今回の撮影に入ってからも、思いもよらない事態に追い詰められた。
「実は『密告』のラストシーンがクランクインだったんです。しかも松本幸四郎さんと2人きりのシーンで。こちらはガッチガチに緊張しているのに、いきなりラストかい!と思いました(笑)」
あまりの緊張に、「そのシーンは何をしたか全然覚えていないです」と笑うほど。撮影後は監督やカメラマンたちと「反省会」と称して和やかな時間を過ごした。
「特に何かを反省するということはなかったのですが、“早く慣れてくださいね”という感じだったのだと思います。そういう時間を設けていただけてありがたかったですね」
一方、幸四郎の芝居には心を揺さぶられる瞬間があった。
「『密告』で、幸四郎さんが瞬きを2回パパッとされたシーンがあって、それで泣かされましたね。幸四郎さんのお芝居なのか、監督がリクエストしたのかは分かりませんが、僕が観て勝手にやられてしまいました。ぜひ劇場の大きなスクリーンで観ていただきたいと思います」
「他人とは思えねえんだよな」アドリブで生まれた忠吾と彦十の邂逅
今回の『密告』には、自身がかつて演じた木村忠吾役で浅利陽介が登場し、2人が絡む場面もある。そこでの思わせぶりなセリフは、元々は台本にはなかったものだという。
「現場で監督と記録の方から、“ここで彦十に、他人とは思えねえんだよな、なんでだろう、って言ってください”と言われて、“なんでそんなこと言うの”ってなりましたよ(笑)。そうしたら“それは『鬼平犯科帳』ファンが喜ぶから”と」
自分は彦十役でありながら、忠吾を思い出させるセリフは、尾美にとって「少し重たいアドリブ」だったが、最終的には「ファンの方に喜んでいただけるならば、やらせていただきます」と受け入れた。
浅利とは事前にほとんど会話をしなかったという。「浅利さんも僕も、あえて近寄ろうとしなかった。お互いに余計なことを持ち込まない方がいいという、無言の了解みたいなものがあったのかもしれません」
