映画『マジカル・シークレット・ツアー』(公開中)で、有村架純が演じるのは、仕事や家庭に閉塞感を抱えながら生きる主人公・和歌子。金の密輸という非日常的な出来事に巻き込まれていくが、観客に「自分もこうなってしまうかもしれない」と思わせるリアリティをまとった人物だ。

有村は和歌子を「自分軸で人生を生きることができていない女性」と捉え、その背景や感情を丁寧に掘り下げながら役と向き合ったという。和歌子が出会った2人の女性との関係性、主演として意識している現場づくり、そして「理解できない人物」を演じるためのアプローチまで。作品への思いと俳優としての哲学を聞いた。

  • 有村架純 撮影:宮田浩史

    有村架純 撮影:宮田浩史

「真面目に生きていても報われない」――和歌子が2人との出会いで取り戻したもの

――今回の脚本を読んだときの、和歌子という役の第一印象から教えてください。

まずは、自分軸で人生を生きることができていない女性なのかな、と感じました。

――そこから演じていく中で、和歌子の印象はどう変わっていきましたか?

和歌子は金の密輸という出来事を通して、きよちゃん(黒木華)と麻由ちゃん(南沙良)という2人の女性に出会います。自分の弱さに共鳴してくれる人たちに出会ったことが、和歌子にとっては救いになったんだと思います。

「あれ、私こんな風に感じるんだ」「こんな風に楽しめるんだ」と、忘れかけていた自分らしさを取り戻していくような感覚がありました。

――和歌子は、なぜ2人に心を開くことができたのでしょうか?

おそらく、そこまで深い話をずっとしていたわけではないと思うんです。でも、何かしらの事情を抱えている女性2人と、事情を抱えている自分。社会や周りに対する不満や、「真面目に生きていても報われないこともあるよね」という思いを抱えている共通点を感じられるだけで、人は救われる部分もあると思います。

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きよちゃんと和歌子に共感 有村架純が「分かる」と感じた瞬間

――作品に入る際、役作りはどこから始めることが多いですか?

まずは脚本を一通り読んでから、役の背景を考えたりしながら深掘っていくことの方が多いですね。

――今回は3人ともキャラクターの温度感がかなり違いますが、役を深めていく中でご自身が感覚的に共感できた人物はいましたか?

そうですね……麻由ちゃんは大胆さもある女性なのでちょっとタイプが違いますが、きよちゃんと和歌子は、わかる部分もあるなと思います。

――それぞれどんな部分ですか?

きよちゃんだと、お仕事でうまくいかなかったときや壁にぶつかったときに、ただ悶々とするだけじゃなくて、自分の好きなものに触れて気持ちを晴らしていく部分だったり。

和歌子だったら、周りの声を聞いて、すべてに寄り添おうとしすぎて逆に「あれ?」となってしまうところは、私も人の声を聞きすぎてしまう部分があるので、わかるなと。

――ちなみに、有村さんは気持ちを晴らしたいときにはどんなことをしていますか。

動画チャンネルで、いつも見ているワンちゃんの動画があるので、その子たちの映像を見たり、あとはお香を焚いたり、ご飯を作ったりします。

――今回、黒木さん、南さんとの3人の空気感もすごく印象的でした。3人でお芝居をしていく中での役割みたいなものはありましたか?

黒木さんは3人の中で一番年上ということもあって、すごく堂々と現場にいてくださって、とても心強かったです。

沙良ちゃんは、楽しいことが好きな女優さんなのかなと現場でご一緒して感じていて。沙良ちゃんが楽しそうにおしゃべりしていると、私もなんだかすごくうれしいなと思ったり。みんなそれぞれ魅力があって、楽しかったです。

――有村さんご自身は、その3人の中ではどんな立ち位置でしたか?

どの現場でもそうなんですけど、あまりグイグイ行っても迷惑かなと思ってしまうので、話しかけてもいいかなと思うタイミングでお話しさせてもらっています。あとは今回、主演という立場で参加させていただいたので、監督の様子や全体の様子はずっと見ているようにしていましたね。

「現場の空気が健全であることが大切」主演として意識すること

――普段から、主演や座長という立場で意識していることはありますか?

経験を重ねる中で見えるようになってきたことですが、現場の空気がとにかく健全であることが幸せなお仕事につながっていくと思っています。

物理的に時間がないなど、撮影現場全体が変わらないといけない部分はまだ多いですが、そんな中でもみんなが愛情を持って作品に取り組むことができたら、それほど幸せなことはないと思うんです。

だから、現場で誰か不幸な気持ちになっている人はいないか、風通しはいいか、といったことは考えるようにしています。ただ、そういった場面でいつも上手に振る舞えているわけではないので、少しずつ勉強しながらです。

――現場で気になることがあったときの、有村さんなりのアプローチはありますか?

何かあっても、30人、40人といる現場を自分一人で変えるのは難しいですし、誰かの協力が必要になります。そういうときは監督や、現場を一番俯瞰で見てくださっているプロデューサーさんに相談して、改善策を考えることが多いです。

――和歌子をみていると、「環境や状況次第では、自分もこうしてしまうかもしれない」と思えるリアリティを強く感じました。そういった部分を出すために演じながら意識していることはありますか?

やっぱり作品には説得力がないと、見てくださる方を戸惑わせてしまうので、和歌子だったら、なぜ金の密輸をしなければいけなかったのか、そこの背景をしっかり考えることを大切にしています。

――ご自身とはかけ離れた人物を演じるときは、どう役を理解していくのでしょうか?

今回で言えば、私だったら犯罪に手を染めるという選択は覚悟のいることですし、そこに飛び込む感覚は自分の中にはない部分なので、そういうところは誰かの経験をもらうようにしています。

――誰かの経験をもらう、というのは?

今は多くの方が、ご自身の経験をたくさん発信してくださっているので、それこそインタビュー記事になっていたり、動画コンテンツでお話しされていたり。そういったものをたくさん調べて、見て、もらっていくことが多いです。

――冒頭の「生きることに夢中になった」というモノローグが印象的でした。有村さんご自身が、特に演じながら感情を強く動かされたシーンはありますか?

空港の税関で並んでいる時に、子どものことを思って涙するシーンです。息子役の(吉里)紀汰くんと才真くんの2人が本当にかわいくて、いい子たちで、素直で頑張り屋さんだったんです。

何も知らないことの強さも持っていて、撮影外でもその子たちからたくさん学ぶことがありました。だから撮影終盤のほうに撮影したシーンでは、本当に彼らを思う感情に、素直に心が動かされました。

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人生を変えた大きな決断

――和歌子は、自分では想像していなかった選択をする人物として描かれています。有村さんご自身がこれまでを振り返って、「あの時は思い切ったな」と感じる決断はありますか?

大きな決断と言えば、事務所のオーディションに応募したことだと思います。

――それは、それまでのご自身からすると意外な決断だったんですか?

意外すぎました。それまで本当にそういったことに興味がなかったですし、お声がけいただいても「いやいや、自分なんて……」とお断りしていました。学校の発表会などでも、前に立って注目を浴びるのが嫌な人間でした。

でも、お芝居がしてみたいと思った瞬間に、自分から事務所のオーディションに応募していたので。それは180度違う行動でしたね。いま思い返してみてもあれは大胆だったなと思います。

――周りの方にも相談したりしなかったんですか?

誰にも言わなかったです。家族にはオーディション用の写真を撮ってもらうために伝えたのですが、友達にも言いませんでした。

――それだけ大きな方向転換だったにもかかわらず、迷いはなかったんですね?

お芝居をしてみたいと思った瞬間だったので、迷いはなかったです。それは自分でも思い切った行動だったと思います。

■有村架純
1993年2月13日生まれ、兵庫県出身。2010年に俳優デビュー。2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で注目を集め、2017年には『ひよっこ』でヒロインを務める。以降、『花束みたいな恋をした』『前科者』『月の満ち欠け』『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』など話題作に出演。 映画『さとこはいつも』(9月18日公開)の公開や、舞台『キュー』への出演を控えている。