
YOASOBIのコンポーザー、ボカロPとして成長をし続けるAyaseが、ソロEP『dialogue』を発表した。全曲ノンタイアップ、自ら作詞・作曲・編曲・歌唱まで手がけた5曲には、ライブハウスで声を振り絞っていた10代の記憶、ボカロとの出会い、そしてYOASOBIで想像を超える景色を見てきた今のAyaseだからこそ歌える言葉がある。取材翌日に公開された「うるさ」MVでは、匿名社会の視線とノイズをコミカルかつ鋭利に可視化。なぜ今、ここまでむき出しの姿を世界に見せようとしたのか。Ayaseの現在地を聞いた。
書きたいものを書いた先に、”対話”というテーマがあった
ー『dialogue』はどういうマインドから始まったんですか?
Ayase:本当に、ここからソロを本格的にやっていこうという皮切りの一枚なので。今までもソロをちょこちょことは出していたんですけど、1年、2年に1曲とか、タイアップをいただいたタイミングでお仕事として受けることが多かったんです。でも、ちゃんと自分が自分のために歌いたいものとして作品を作る、みたいなことは、YOASOBIを始めてから初ぐらいのことだったので。
まず一旦すごくシンプルに、書きたいものを書こうという気持ちで書きました。最終的に『dialogue』、”対話”というテーマに結びついたのも、そのテーマで書こうと決めたというより、集まった曲たちすべてに共通するテーマが”対話”だった、という感じなんですよね。今自分が感じている気持ちから、そのまま直結して生まれた楽曲たちを5曲集めたという感じです。
ーYOASOBIやタイアップありきのソロ曲とは、湧き出てくる場所が違った?
Ayase:そうですね。YOASOBIは、お話をいただいてから制作する楽曲が基本的に多いので、もちろん自分が今作りたいサウンドや言いたいメッセージは込めつつも、最初にあるのは、いい意味で「皆がめっちゃ喜んでくれる曲を作りたい」ということだったりするんです。出されたお題に対して120点以上を叩き出して信頼を得る、みたいなところにゲーム性のようなものも感じているし、それが楽しい。自分を核に持ちつつも、ある種コスプレしている感覚もあるというか。
でも、このEPはそれとはまったく別です。誰から求められてやっているわけでもないし、やらなくてもいいことだし。ただ自分がやりたいからやった。やりたいことだけをやった、という感じですね。
ーサウンドにも、これまでとは違う剥き出し感があると思いました。
Ayase:トラック数がめっちゃ少ないです。使っている楽器とか音の数は、YOASOBIに比べると全部半分以下ぐらい。今回は速度を大事にしたかったんです。今思って、今書いて、今歌ったこれをすぐ出したいから、「こう聴かれたい」とか「こういうギミックを入れよう」と考えている時間がもったいないなと思った。編曲にあまり時間をかけず、かなり”録って出し”っぽく作りました。それをやったらどうなるかという実験でもありましたね。
ーEPに収録された5曲は、どういう流れでできたんですか?
Ayase:ソロを本格的にやろうと決めた日の夜に、バーッと思い浮かんだものをザーッとデモにして、4曲がその時点で上がったんです。ツアー中だったのでホテルにいて、有線イヤホンをパソコンに挿して、そのマイクでデモを録りました。その4曲をまとめたEPにして、Ayaseという一人のミュージシャンとしての歴史の一つ目にしようと思った。そこからもう一つ作りたいものができて、5曲になった形ですね。
ー”曲が降りてきた”という感覚に近い?
Ayase:降ってきたというより、にじみ出てきた感じですね。俺、自分のソロを自分で本当に歌いたかったんだな、と自覚した日の夜だったんです。その自覚をしたからには絶対にやらないと、自分は人生で後悔するだろうと思った。自覚と決意が同時に発生した瞬間に、「じゃあどんな歌か」と思ったら、すでにあった。じわーっとメロディやリズムで出てきたものを拾い集める感じでした。
ー今回の作品は、Ayaseさんの初期衝動や原点が凝縮されているように感じました。
Ayase:そうですね。「Ayaseってどんな人間かというと、こんな感じです」という名刺代わりのものにはなったかなと思います。
Photo by Kazuki Iwabuchi, Visual Direction by Keita Sasaki, Styling by Iori Yamaki, Hair & Make-up by KATO
ライブハウスで叫んでいた自分と、ようやく地続きになった
ーその”初期衝動”という意味では、Ayaseさんの出発点はライブハウスだったと思います。16歳でバンドを始め、9年間ライブハウスで活動していた経験は、今のソロにもつながっていますか?
Ayase:めちゃめちゃつながっていますね。同じ一人の人間なので、別々というものでは絶対にないんですけど、YOASOBIの方がどちらかというと夢のような状態というか。地続きであることに間違いはないし、地に足は着いているけど、バンド時代の自分とYOASOBIって、つながっているところもあるけど、少し浮いている感じもあったんです。
YOASOBIを本気でやっていると、あの頃のバンド時代の自分が本当に今の自分の過去な気がしない瞬間がある。そこを確認できるのって年齢しかないぐらいで。「歳は確実に食っているから、間違いなく自分だよね」と思える、みたいな。でもこのEPを作って、ソロとしての再出発を決めたとき、ようやくバンドを辞めたあの瞬間と今がピタッとくっついた感じがしたんです。YOASOBIがなくなったわけではないけど、タイムスリップするように、やっとあの続きに戻った。個人的には一番、地続きを感じています。
ーこのタイミングだったことにも、必然性を感じますか?
Ayase:すごく感じます。今のYOASOBIの社会的な立ち位置だったり、与えられている影響だったり、自分たちがYOASOBIをやる上で感じていることだったり、そういうピースが今揃っている。今の状態じゃないと、多分やろうと思わなかっただろうし、やろうと決めても、ここまでちゃんとEPを作ることはできなかったと思います。
もちろん、もっと早く始めた方がよかったと思うこともあります。YOASOBIを始めた時点から本気でソロもやっていれば、ソロとしても7年目ぐらいになっていたのかな、もっと大きい結果を出せていたのかな、とか。でも多分、必然でここだったんだろうなと思いますね。あの当時にはうまくやれていなかっただろうし。
ー10代でバンドを始めたとき、一番大きかった衝動は何だったんですか?
Ayase:あれは本当に、ザ・衝動ですよね。エネルギーのままに、というか。YOASOBIのレコーディングで10〜20代前半の若い子たちと一緒に合唱をレコーディングする現場があったんです。そこで久しぶりに普段出会うことの少ない若い世代と接したら、みんなずっと動いているんですよね。人に話しかけるときもちょっと跳ねているみたいな。エネルギーがヤバい、と思って(笑)。
あれが僕にも絶対あったと思うんです。動いていないと済まないぐらい、内包しているエネルギーの爆発力がすごかったんでしょうね。僕は明確に音楽がやりたいというのだけは決まっていたから、すごくシンプルにそこへドーンと衝動を乗せることができた。自分の体が成長するとともに蓄えてきたエネルギーの放出先として、これ以上ないものがバンドだったんです。
ーそのときの感情でいうと?
Ayase:希望でしょうね。自分に自信しかなかったし、世の中に対しても、音楽業界に対しても、知らないがゆえにすごく希望を持っていた。この才能、この自信と、当時のバンドメンバーたちのポテンシャルを持って突き進んでいけば、必ず日本を席巻できるバンドになれると思っていた。未来に対しては期待しかしていなかったですね。
ー当時の自分を今見ると、どう感じますか?
Ayase:やっぱりエネルギーあるなと思います。カッコいいな、とも思う。その瞬間瞬間で、爆発的なものをバッと出せている感じがするので。今はそれを出すべきとき、出さないときを選ぶようになっている。でも当時は、関係なく全部に対して出していたから、人ともいっぱい喧嘩するし、大人たちともいっぱい揉めるし、常に揉め事の渦中にありました。
でも、そうやって喧嘩できたことで得た経験もあるし、その後に良くしてくれた人たちとの関わりもあった。大きく世界や世間に中指を立てるのって、ミュージシャンは意外と簡単ですけど、個人に対してしっかり中指を立てたり、その責任を取ることって、みんな避けちゃう。でもそういう姿勢も大切だよね、と過去の自分から教えられます。

Photo by Kazuki Iwabuchi, Visual Direction by Keita Sasaki, Styling by Iori Yamaki, Hair & Make-up by KATO
ー山口県のローカルなシーンで活動していたことも大きかった?
Ayase:素晴らしかったと思います。都会生まれの人に憧れたりはするんですけど、自分は田舎で育ってよかった。あのシーンじゃなかったら、こうはなっていない気がします。
一番最初の作曲や、バンドをどうしていくかを想像するきっかけって、音楽が好きだったから、という”体験”ももちろんあるんですよ。音楽番組で聴いたとか、ORANGE RANGEのCDを買ったとか。でも、何もなかったことも大きかった。遊ぶ場所が本当になくて、高校の隣にあったカラオケ屋さん以外だと、空き地みたいなところに集まって、夜な夜な友達と夢のことを語るぐらいしかなかった。
何もないけど、空は広いし、山も景色も広くて、この先にはいろんなものがあるーーあのまっさらな感じが、希望に直結していたと思うんです。僕はわりと物事を俯瞰して見る方だし、ロジックで考える方なので、若いときから東京にいたら、いろんなことが分かりすぎて諦めていた可能性もある。もっと冷ややかに、否定的に生きていたかもしれない。ああいう広大な、何もないフィールドにポンと生まれたから、希望とか平和とかを真剣に言えるようになったんだと思います。
ボカロは”再出発”であり、新しい自分のアカウントだった
ーいい話ですね。その後、体調を崩して入院し、ボカロを始めた。そこにはどんな心境がありましたか?
Ayase:再出発的な衝動はありましたね。新たな人生を始める感覚は強かったです。ただ、当時はボカロを始めるからバンドを辞めるという選択をしていたわけではなくて、活動休止していただけで、またバンドを復活させる予定だったんです。むしろボカロPとして名を上げることができれば、バンドが復活したときに集客につながるんじゃないかという、打算的な意味合いもありました。別の自分、もう一人の自分を立てて新しいことを始める。新しいアカウントを作るワクワクに近かったですね。やってみたら思いのほかハマったんですけど。
ー希望と同時に不安もあった?
Ayase:ありました。その時点で活動している他のボカロPの人たちの楽曲は、今聴いてもすごくクオリティが高いし、音質やミックスの技術もすごかった。自分はまだその域に達していないと自覚していました。メロディや楽曲を生み出すセンスは誰にも負けていないと思いつつ、ミックスするとか、綺麗な音を作るとか、初音ミクを綺麗に調整するとかは技術の問題なので、そこは足りていない。実際に出したときにどう評価されるかは、出してみないとわからない不安がありました。

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ー音楽的な引き出しも、ボカロによって広がった?
Ayase:そうですね。一番最初に作った曲は、バンド時代と何も変わらないぐらいバンドの曲でした。でもそこから、いわゆるポップスに対してド直球にチャレンジしてみようと思えた。それは、ミクの声に想像以上にハマったことが大きいです。すごく可愛いと思ったし、もともとアニメやサブカルチャーが好きだったから、この歌姫を可愛く上手に歌わせたい、という気持ちが出てきた。そこでプロデューサー的な意識ができたんです。
自分が歌わないことが大きかったんでしょうね。バンドのときは自分が歌うことを想定して作っているけど、ミクが歌う上で何が一番カッコいいか、可愛いかを考えていったら、必然的に僕のボカロ曲にあるような、ちょっとクラブミュージックっぽいサウンドだったり、ダークなテイストの中にポップさがあるものに落ち着いていった。それはミクに触れないとたどらなかった変遷だと思うし、そのプロデュース的な意識がYOASOBIにもつながっている。めちゃめちゃ大事な経験ですね。
ーラウド系のバンドとボカロ/ネットカルチャーの間には、当時まだ距離はあったように思います。
Ayase:その頃、妹の影響でボカロや歌い手さんのカルチャーに触れる機会があったんです。そのとき、自分が身を置いてきたライブハウスの価値観とはまったく違う熱量や盛り上がりを目の当たりにして、すごく衝撃を受けたんですよね。自分の周りには、めちゃくちゃいい曲を書いて、いい歌を歌って、死ぬ気でバイトしながらライブハウスで頑張っている先輩や友達がいっぱいいる。でも一方で、ネットを起点にした別のシーンでは、まったく違う方法で大きな場所に人を集めていた。
それを見て、「バンド、何やってんだ」と思ったんです。クオリティとか実力だけじゃなくて、プロモーションや届け方の違いがここまで結果を変えるんだ、と。もちろんカルチャーの違いはあるけど、いい歌を書けて、いいライブができる人たちが届いていないのはなぜなんだろう、と。自分がボカロをやっていく中で、ちゃんとバンドの魂を持って世の中に音を表明していけば、最終的にバンドのシーンにも還元できるんじゃないかと思ったんです。
その意味では本当にカルチャーショックでした。自分が守ってきた場所、本当にシーンのことを思うなら、うまくネットを使うことも必要だなと気づいた。無骨さがカルチャーに紐づいていてカッコいい、というのはあるけど、食っていけないと続けていけない。現実を受け入れるプライドも時には必要だ、というのは感じましたね。

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「日本で1位を獲った」その先で、夢は終わらなかった
ーそこからボカロPとして活動し、YOASOBIが始まっていく。YOASOBIでのキャリアは、それまでと比べてどういう時間でしたか?
Ayase:YOASOBIをやって、人間の欲深さを改めて知ったというか。バンドをやっていたとき、東京ドームでワンマンすることなんて目標にすらしていなかった。紅白も、すごいとは思っていたけど、出たいと思っていたわけではなかった。ただ、カッコいいライブをして、カッコいいロックスターになるんだ、みたいな漠然としたものしかなかったんです。でもYOASOBIでは、「紅白に出よう」「東京ドームをやろう」「コーチェラに出よう」「グラミーを獲ろう」という、具体性のある目標が外から入ってくるようになった。それを自分の夢に変えて努力していると、本当に自分の夢になっていく。そういう積み重ねでした。
ただ、「アイドル」という楽曲が出て、ある種結果として、日本で1位を獲ったという実感が湧いたときに、達成感と同時にすごく燃え尽きたんです。一回完全に燃え尽きちゃって。PaleduskのDAIDAIとも、お互い同じタイミングでそういう話をしていました。彼も憧れていたONE OK ROCKやブリング・ミー・ザ・ホライズン(Bring Me The Horizon)と仕事をして、いろいろ夢が叶いすぎて、気持ちが燃え尽きていた。「どう乗り越えていいかわからないけど、Ayaseはそういうのある?」と言われて、「ちょうど今、俺も燃え尽きている」と。
でも1年ぐらいかけて、他のアーティストの曲が流行っていたり、自分がカッコいいと思う楽曲が出てきたりするのを聴いて、やっぱりちゃんと嫉妬したんです。一つ目標を達成できたけど、全然通過点でしかなかった。コーチェラのメインステージを取れていない、ワールドスタジアムツアーを回っていない、グラミーを獲っていない。全部やらなきゃ、と思って。先々に目標を立てることで回復しました。夢は終わらないというか、次から次へとまだ叶えたいものが出てくる。それが、なんて欲深くて、かつ幸せな人生なんだろうと思わせてもらいましたね。YOASOBIでは、前人未到みたいなことをどんどんやっていきたいと強く思っています。
ー今年4月、国立競技場でONE OK ROCKと共演したことも、バンド時代からの地続き感があった?
Ayase:ありましたね。大先輩であるONE OK ROCKのステージに僕らが出させてもらって、Paleduskもフィーチャリングで参加していて。ステージ袖でDAIDAIとKAITOに会ったとき、3人してガチエモになっちゃったんです。16歳ぐらいからの友達が、なんで今、国立競技場の舞台裏で、ずっと憧れていたワンオク先輩に呼んでもらって、6万人を相手に沸かせているんだろうって。
DAIDAIが「人生のフィクション値がフルテンになっとるけん、ちょっと下げんとリアルじゃなくなっちゃう」みたいなことを言っていて(笑)。でも、それだけ頑張ってきた自負があるから堂々とステージに立てる。ライブハウスでずっとやってきた下積みがないと、ぽっと出で取ってつけたようにはあのステージに上がれなかったと思うんです。あの瞬間はYOASOBIだったけど、ちゃんとDavinciというバンドをやっていた自分がここに到達した感覚がありました。
声だけでどこまで戦えるのか
ーここからは『dialogue』の楽曲ごとに聞かせてください。まず「うるさ」は、これまでのAyaseさんのソロ曲とは違う印象がありました。
Ayase:一旦、声だけで戦う曲を作ってみたかったんです。これもトラック数が本当に少ない。パーカッション類とベースと、アクセントになる音が少しあるぐらい。リズムとベースと歌だけで、今の俺がどのぐらい戦えるのかを知りたかった。昔から「いい声しているよね」と褒めてもらえることがあって、バンド時代はそれを武器にしていた。でもそこから10年以上経っているし、ブランクもある。今の自分が声を主軸にした楽曲を作ったとき、どのぐらい戦えるものなのか。それを測るための指標になる曲を一曲作りたかったんです。
「うるさ」はタイトルも歌詞も、いわゆるSNS批評のような曲なので、メッセージ性が強く感じられがちなんですけど、このメッセージが歌いたかったというより、この音がやりたかった。歌詞はわりと後付けです。そのとき一番、世間に対して”うるさ”と思っていたから、そのままはめたという感じ。衝動的ではありつつ、実験的な曲ですね。
ー自分の声に対する試行錯誤もあった?
Ayase:声に迷っているんですよね、まだ多分。歌を歌うのが久しぶりすぎて、自分の歌の本質がどこにあるのかを、正直まだつかみきれていない。この5曲をレコーディングする中で、ようやく少し見えてきた感じです。どれがAyaseの声なんだろう、という。声を作るという意味ではなく、自分の理想とする声質や歌い回しがどこにあるのかが、まだ定まっていない。ボーカリストとしてはまだ赤ちゃんだと思います。
だからレコーディングも全部自分でやりました。自分のスタジオのボーカルブースにパソコンを持って入って、マイクも自分で買ったものでセットアップして、録って、データを精査して。自分の歌を改めて深掘りするいい時間になりました。レコーディングの数がアーティストの実力を育てるなと思いましたね。もっと録る機会を増やさなきゃいけない。思いついたら作る、作れたら録る、録ったら出す。ソロではそういう速度感を大事にしたいです。

Photo by Kazuki Iwabuchi, Visual Direction by Keita Sasaki, Styling by Iori Yamaki, Hair & Make-up by KATO
ー「bad therapy」は、ドラムンベース的なビートの質感でありながら、クラブというより部屋で一人で聴く音楽という印象がありました。
Ayase:まさしくですね。閉鎖的な空間から宇宙を感じてほしい、というのが今の僕のモチベーションなんです。狭いところに閉じこもって、広いものを感じる。それは僕の原体験でもあります。ボカロをやっていたときも、お金はないけど時間だけはあって、パソコンの前で夜な夜な一人で、いつかこの楽曲が世界に広がってくれることを想像しながら作っていた。まさにベッドルームミュージック的な原体験ですよね。あの時間は今でもすごくワクワクするし、夢があると思うんです。
外に出て人に会うことも世界とコネクトしている瞬間だけど、一人でデスクトップに向かって、本気で世界や社会や人について考えている瞬間こそ、一番世界とつながっているんじゃないかという感覚がある。小さいところから、うわっと広がっていく。そのドラマを音として表したい。「bad therapy」もそうだし、「PLANETS」もそう。自分一人の耳の中で宇宙を感じてほしい、というサウンドメイクを全体的にしていますね。
ー「火花」は、先ほどインタビューで語っていただいた衝動ともつながる曲だと思います。
Ayase:一番ストレートな曲ですね。自分が歌いたいと気づいて、ソロをやるぞと決めた瞬間に、火花がジリジリって散った感覚があったんです。人生のターニングポイントを感じたし、出会いも感じた。そのままバーッと作りました。全楽曲の中で一番最初に作った曲で、これを作ったことによって他も作れた感じがある。すごく大事な曲です。
ここまで抽象度の高い歌詞って、YOASOBIではやらないし、今までもやってこなかった。でもこれは、解像度を上げる必要がないと思ったんです。自分が身体と心の内で感じ取った、「火花が走ったように感じた」という感覚をそのまま歌詞にするのが、この曲においてはベストだと思いました。
ー〈いつか殺した僕の心臓が脈を打つ〉という一行も、これまでの歩みと重なります。
Ayase:〈殺した自分〉は、バンドというより、どちらかというとYOASOBIを始めたことに近いです。YOASOBIを始めることで、ソロを、歌うことを諦めた。歌う自分を殺した、というところが近い。もちろんバンドを辞めたことにも近いですけど。そういうことも含めて、素直に書いているけど、抽象度が高い衝動を含めた曲ですね。
過去を消さずに、現在を一番の思い出に変える
ータイトル曲「dialogue」は、5曲の中で一番ロック的で、明るいムードもあります。最後にこの曲を置いた理由は?
Ayase:この曲を「dialogue」というタイトルでやっていくと決めていたわけではないんです。フレーズとメロディが最初に思い浮かんで、曲を作っていく中で、このEPを作るに至った自分の心境の変化や、バンド時代も含めたミュージシャンとしての歴史を振り返っている感じがした。ただ、振り返れば振り返るほど、どんな経験をしても、どうしてもバンドをやっていた時代の思い出に勝てないんですよね。実績や結果は今の方が圧倒的にある。でも、今振り返ったときに輝かしく見えてしまうものとしては、どうしてもバンド時代に勝てない。
それって、大人が「あの頃は良かったよな」と青春時代を超えられないままでいる感覚でもあると思うんです。今が一番に決まっているじゃん、と自信を持って言いたいけど、僕の場合は、自分のボーカリストとしての道を一回諦めている経験があるから、あのとき本気でやりたいことに一直線だったことがどうしても美しく見えてしまう。
でも、その過去を消したいわけではないし、絶対に大事にしたい。その上で、今を、あの当時の輝きを超えるほどの思い出に変えていくためには、どういうマインドでいなきゃいけないのか。それを考えたとき、今の自分が納得できることをちゃんと形として残していくしかないと思ったんです。だから〈Ill never forget this song.〉という言葉もそうですけど、今ここに残すよ、という曲ですね。
ーソロとしてライブをするイメージはありますか?
Ayase:ありますね。妄想してしまいます。YOASOBIだけをやっていたときから想像はしていたけど、より具体的になりました。ただ、YOASOBIもAyaseのソロも、100%と100%、いずれも完璧に全力を尽くしたと言い切れる状態で活動し続けたいタイプなので、スケジュールのパズルは必要になる。今すぐ年内にライブを、という感じではないし、物理的にも難しいと思います。でも必ずやるだろうなとは思っています。いいタイミングがまた巡り合わせ的に来ると思う。

Photo by Kazuki Iwabuchi, Visual Direction by Keita Sasaki, Styling by Iori Yamaki, Hair & Make-up by KATO
ーぜひ見たいです。
Ayase:頑張ります。でも本当に、どのぐらいステージで歌えるのかわからない。体力をつけなきゃなって。ikuraさんはすごくちゃんと準備するんですよ。ボイトレもめちゃめちゃやるし、練習もする。でも僕は本当に練習とか準備が嫌いなんです(笑)。やれよって話なんですけど。努力できるかな、俺。
ー等身大の良さ、っていうのもあると思います。
Ayase:そうですね。なので、いつかはきっとやると思います。

1st EP『dialogue』
Ayase
配信中
【Track List】
01. PLANETS
02. うるさ
03. bad therapy
04. 火花
05. dialogue
