
King Gnuのドラマー・勢喜遊と、トラックメーカー/DJのYohji Igarashiによるユニット『Yu Seki & Yohji Igarashi』が、気鋭のラッパー・HANATANIと4thシングル「BAMBOO」を配信リリース。10月に初のワンマンライブ「1st ONE-MAN」を東京・大阪で開催することも併せて発表された。
「BAMBOO」にはお馴染みのCota Mori(PERIMETRON)とともに、大阪出身の若きラッパー・HANATANIが参加。彼の渡英経験を通じて培ったというグライム調ラップが、音数を削ぎ落とした不穏なダブステップに重なることで、鮮烈なインパクトを放っている。
昨年のフジロックで実現した初ステージには、盟友の新井和輝(King Gnu)やPECORI(ODD FOOTWORKS)、ラッパーのDaichi Yamamotoが参加。フロアの最前列には井口理(King Gnu)の姿もあった。その後は「RISING SUN ROCK FESTIVAL」にも出演。ハイエナジーなダンス・ミュージックが渦巻くなか、勢喜が卓越したビートを炸裂させる、耳にも目にも強烈すぎるほどアグレッシヴなパフォーマンスで観客たちの度肝を抜いてきた。
かたや日本を代表するロック・バンドのドラマー、かたや新しい学校のリーダーズのリミックスでも知られる鬼才プロデューサー。ジャンルもキャリアも異なる二人は、どのような経緯で意気投合し、どういったサウンドを標榜しているのか。なぜ勢喜遊は最初のアーティスト写真で天使の羽を背負っていたのか(「飛びたかったから」と本人)。これまでほとんど語られてこなかった真相に迫るべく、3部構成のロング・インタビューをお届けする。
まず前編では、両者の出会いとユニットの結成秘話に迫る。自分にないものに刺激を受け合うことで急接近していった二人。ドラムの肉体性を生かした”音楽的”なクラブ・ミュージックを開拓する「YY」ことYu Seki & Yohji Igarashiのヴィジョンを語ってもらった。
「BAMBOO」ライブ映像
「はじめまして」の現場で感じた化学反応
ーお二人が最初に出会ったのは、共にサポートとして参加した2020年の踊Foot Works(現・ODD Foot Works)の現場だったそうですね。どういうきっかけで参加することに?
勢喜遊:さとる(井口理)の実家の田植えを手伝うっていう、ものすごいプライベートな予定があって。そこにたまたまPecoriがいて、バスかなんかで一緒に帰ってきたんですけど、その時に仲良くなって、という感じです。
ー自分のバンド以外でステージに立つのは珍しかったのでは?
勢喜:まあそうですね、King Gnuが始まってからはあんまりなかったかな。
Yohji Igarashi:2019年の終わりに、ODDの方でDJというかマニピュレーター的なことをやっていた人が抜けるということで、僕はそこからジョインすることになって。ODDとはその2、3年前に出会って、アルバムのティーザーの音源編集を手伝ったりもしてたんですけど、当時はそこまで深く関わっていたわけでもなくて。それで2020年にサポートするようになって……2回目の現場だったかな。遊くんが参加すると聞いて、「はじめまして」みたいな感じだったと思います。
ーそれで一緒にやってみて、お互いの第一印象はどうでしたか?
Yohji:自分とは格が違うというか(笑)。当時からバンドも売れていたし、「すげえな」「うまいな」と思っていました。あとは柔軟さも印象的でしたね。僕はそこまでバンドにジョインしてきた経験があるわけではないので、もっと音源どおりにやるものだと考えていたんです。でも、ライヴで(ドラムの演奏が)アレンジされていて、「こういうのアリなんだ、めっちゃいいな」と思いました。
ー持ち前の即興性にも驚かされたと。勢喜さんは?
勢喜:面白い人だなって。Yohjiの活動とかについては、正直未だによくわかってないし(笑)。
ーでも、なんか気が合うなと。
勢喜:そう、いいなって。
Yohji:このプロジェクトをやっていくうえで、ホスピタリティ的なところが意外と大きいかもしれないです。純粋に音楽をやるためだけのピースというよりも、気兼ねなく一緒に時間を過ごせる人みたいな。だから一緒にできるんだなって。
Yu Seki & Yohji Igarashi「SUPERMARKET」Live from ONENESS
ドラムとトラック、二人のビジョンが重なった瞬間
ー次の接点は、2023年12月に公開されたCONVERSE × WACKO MARIAのブランドムービーですよね。勢喜さんがドラムを担当し、Yohjiさんがトラックを制作。Yu Seki & Yohji Igarashiの原型ともなった曲ですよね。勢喜さんはこの動画のコメント欄で、「ODD FOOT WORKSのサポートで知り合って以来、ずっと一緒にやってみたかった」と綴っています。
勢喜:僕自身に、King Gnuとはまた別の形で、ソロみたいな形で何かやってみたいなという思いがあって。ダンス・ミュージックというフォーマットで何かやれたらな、というヴィジョンが昔からあったんです。「自分は純粋にバンドマンっていうタイプでもないな」とも思っていたし、もともと(小学5年生くらいから)ダンスをやっていたので。そんなにクラブに行くタイプでもないですけど、漠然とそんなふうに考えていました。
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ー広義のダンス・ミュージックを、自分がドラムを叩く形でいつかやってみたかった。その想いを実現させるうえで、Yohjiさんと一緒にやるのがいいんじゃないかと思った、と。
勢喜:そうです。
Yohji:めっちゃ嬉しかったですね。他にも作れる人なんて周りにいそうなのに「俺なんだ」って。僕は逆に、ずっとダンス・ミュージックを軸にいろいろな人の曲を作ったり、DJをやったりする中で……ダンス・ミュージックってある種、すごい無機質じゃないですか。もっと有機的なものと融合してみたかったし、その当時(2023年頃)はライヴのことまで考えていたわけではないけど、そういう表現をずっとやってみたかったんですよね。日本のクラブシーンの裾野を広げるためにも。
ーというと?
Yohji:自分でやっていても思うけど、DJを60分間ずっと聴き続けるのって、一般的なリスナーには少しハードルが高い部分もあるのかなって。クラブに来ても、どこに目を向ければいいのかわからないというか。そこで一緒にライヴできれば、そうした空間でも視覚的な要素を交えながら、60分間ダンス・ミュージックを届けられるんじゃないかと思ったんです。
ーお互い、この時点でかなりの可能性を感じていたと。実際の作業はどうでした?
Yohji:先に遊くんが叩いているドラムのパラデータがあって、そこに肉付けしていくような感じでした。0から1を作るというよりは、すでにあるものに対してベースラインを付けたりする作業が面白くて。

ーなるほど。この動画の曲は「WACKO MARIA」というタイトルで、Yu Seki & Yohji Igarashiのライヴでも披露されてますし、King Gnuのライヴでも叩いてきましたよね。
勢喜:そうですね。
ーそこまで定着しているだけあり、ドラムのビートが相当キャッチーだなと。短い尺でも耳に残る。どんなふうに叩こうと考えて、あのビートが出てきたんですか?
勢喜:どうだったかなぁ……「デデデデデデンデデン」ってやつですよね。小太鼓みたいなスネアがあって、それをうまく使ってみたかったというのが最初にあった気がします。
ースコーンと、いい音が鳴ってますね。
Yohji:展開とかは変えてないですね。ドラムの中で起承転結みたいなものができていて、それを踏まえて後半もっとわかりやすく盛り上げるとか、そういう作業だった気がします。
―まさにおっしゃる通りで、勢喜さんはドラムフレーズを組み立てるセンスが抜群に素晴らしいと思うんです。テクニカルに叩く技術とはまた別の才能というか。トラックを作る立場から見て、そのあたりの構成力はどのように映っていますか?
Yohji:それはすごく思いますね。(DAWで作業していると)どうしてもミニマルにしがちというか、ドラムで可変性が多いことってあんまりないじゃないですか。それに対して、有機的なうねりがあるというか。ドラムをどう組み立てるか、そのグルーヴをどうスイングさせるかみたいな感覚だったり、音の抜き方ひとつ取っても発想が全然違う。自分の場合は、音を縦方向に積み重ねていく感覚が基本にあるんですけど、遊くんはまた別の視点で音楽を捉えているので、そこが面白いですね。
―勢喜さんはその点について、何か意識していたりするんですか?
勢喜:いやー、特にしてなくて。迷い迷い「こんなのを入れてみたけど大丈夫かな?」というくらいですね。
―叩いていたら、自然と出てくるみたいな?
勢喜:はい。
―話が逸れますけど、ドラムの構成力といえば、新井和輝さんと一緒に参加したCA7RIEL & Paco Amorosoの「THE FIRST TAKE」での演奏も素晴らしかったです。原曲(「BABY GANGSTA」)のドラムンベースとはまた違ったニュアンスが加えられていて。思いつくのは大変だったのでは?
勢喜:いや、まったく大変じゃなかったです。「これしかねえだろ」っていう、パッと出てきたビートがあれで。それをやったらOKみたいな。
―毎回ひらめきが凄い(笑)。「WACKO MARIA」に話を戻すと、勢喜さんが表紙を飾った『リズム&ドラム・マガジン 2024年4月号』のインタビューで、「今までKing Gnuの作業しかやったことがなかったので、外部のトラックメイカーがどういうワークフローなのか、ステム・データで見れたので、めちゃくちゃおもしろかったです。参考になりましたね」と話していたのも気になりました。
勢喜:たとえば、「クリック」というトラックがあって。本当に「カカカカ」とだけ鳴っているみたいな。King Gnuではそういう作り方をしてこなかったので、全然違うんだなと思いました。
Yohji:そこはクラブ・ミュージック特有の作り方かもしれないですね。ベースやドラム(低音域)を際立たせたいと思った時に、それ以外の要素はできるだけ削ぎ落としたい。でもそうすると、中高音域がスカスカになってしまう。だから、その帯域を埋めるために「カカカカ」と鳴るクリック音や、「ササササ」というノイズを入れたりする。そうすることで空間を埋めつつ、ドラムやベースを大きく聴かせることができるんです。でも、ロックバンドの構成であれば、そこの音域にはボーカルが入るので、そもそも別の音で埋める必要がない。たしかに、発想としては全然違いますよね。
―勢喜さんがKing Gnuの『THE GREATEST UNKNOWN』(2023年11月リリース)を制作していたのは、「WACKO MARIA」と同時期ですか?
勢喜:並行して進めていたと思います。
―『THE GREATEST UNKNOWN』の制作で、勢喜さんはDAWの打ち込み作業に集中し、ほとんどドラムを叩いておらず、ドラムを録る時もタム、スネアなどすべてバラ録りだったそうですね。そんなふうに普通のロックドラマーらしからぬスタジオワークに没頭していた時期、Yohjiさんと一緒に作業できたのは大きかった?
勢喜:うん、大きかったと思います。
―つまり、あのアルバムの制作では、自分の担当楽器やリズムパートをどう組み立てるか、他のメンバーの演奏や楽曲全体のバランスまで俯瞰しながらアレンジを考える視点が求められたということですよね。単にドラムを上手く叩くというより、トータルの完成度を優先する。そうした姿勢が、そのままYu Seki & Yohji Igarashiとしての活動にもつながっているのかなと思いました。
勢喜:そうですね。もうドラムを上手く叩こうとはあんまり思っていなくて。King Gnuにおいても。それより先の、もっと深いところに行きたいなと思ってます。
―Yohjiさんは実際に一緒に作業してみて、どんな可能性を感じましたか?
Yohji:最初の頃は「いかに正確に刻むか」を意識しながら制作していましたが、「そういうことじゃねえな」と思うようになってきて。クオンタイズで揃えるのとは違う、もっと肉体的なダンス・ミュージックをどう成立させるか。あとは、ドラムセットを叩いて出てくるのは、やっぱりアコースティックな音じゃないですか。パソコンのツールやシンセとは音圧が全然違う。その質感をどう馴染ませるか、もしくはどこまで生のドラムを採用して、どこまでを打ち込みにするか、みたいな。その塩梅は今も探っていて、すごく楽しいですね。
勢喜遊はロックとクラブの垣根を越える
―そしてついに、Yu Seki & Yohji Igarashiを結成。勢喜さんからYohjiさんへ声をかけたそうですが、それはどのタイミングで?
勢喜:「WACKO MARIA」を作った時に、自分の中で手応えがあったんですよ。「なんかもっとやれそうだな」って。その後、TAMAのイベントに出演して(2024年12月1日「TAMA 50th Anniversary Event」)、そこでは自分で作ったデモを流しながら演奏したんです。その時に作った音源をデモとしてYohjiに渡して、それがPecoriの「Gonzo」という曲になって(2025年7月リリース)。ちょうどその時期にフジロックの出演が決まった、という感じですね。
―どんなふうに声をかけたんですか?
勢喜:「やろうよ」って。
Yohji:(笑)。
―結成するにあたって、どのようなコンセプトを思い描いていました?
勢喜:まずは、ドラムを生かしたダンス・ミュージック、ドラムンベース、ベース・ミュージック。あとはドラムセットをクラブに持ち込みたいと思ってたんですよ。まだできてないですけど、それが目標ですね。
―ドラマーとトラックメーカーが組んでライヴをやること自体は珍しくないですけど、お二人のような音楽性でやっている例は思いつかなくて。現在の編成や音楽性についてロールモデルみたいな存在はいたりしますか?
勢喜:僕はDan Mayoというドラマーが好きで、彼はFred again..の曲にもクレジットが入っていたりして。Anderson .Paakも(Fred again..と)一緒にやってましたよね。あの辺はモロかなと思います。
Dan Mayoのドラム・パフォーマンス動画
Fred again..とAnderson .Paakの共演パフォーマンス動画
Yohji:楽曲単位で「この曲のこういうところを参照したら面白いんじゃないか」という考え方なので、明確なロールモデルはいないですね。ただ目指したいところとしては、日本のクラブ・ミュージック・シーンにおいて、メインアクトを務められるような存在がもっと必要だと思っていて。大きなフェスになると、結局は海外のアーティストがヘッドライナーを担うことが多いですし、日本のアーティストだけでメインアクトを張るのは数的にも限界がある。いわゆる大御所のDJが、ずっと同じ顔ぶれのままという状況も続いていますし。
―すごくわかります。
Yohji:だから僕としては、国内からメインアクトを張れる存在を生み出したいという思いが強くある。もちろん、自分自身がそうなりたいという気持ちもありますし、「遊くんがこっちの世界に来てくれたら、相当スターになれるんじゃないか」と思ったんですよね。遊くん自身はそんな下心でやっているわけではないけど、そういう存在になり得るポテンシャルを秘めている。それに、クラブ・ミュージックのシーンって村社会でもあるけど、遊くんのファッションやアティチュードであれば、コミュニティの中に入ってきてもハレーションが起きないと思うんですよ。自然に無理なくフィールすることができる。そういう人はこれまでほとんどいなかった気がするんですよね。


―ロックバンドの人間でありながら、佇まいを変えることなくクラブの世界に溶け込めそうなのは、かなり珍しいですよね。あとは、ダンス・ミュージックと聞いて思い浮かべるイメージが、昔の名前で止まっている人も少なくないと思うんです。でも、Yu Seki & Yohji Igarashiは、その感覚をグッとアップデートしている印象があって。先ほどFred again..の名前も挙がりましたが、彼の存在は共通言語として大きかったのでしょうか?
勢喜:大きいですね。ダンス・ミュージックなのに有機的であることもそうだし、バランス感覚も素晴らしい。『USB』みたいなダークでドープな世界観のあるアルバム……まあ、あれはシングルを集めたようなものですけど。その一方で「ten days」みたいなポップな曲もできるし。
Yohji:クラブ・ミュージックを大きく分類する時に、僕はよく「日常型」と「非日常型」という言い方をするんです。「非日常型」というのは、たとえばSkrillexみたいな、ドーパミンがドバドバ系の音楽ですよね。ビルドアップがあって、ドロップで一気に爆発する、みたいな。一方で「日常型」は、アンビエント寄りだったり、チルな方向性で、普段の生活の中でも自然に聴けるもの。その両者のバランス感覚が、Fred again..はとにかく優れている。「日常型」の音楽として成立しているのに、ちゃんとドーパミンが出る。そこがまず凄い。
―たしかに。
Yohji:しかも彼の音楽って、単純なクラブ・ミュージックとも少し違うんです。もちろん高揚感を生み出す音楽ではあるけど、それだけじゃなくて、きちんと”音楽的”なんですよね。クラブ・ミュージックの快楽って、文脈を共有していないとわからないところがあると思うんですよ。「あそこからドロップに行くのがヤバい」「音の使い方がすごい」とか、詳しい人なら説明できるけど、そうじゃない人には「低音がすごいね」と言われて終わってしまう。でもFred again..はそうじゃない。クラブ・ミュージックならではのドーパミン的な快楽をしっかり内包しつつ、それをもっと普遍的な音楽体験として成立させている。その絶妙なバランス感覚こそが、最大の魅力だと思います。
―ただ気持ちいいだけでなく、きちんと”音楽的”であるというのは、Fred again..のライヴが日本で絶賛された理由でもありますし、お二人がやろうとしていることにも当てはまる気がします。
Yohji:メチャクチャそうですね。
※インタビュー中編に続く

Yu Seki & Yohji Igarashi「BAMBOO」
配信中
再生・購入:https://va.lnk.to/BAMBOO

『Yu Seki & Yohji Igarashi ”1st ONE-MAN”』
2026年10月23日(金)大阪 GORILLA HALL OSAKA
2026年10月24日(土)大阪 GORILLA HALL OSAKA
2026年10月28日(水)東京 Zepp Shinjuku (TOKYO)
2026年10月29日(木)東京 Zepp Shinjuku (TOKYO)
〈チケット〉
FC会員受付(全国共通・抽選):〜7月8日(水)23:59
オフィシャル最速先行(全国共通・抽選):7月15日(水)18:00〜
