NTT東日本と再春館製薬所は6月2日、アクアポニックスとICTによってオタネニンジン(高麗人参)のスマート栽培モデルを確立する実証実験を発表。オタネニンジンの安定供給と、従来活用されていなかった葉や茎の利用を通じたさらなる高付加価値化を目指す。
なぜオタネニンジンの国産化は難しいのか
高麗人参や朝鮮人参という名称で知られるオタネニンジンは、古くから高い滋養強壮作用、疲労回復効果が伝えられており、生薬として活用されてきた。近年は血流改善や冷え対策、美容効果なども発見されており、需要はさらに拡大。その市場規模は300億円の大台を突破しようとしている。
だが一方で、オタネニンジンの栽培難易度は非常に高い。土壌病害や土壌環境の劣化等が複合的に作用するため連作が極めて困難であり、国内の生産者はおろか、海外の生産者すら減少の一途を辿っている。現在、日本では約99%が輸入頼りだ。
そんななか、オタネニンジンの新たな栽培モデルを発表したのが、NTT東日本だ。同社は、水産養殖と水耕栽培を組み合わせた循環型農法「アクアポニックス」と最先端ICTの融合によるオタネニンジンの栽培を提案。
同時に、基礎化粧品「ドモホルンリンクル」や、漢方薬と医薬の知見を生かした「痛散湯」などで知られ、オタネニンジンの知見を持つ再春館製薬所とパートナーシップを組み、オタネニンジンの安定供給と高付加価値化を目指す。
AIとセンサーで最適環境を再現 アクアポニックス栽培の仕組み
NTT東日本は近年、一次産業への取り組みとして、IoTやAI、ロボットなどの先端技術を活用した新しい農業「アグリテック」への取り組みを加速している。その取り組みの中で培われた技術を応用したのが、アクアポニックスだ。
その特長は、魚の排泄物を微生物が分解し、それを植物が栄養分として吸収することで水が浄化されるという循環型農法という点にある。水耕栽培であるため土壌環境の悪化がなく、連作も見込める。
また、オタネニンジンの栽培は一般的に連作障害や病害虫を防ぐための農薬散布が欠かせないが、アクアポニックスは完全無農薬のオーガニックな農法であり、農薬散布で捨てられていた葉や茎まで含めた全草活用が可能になる。
だが、植物と魚は成長に適する温度帯や環境が異なり、両者にとって最適な環境を実現するのは容易ではない。この課題を解決するために用いられるのが、NTT東日本の先端ICTだ。
NTT東日本 営業戦略推進部 次長の佐藤文武氏は、「気温・湿度・照度センサーや二酸化炭素センサー、RC・水温・PH等センサーなどを用いて取得したデータをAIで分析し、本当にベストかつ再現性の高いアクアポニックスを実現し、オタネニンジンの生育管理を確立していきたい」と展望を述べる。
葉や茎も活用へ 再春館製薬所が期待する全草利用
一方、再春館製薬所は「自然の力を、人の力に」という漢方の理念のもと、漢方の知恵とサイエンスの融合をコアに据えたものづくりを行っている企業だ。現在はサステナビリティのネクストアクションとして「リジェネレーション」を掲げており、自然の「維持」から「再生(自己回復力)」を軸とした新製品の展開を進めている。
そんな再春館製薬所の主力製品に必ずと言って良いほど配合されているのがオタネニンジン。「ドモホルンリンクル」にも使用されている中国・長白山産の「長白参」は、同社基準において最高峰の素材と太鼓判を押す。
成分研究や加工技術への情熱も非常に高い。2026年には、高温加圧蒸気処理を用いて「紅参」にしたオタネニンジンから抽出されるエキスに「美白」「抗老化」「紫外線による細胞損傷の修復」などが認められ、特許を取得したという。
再春館製薬所 ポジティブエイジ統括本部 経営責任者 / 製造管理者の間地大輔氏は「創業以来、このオタネニンジンの計り知れない力に支えられてきた」と述べ、この実証実験への期待を語る。
「私たちの持つ技術や知見にNTT東日本さまのICTと環境制御を組み合わせることで、単なる安定供給以上の成果を期待しています。目指すのは、まさに“効果の拡張”です。今回の栽培モデルによって、地上部である葉や茎などの成分を安定化し活用できるようになれば、どの成分を上げていくかといった研究まで踏み込んでいけると考えています」(再春館製薬所 間地氏)
そして、「パートナーシップを通じて『リジェネレーション』の可能性を高め、明日が楽しみになる『ポジティブエイジ』という価値を創出していく」と話した。
NTT東日本に聞く オタネニンジンのスマート栽培の課題と将来像
アクアポニックスとICTを活用した栽培について、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 営業戦略推進担当 チーフ ビジネスコーディネーターの田中恵士氏に詳しくお話を伺ってみよう。田中氏は今回の実証実験においてプロジェクトマネージャーを担当している。
――なぜ実証実験の対象としてオタネニンジンを選んだのでしょうか。また、実証実験では何を検証するのでしょうか
オタネニンジンは国内需要が高い一方で、その多くを輸入に依存しています。また、連作障害を起こしやすく、国内での供給拡大が難しい作物でもあります。
そこで私たちは、アクアポニックスとICTを組み合わせることで、これまで克服が難しかった栽培課題の解決に挑戦したいと考えました。
実証実験では、温度や湿度、照度、水温、pHなどを各種センサーで取得し、AIを用いて生育状態との相関を分析します。高品質なオタネニンジンを育成するための最適条件を明らかにし、生育管理の再現性向上や品質の安定化につなげたいと考えています。
――現時点で見えている課題はありますか
オタネニンジンは栽培ノウハウの蓄積が限られており、教師データが不足しています。また、アクアポニックス自体も葉物野菜での活用が中心で、根菜類の栽培事例は多くありません。
そのため、栄養素や水温などの条件について、試行錯誤しながら検証を進めている段階です。
*――再春館製薬所との協業の意義と、今後の展望について教えてください
当社はICTや環境制御技術に強みを持ち、再春館製薬所さまはオタネニンジンに関する豊富な知見を持っています。
両社が連携することで、栽培から成分評価、活用方法までを一貫して検証できる点が大きな強みです。
将来的には、今回得られる知見を他の作物にも応用できる可能性があります。地域の特産魚や地場野菜を組み合わせたアクアポニックスなど、地域活性化への展開も考えられます。
オタネニンジンのような栽培が難しい作物のモデルを確立できれば、その可能性は大きく広がります。日本発の技術として世界に発信できるよう取り組んでいきたいと思います。
日本では農業の担い手不足が続いている。これに対応するためには、ひとりあたりの作地面積を大きくすることと、単位当たりの収量を上げることを掛け算するしかない。
だからこそNTT東日本は、ICTを活用して持続可能な農業への取り組みを進めており、今回の取り組みもそういった文脈の中に位置づけられるものだ。日本の農業分野における新たなモデルケースが生まれることを期待したい。











