「LGBTQ+」という言葉を耳にする機会は、ここ数年で大きく増えた。テレビやSNS、企業の取り組みなどを通じて、その存在自体は社会に広く知られるようになっている。
しかしその一方で、職場でカミングアウトしている人は約5%と、ごく一部にとどまるという調査結果もある。周囲に当事者がいないように見える背景には、安心して自分を開示できる環境が十分に整っていない現状があるのだ。
本稿では、独自の「LGBTQ+調査」を実施するほか、社内外でLGBTQ+の支援を進めるdentsu Japanの取り組みを紹介する。
dentsu Japan DEIオフィス DEIコンサルタント/dentsu DEI innovations副代表 飯沼瑶子氏、電通 第3マーケティング局 マーケティングコンサルティング1部 マーケティングコンサルタント dentsu DEI innovationsの岸本かほり氏に話を聞いた。
「LGBT」から「LGBTQ+」へ、調査で見えてきた多様な実態
そもそも「LGBTQ+」とは、「L=レズビアン」「G=ゲイ」「B=バイセクシュアル」「T=トランスジェンダー」「Q=クエスチョニング、クィア」、そして「+」ではアセクシュアルやアロマンティック、ノンバイナリー他多様な性のあり方を示した言葉だ。
dentsu Japanでは、2012年からこのような多様な性のあり方についての調査を継続的に実施してきた。開始当初は「LGBT調査」という名目で始まった同調査だが、調査を重ねる中で「LGBT」に該当しない多様な当事者が数多く存在することが見えてきたため、第4回目の調査となった2020年から「LGBTQ+調査」へと名称を変更した。
「LGBTという言葉・枠組みだけでは表現しきれない方々がたくさんいます。それぞれ抱える悩みや課題も異なるため、その存在や困りごとを可視化する必要があると考えています」(岸本氏)
例えば、トランスジェンダー当事者の困りごとの一例として、トイレや更衣室など日常生活に直結する問題があることは想像しやすい。
一方で、「+」に含まれる、アセクシュアルやアロマンティックの人もまた別の形の生きづらさを抱えている。ひとくくりにできない多様性があるからこそ、属性ごとの理解が求められていることが調査の中で見えてきたのだという。
LGBTQ+の認知と理解の間にある「溝」
同社では「LGBTQ+調査2026」と題して、今年も同様の調査を行っており、今回特に印象的だった点として、岸本氏は「認知と理解のギャップ」というキーワードを挙げた。
「今回の調査を見ていても、LGBTQ+という言葉の認知率は76.7%と高いことがわかります。その一方で、当事者が抱える問題や生きづらさへの理解は、十分に進んでいるとは言い難く、認知と理解の間には大きなギャップがあると思います」(岸本氏)
今回の調査では、「学校でLGBTQ+について教えるべき」だと考える人が8割を超えた一方で、実際に学校教育で学んだ経験がある人は1割未満だったことや、企業研修を受けた人には理解や行動の変化が見られる一方で、研修受講経験者自体はまだ少数にとどまるという結果となった。
さらに「職場で当事者であることは仕事や評価に影響しない」と考える非当事者が多い一方、当事者は日々のコミュニケーションの中で「自分が当事者であると知られてしまう」不安から、常に周囲の視線を意識して行動しなければならない実態があるのも印象的だったという。
「評価には関係ないと思われていても、当事者は常に『知られたらどう思われるだろう』という不安を抱えています。そのために本来の自分を出せず、能力を発揮しきれない状況も起きています」(岸本氏)
さらに、岸本氏がもう1つ重要なテーマとして挙げたのが「高齢のLGBTQ+当事者」についての調査結果だ。今回の調査では、職場や教育だけでなく、高齢期に直面する課題も浮き彫りになった。
医療現場でパートナーが説明を受けられない、介護施設で自分らしく過ごせない、相続や葬儀でパートナーの存在が考慮されない……。こうした問題は、社会の高齢化が進む日本において今後さらに深刻になるとみられる。
特に高齢世代は、現在よりもさらにカミングアウトが難しい時代を生きてきたこともあり、当事者であることを周囲に明かせないまま人生を送ってきた人も少なくない。
「認知は広がっているがゆえに、『もう十分理解されている』と思われてしまうことが新たな問題になっています。だからこそ、教育や職場、医療、介護など、当事者が困難を感じる人生のさまざまな場面を知り、各領域で何ができるのかを考え続ける必要があります」(岸本氏)
DEIに取り組むことが「企業力」に直結する
このような社外へのLGBTQ+の認知を進める取り組みを進めているdentsu Japanだが、上記の調査以外にも社内外でさまざまなDEI施策を展開している。
まず社員向けには、人権研修に加え、「DEIパーク」と呼ばれるアクション創出プログラムを実施。参加者が自組織の課題を考え、具体的な改善策を検討する仕組みを整えているほか、当事者やアライ(支援者)のコミュニティ運営、相談窓口の設置、プライド月間に合わせた取り組みなども継続的に行っている。
さらに社外に向けては、LGBTQ+に関わる広告表現のヒントをまとめたガイドブックである『広告とLGBTQ+』や、LGBTQ+支援のための具体的なアクションをまとめた『LGBTQ+について知る・考える・行動する アライアクションガイド2025-2026』をデジタルブックとして無償で公開している。
加えて、LGBTQ+をはじめとするセクシュアル・マイノリティの存在を社会に広め、「性」と「生」の多様性を祝うイベントである「Tokyo Pride」へは、10年連続で出展している。先日開催された2026年のTokyo Prideでは、dentsu Japan 各社から44名の経営層を含む延べ約140人が参加し、社長自らブースボランティアに携わったという。
このようにさまざまな取り組みを進める背景について、飯沼氏は「自分らしく働ける環境が企業の競争力にも直結する」と語る。
「(無形商材を扱うdentsu Japanにとって)企業の最大の価値は『人財』です。自分らしく働けない環境では、その人の能力は十分に発揮されません。多様な人財が持つ力を最大限に引き出すことが、企業の成長にもつながると考えています」(飯沼氏)
制度があること自体に意味がある
さらに dentsu Japan傘下の数社では、同性パートナーや事実婚のパートナーを配偶者として認める制度も導入している。
これまでに、dentsu Japanではトランスジェンダーであることを公表し、戸籍上の氏名変更を行った社員もおり、その事例をきっかけに、人事システムや社員証などの運用などをその都度見直してきたという。
「当事者のサポートや制度見直しに尽力した社内関係者からは、『誰かが最初の一歩を踏み出すことで、それまで壁だった場所に扉ができる。その扉を次の人が通れるようになることが大切だと思っている』といった声もありました。」(飯沼氏)
また飯沼氏は「制度が利用されることだけでなく、社内に存在していること自体が安心感につながる」と説明しており、今後も企業として環境の整備と制度の普及を進めていきたい考えだという。
いま、LGBTQ+に対するフェーズは認知から理解へ、そして理解から具体的な行動へと進むタイミングなのかもしれない。dentsu Japanが続けてきた調査や取り組みは、そのための第一歩となりそうだ。



