「お仕事なにされているんですか?」

この質問をされたことがない社会人はいないだろう。きっとこの記事を読んでいる読者の方もされたことがあるはず。

「会社員」「フリーランス」と大きく括ってしまえば簡単だが、日本国内の職種は細かく分類されており、厚生労働省によると、2万種類にも近い職種があるとされている。

筆者は新卒で編集部に配属されたため、業務としては編集者・記者の仕事しか知らないが、仕事柄、さまざまな仕事をしている方に会うことが多い。

新商品発表会に参加すれば「マーケティング部」や「商品開発部」、入社式や研修の取材に行けば「人事部」、工場見学に行けば「工場長」といった役職者に会うこともある。

その中でも記者として1番身近な職種が、取材のサポートをしてくれる各社の「広報部」だ。

しかし考えてみると「広報部」がどんな仕事をしているのかイマイチ知らない。広報というのだから「広く」「報じる」ことを仕事にしているのだろうが……

今回から始まる連載では、この「広報部」の仕事に着目。普段は取材の裏方として活躍しているさまざまな企業の広報担当者に取材を申し込んでみた。

第1回目となる今回は、大手広告会社である「電通」。電通コーポレートワン ブランディングオフィス 広報室 広報部の李相徳さんに「広報の仕事」について聞いた。

  • 今回、話を聞いた電通コーポレートワン ブランディングオフィス 広報室 広報部の李相徳さん

    今回、話を聞いた電通コーポレートワン ブランディングオフィス 広報室 広報部の李相徳さん

AI×広報でできること

電通コーポレートワンは、電通グループにおいて、国内グループ主要会社のコーポレート機能を担う中核会社。人事、経理、法務などの機能を横断的に担い、グループ経営の効率化と高度化に貢献している。

その中でも、李さんが所属するブランディングオフィスは、社内外への情報発信と情報環境の整備を通じて、グループ全体のレピュテーションとエンゲージメントの向上に貢献する広報活動を推進する組織。

対外コミュニケーションや、社内・グループ内コミュニケーション、ブランド価値の向上施策を横断的に担っているという。

「広報」と一言で言っても多くの業務があるが、広報部に所属している李さんが主に担当しているのは「対外広報」だ。ニュースリリースの作成や記者会見の運営、インタビューなどの取材対応を行っている。

  • 記者会見で司会を担当する李さん さまざまな場面で取材を支えてくれている

    記者会見で司会を担当する李さん さまざまな場面で取材を支えてくれている

そんな李さんの業務の中でも特徴的なのが「AI×広報」の文脈でさまざまなAIエージェントを自ら開発していることだ。

李さんが所属する広報部ではニュースリリースの初稿の作成に特化したAIエージェント「河南2号」の他、メディアからの問い合わせに対して即時に対応方針や回答初案を生成するQAエージェントなど複数の広報特化型のAIエージェントを活用しているそう。

特に、エグゼクティブコミュニケーションオフィサー 兼 広報室長であり、李さんの上司である河南周作さんのノウハウを習得した「河南2号」は、ニュースリリース作成作業を担当する広報部メンバーにとって無くてはならない存在だという。

「広報部では、電通の経営情報や新規サービス・ソリューション、調査レポートなど多彩なジャンルのニュースリリースを年間約170~180本程度作成しています。これまで広報部のメンバーが文章作成に多くの時間をかけていたという課題がありましたが、この『河南2号』を活用することで、作成時間を半分以下に削減するとともに、文章品質の向上も実現することができています」(李さん)

  • 開発したAIエージェントについて説明する李さん

    開発したAIエージェントについて説明する李さん

そして、今年はAIエージェント開発を一層加速させており、広報業務に関わる複数のAIエージェントの開発と、エージェント同士の連携の実現に向けたプロジェクトを進行させているという。

「例えば、作成したニュースリリースの文章を日本語校閲できたり、品質を評価できたり、dentsuという企業の歴史やパーパス、経営方針を熟知していたり……。そうした多様なAIエージェントが連携することで、さらなる品質向上と業務効率化を実現していきたいと考えています。その結果として、時間に余裕が生まれ、記者の方々ともっと向き合う時間や新たなチャレンジに充てられれば、広報としてこれまで取り組めなかったことにも挑戦できると思っています」(李さん)

「クリエイティブの力」と信じる人を支える仕事

そんな多才な李さんが広報の仕事に就いたのは8年前。当時は電通ではなく、前職では通信キャリア系企業で働いていたという。

新卒では法人営業部に配属されたが、入社4年目で迎えた人事異動を機に広報部に配属されることになった。

「大学時代はドラマやバラエティ番組を作るゼミに入っていたこともあり、新卒の就職活動の時はテレビ局を志望していた時期もありました。今、振り返ってみると違う形とはいえ、メディアに関わる職種に就けて良かったなと感じています」(李さん)

広報歴としては電通が2社目の李さんだが、電通の広報として忘れられない仕事がある。

「身の回りの音をオノマトペ(擬音)に変換して可視化するスマートフォンアプリの広報を担当した経験が、特に印象に残っています。開発者の、聴覚障害のある方々への想いが、このソリューションを生み出しました。電通には、クリエイティブの力で世の中を少しでも良くしたい、という真っすぐな想いを持った社員が多く、そのことが電通の原動力になっていると、日々広報の仕事を通じて感じています」(李さん)

そのほかにも、CM制作の現場で活躍するクリエイティブディレクターを追ったドキュメンタリー番組に、広報として帯同した経験も印象に残っているという。

「当時は電通に入社したばかりで、クリエイターと初めて仕事をすることにワクワクしていました。その方もクリエイティブの力を信じている社員で、その想いを番組を通して世の中に届けられるよう、広報としてサポートしたいと考えました」(李さん)

電通には、このようにクリエイティブへの強い熱量を持った社員の他にも、さまざまな領域で活躍する個性豊かな社員が多くいることから、李さんは電通を「『彩り豊かな企業』だと感じています」と表現してくれた。

情報発信が多様化する時代の広報として

そんな李さんのこれからの目標は「世の中がどのように変化しても、広報として大切にすべき本質を見失わずに向き合い続けること」。

SNSやAIの活用といったさまざまな情報発信の多様化に対応しながらも、「企業と外部ステークホルダーとの架け橋になる」という基本的な役割を全うできる人でいることを忘れずに日々の業務に向き合っていきたいという。

さらに、李さんが注力しているAI分野に関しても、他企業へのAI活用支援を含めて、広報業界全体に向けた貢献をしていきたい考えだという。

AIが台頭している現代。今後、広報の形はどのように変わっていくのだろうか。きっとその最前線には李さんの姿があるに違いない。