初のワンマンライブ「1st ONE-MAN」を東京・大阪で開催することも併せて発表された。
野心的なプロジェクトの真相に迫る3部構成のロング・インタビュー。中編となる本稿では、新ユニットへの理解を深めるべく両者の音楽ルーツを深掘りする。即興性に富んだ肉体的なアプローチと電子音を自在に操るハイブリッドなスタイルで、日本を代表するプレイヤーとなった勢喜遊のドラム観。そして、彼とタッグを組むYohji Igarashiの音楽遍歴と、その根底にあるアナーキズムについて尋ねた。
【前編】Yu Seki & Yohji Igarashi結成秘話 King Gnuのドラマーと鬼才プロデューサーが”音楽的”なダンス・ミュージックで意気投合するまで
ドラマー・勢喜遊「ハイブリッドな感性」の源流
―ここからは現在の活動につながる歩みやルーツ、クラブ・ミュージックへの関心について、お一人ずつ掘り下げていければと思います。まずは勢喜さんから。このYu Seki & Yohji Igarashiというプロジェクトが成立している大前提として、勢喜さんがフィジカルな即興性を備えつつ、デジタル機材も自在に扱えるというのも大きいですよね。その両方をここまで高いレベルで実践できるドラマーは、日本にはほとんどいない気がします。
勢喜遊:ありがとうございます。
―もともとはプロドラマーであるお父さんからソウルやラテンのグルーヴを学び、20代前半はジャズ/ファンク系のセッションバーに出入りしたりと、王道的なプレイヤー路線が出発点だったそうですよね。でもある時から電子ドラムやパッドを導入して、今ではそれがトレードマークになっている。
勢喜:まあ、昔から電子ドラムで練習していたし。どっちかっていうと「帰ってきた」という感じも若干あって。たしかに、SPD(サンプリングパッド)は、僕のプレイを語るうえでもだいぶアイコニックなのかなと思いますけど。
―パッドを最初に使うようになったきっかけは?
勢喜:常田(大希)に言われたからっていう感じですね。最初はSX-404(サンプラー)を手で叩いていて、そこから弦のチョップを流したりとかもしていたんですけど、「手でやるより(スティックで)叩けるやつの方が良くない?」となって、セットに組み込むようになりました。最初の頃は、僕がそこから同期も全部出していたんですよ。今はマニピュレーターが入っているので、そんな危ないことをする必要はなくなったんですけど(笑)。それも生音だけでは出せないサウンドを操るためで、Srv.Vinciの頃からやってました。
―2016年前後の話ですよね。当時、同じようなことをやっていたドラマーは周りにいたんですか?
勢喜:いや、あんまりいなかったと思います。

―当時からのそういう蓄積が、現在の活動やスタイルにつながっていますよね。ジャズやファンク、もしくはロックをルーツに持つドラマーの多くが手数の多さを武器にしがちですが、勢喜さんは割と違うスタイルに向かったじゃないですか。
勢喜:僕はニュー・ジャック・スウィングのビート感がすごく好きなんですけど、手数とはまったく別の良さがあると思うんですよね。手数が多いプレイは叩いていて楽しいかもしれないけど、音楽的にはなりづらいというか。それは昔から思っていました。
―これは本人から聞いた話で、2023年のフジロックに君島大空 合奏形態が出演したとき、石若駿さんが珍しくSimmonsの電子ドラムパッドを叩いていて。それは勢喜さんから借りたものだったと。
勢喜:あー、ありましたね。
―石若さんはそれまで、電子ドラムやパッドを使ったことが全然なかったと言ってました。逆に勢喜さんは、そういう機材を早い段階から導入しつつ、自分のスタイルを確立していくうえで、石若さんの存在を意識することはありましたか?
勢喜:あると思いますよ。そこはもう半分意地ですよね。そっちの領域に行ったら、石若駿っていう絶対的なやつがいるぞっていう。
―King Gnuのツアーでは完全電子ドラムに移行したりもしたそうですが、このプロジェクトでは?
勢喜:アコースティックも使っています。ただ、キックは絶対的に電子の方が良くて。音が全然負けないんで。スネアはどっちでもいいかな。スネアとハット、どちらか生であれば。
―その時々で変える、みたいな?
勢喜:そうですね。今はスネアが生、ハイハットはエレクトリックの気分です。
Yohji:そこは遊くんのスタジオでずっと試行錯誤していて。最終的に今、バスドラを使ってないよね? 代わりにサンプラーを置いていて。
勢喜:そうそう。
Yohji:フット(足元)にバスドラが存在しないという絵が、メッチャかっこいいなと思っていて。象徴的というか。

―日本一のロックバンドのドラマーが、そこまで攻めているなんて最高ですね。King Gnuの「 ):阿修羅:(」も、原曲は打ち込みで超高速テンポなのに、ライヴでは生で叩いているじゃないですか。打ち込みと生演奏の境界を越えるという意味で、Yu Seki & Yohji Igarashiにも直結している話だと思いますが、どうやったら叩けるようになったんですか?
勢喜:不思議ですよね。ライヴで演奏するプレイと、音源で鳴らすプレイは、もうまったくの別物と考えるようになっていて。特に『THE GREATEST UNKNOWN』の楽曲はそう。リハに入って、ドラムセットに座って初めて考える、みたいな。そのくらいのほうが、音源と違う感じになってオモロイなって。完全再現路線よりは、自分ができることに楽曲を寄せるというか。「IKAROS」もライヴでめっちゃ変わったパターンですね。
King Gnu「AIZO」のライブバージョンで、高速ドラムンベースを叩く勢喜遊
―ちなみにリスナーとして、現在取り組んでいるようなダンス・ミュージックにハマったきっかけはなんだったんですか?
勢喜:かなり昔の話で、King Gnuになったばかりくらいの頃に、SUPER BUTTER DOGの竹内朋康さんとのセッションライヴで地方へ行ったことがあって。その車の中で聴かせてもらったSteve Aokiの『Kolony』というアルバムがすごく良かったんですよ。それまで全然聴いてこなかった部類の音楽だけど、猛烈に踊れるし、Steve Aokiなりの哲学も伝わってきて。ヒップホップやベース・ミュージックっぽい要素もあって、かなりしっくり来ました。
―前編でも触れた『リズム&ドラム・マガジン』のインタビューで、昨年ロンドンに留学する際、クラブにも行ってみたいと話していましたよね。実際に行かれましたか?
勢喜:行きました。特定のアクトを観に行くというよりは、とりあえずクラブに行ってみる感じで。FOLDとかfabricとか。とにかく音がデカいんですよ。そこは日本と全然違う。みんな普通に耳栓を買ってますし。あと、現地のクラブで知り合った人たちに「ここでドラムを叩きたいんだよね」と話すと、みんな「面白そうだね」と言ってくれて。いつかそういう形で、向こうでも演奏できたらいいなと思っています。
ロンドンの有名クラブ・fabricの様子。動画中でDJをしているのはダブステップのパイオニアことSkream & Benga
―ちなみにお二人は、日本でクラブに行く時はどのあたりに?
Yohji Igarashi:僕はZEROTOKYOばっかりですね。
勢喜:FORESTLIMITとか、たまに行きますよ。
―キャパ90人のディープな小箱に勢喜遊がいる、いい話ですね!
勢喜:何をやってるのか知らずに行って、楽しいなってことが結構多いですね。
Yohji Igarashiの音楽遍歴、その根底にあるアナーキズム
―ここからはYohjiさん。もともとDJとして活動を始めたのが……。
Yohji:初めて人前でやったのは18歳なので、2009年かな。超アングラなところですけど。
―2013年にmel houseという2人組のユニットを結成して、電波少女などのプロデュースや楽曲提供を手がけてきたと。海外ではちょうどBaauerの「Harlem Shake」が流行っていて、日本でもベース・ミュージックが盛り上がり始めた時期だったと、Qeticのインタビューで語っていました。
Yohji:そうですね。

―ベース・ミュージックはYu Seki & Yohji Igarashiの音楽性で大きな割合を占めているように思いますが、そういった音楽を自分が手がけるようになった経緯というのは?
Yohji:僕はもともとヒップホップ育ちで、今はほとんどそういう人もいなくなりましたけど、超原理主義というか。「90年代のヒップホップ以外はダメ」みたいな感じだったんです。「歌メロがついていたらダメ」とか。だから、高校生の頃はJ-POPとか聴いちゃいけないっていう宗派にいて。キングギドラも『空からの力』はOKだけど、『最終兵器』は打ち込みになったからダメ、みたいな。
―ゴリゴリだった(笑)。
Yohji:本当はSEEDA、NORIKIYO、SCARSとかも聴きたかったけど、とりあえず渋いものばっかり聴かなきゃいけないみたいな。友達とカラオケに行って、RIP SLYMEの曲でマイクを渡されても何も歌えないですよ。聴いちゃダメな音楽だと思って生きていたので。
勢喜:ハハハハ(笑)。
Yohji:そこから高校を卒業してDJをやり出したら、フレンチ・エレクトロの全盛期だったんですよ。Ed Bangerとか。「かっけえな」って思ってましたけど、そんなこと言っちゃいけないから、レコードで90年代ヒップホップばかりかけてました。
―まだ続いてたんですね(笑)。
Yohji:その頃にトラップと出会って……現在のトラップとは文脈が違う音楽で、Baauerの「Harlem Shake」もそうだし、FlosstradamusやDiploもその流れにいましたよね。下ではTR-808のベースが鳴っていて、上モノにはサンプリングが多用されている。その時に、自分の中で「サンプリングならOKじゃん!」となったんです。そこから一気に聴けるようになって。当時のトラップはメチャクチャ大好きで、曲はほとんどSoundCloudでしか聴けなかったんですけど、ほぼ全部聴いたんじゃないかというくらい。タグから検索して毎日聴きまくってましたね。
―いい話すぎる!
Yohji:それでトラップが聴けるようになったら、だんだん裾野が広がって。当時のEDMはエレクトロの流れもあって、いわゆるイビサ系というか、サビで派手にシンセを盛るという発想だったんですよね。でも、トラップを通過したことで、ちょうど2012〜13年くらいの時期に「ドロップ」っていう概念が出始めて。Martin Garrixの「Animals」って曲がありますけど、まさにドロップで一気に落とすじゃないですか。あれにマジでビビっちゃって。そこからEDMが大好きになって、内心ずっと聴いてみたかったSkrillexもそこで解禁されたんです。もうヤバイ!となりましたね。
―そこから自分でも、EDM的なサウンドを手がけるようになったわけですか。
Yohji:それまではMPC2000XL(サンプラー)でひたすらブーンバップっぽいビートを作ってましたけど、パソコンでの制作を勉強するようになりました。というのも、当時は「EDMを作れるようになったら、あらゆる電子音楽を作れるようになる」と思い込んでいて(笑)。100トラックくらいスタックして、あとはそこから引き算すればテクノにもハウスにもなるし、ヒップホップもビートの打ち方さえ変えればいいって。もちろん今は、それぞれルールがあるとわかってますけどね。
Yohji Igarashiの関連ワークスをまとめたプレイリスト。これまでに様々なアーティストへの楽曲提供/リミックスを行い、自身のソロ作もリリース
Yohji Igarashiがメイン・サウンド・プロデューサーを務める、ラッパーHIYADAMの楽曲「Small World (feat. Elle Teresa)」
―そうしたYohjiさんのハイエナジーな音楽遍歴を語るうえで、新しい学校のリーダーズに提供した「Pineapple Kryptonite (Yohji Igarashi Remix)」は欠かせないかなと。彼女たちの海外進出にも大きく貢献したであろうライヴ定番曲ですが、どんな経緯で生まれたのでしょう?
Yohji:あれは当時、88risingの日本支部にいた方から声をかけてもらって。リーダーズと88risingを繋いだのもその方で、日本のアンダーグラウンドな音楽もずっとチェックしていて。僕がプロデュースしているHIYADAMというラッパーの作品も毎回聴いてくれていたみたいで、その流れでオファーをいただきました。ただ、最初に依頼されたのはカラオケ企画用のアレンジ制作でした。「プラスティック・ラブ」や山口百恵の楽曲、KISSのような海外アーティストの楽曲のオケを作り直す役割を担当していたんです。その仕事を5〜6曲ほど進めるなかで「1曲リミックスも作ってほしい」と渡されたのが「Pineapple Kryptonite」でした。最初に作ったのはカラオケ企画の動画用の短いバージョンで、1分にも満たないものだったんですが、担当の方が「すごくいいからフル尺で作ってほしい」と言ってくれて。
―実際に完成したリミックス版は、原曲とは構成もサウンドもだいぶ違いますよね。
Yohji:もともとはオリジナルの楽曲構成と同じだったんですよ。そしたら「全然無視してほしい、10分くらいになってもいいから」みたいに言われて(笑)。今もライヴでよく踊ってくれているパートは、動画用の短いバージョンの頃から存在していて。僕も気に入っていたのでそのパートを軸にしながら、ボーカルも削りまくって、思いきりレイヴィーな曲に作り直したんです。最初から反響があったわけではなかったけど、半年くらい経った頃に、知らない友達からも「すごい回ってるよ」みたいな連絡が来るようになって。気づいたらTikTokか何かでバズってました。
―Yohjiさんの攻めたトラックメイクは、日本のクラブ・ミュージックにはいなかったタイプのような気がするんですよね。勢喜さんは一緒にやってみてどうですか?
勢喜:これまで俺の周りにいたようなやつって、割とアカデミックであったり、そういうガチガチのところから出てきた人が多くて。そういう中で、Yohjiのトラックはなんだろうな、全然違いますよね。アナーキズムがあるというか。
Yohji:めっちゃありますね(笑)。

※インタビュー後編につづく

Yu Seki & Yohji Igarashi「BAMBOO」
配信中
再生・購入:https://va.lnk.to/BAMBOO

『Yu Seki & Yohji Igarashi ”1st ONE-MAN”』
2026年10月23日(金)大阪 GORILLA HALL OSAKA
2026年10月24日(土)大阪 GORILLA HALL OSAKA
2026年10月28日(水)東京 Zepp Shinjuku (TOKYO)
2026年10月29日(木)東京 Zepp Shinjuku (TOKYO)
〈チケット〉
FC会員受付(全国共通・抽選):〜7月8日(水)23:59
オフィシャル最速先行(全国共通・抽選):7月15日(水)18:00〜