ここで本屋のシーンに戻る。店主は日山流星に何かを告げ、そのあと、こっそりと怪文書の入った封筒を引き出しから取り出す。

新座値利は「転落死した」と報じられている。しかし、ザネリが『銀河鉄道の夜』で命を落とさず生き延びた存在であることを踏まえると、この符合は単なる名前遊びでは終わらない可能性が出てくる。

もし新座値利が、何らかの形で生きている、あるいは死を偽装しているとすれば――第1話の前提そのものが反転する。「あなたが殺した」という告発文が指していた死は、実際には起きていなかった、ということになるからだ。

そして本屋の店主が握っている怪文書の入った封筒。これは、おそらく第1話で鷹臣のもとに届いた告発文と同じ出自を持つもの、あるいはその「続き」にあたるものだろう。店主が誰にも明かさず、引き出しの封筒を確認する――この構図は、「真実を知る者」と「真実を知らされる者」の関係を静かに描いている。

『銀河鉄道の夜』において、ザネリが生き延びたことには重要な意味がある。カムパネルラの自己犠牲は、ザネリという「いじめっ子」「対立者」のためになされた。敵か味方かという区別を超えて、ただ「目の前で困っている人を助ける」という行為こそが、賢治が描いた「ほんとうの幸い」の核心だった。

もし新座値利=ザネリが生きているなら、それは「誰かが彼のために何かを犠牲にした」ことを意味する。その「誰か」とは、誰なのか。

第1話で、鷹臣は「あなたが殺した」と告発された。しかし、もしその死そのものが存在しないか、あるいは別の形で処理されたものだとすれば――鷹臣自身が「殺した」のではなく、むしろ「誰かを生かすために、何かを犠牲にした」側だったという可能性すら出てくる。茉莉がこれまで信じてきた「父は悪人だ」という構図が、最終盤で大きく揺らぐ展開が待っているのかもしれない。

告示日直前に置かれた、もう一つの「旅の始まり」

第9話は、白鳥光留の場面に象徴されるように、選挙という旅の「出発前夜」だった。『銀河鉄道の夜』で白鳥の停車場が、嵐の前の静かな確認の場であったように、この回もまた、本格的な選挙戦という試練に向かう前の、最後の準備の回として描かれている。

しかしその裏側で、もう一つの「旅」――新座値利=ザネリという人物をめぐる、もう一つの真実への旅――が、静かに動き出している。本屋の店主が握る封筒は、おそらく今後、誰かの手に渡ることになるだろう。それが誰の手に渡り、何を明らかにするのか。

賢治が『銀河鉄道の夜』で問い続けた「ほんとうの幸い」。そして第3話のラストで、あかりが語った「自分のまま、明るい方向へ向かえる世界」。これらの問いに対する答えは、選挙という表舞台だけでなく、この「もう一つの真実」が明らかになることで、初めて完成するのかもしれない。

告示日、いよいよ選挙戦が始まる。だがこのドラマには、もう一つの「始まり」が、すでに静かに仕込まれている。

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