- インドネシアのFTTH市場には大きな伸びしろがある
- NTT東日本はこの市場に低価格・地方展開で取り組み、通信格差の解消に貢献している
- 海外事業はNTT東日本の人材育成にも寄与している
NTT東日本といえば、日本国内の東日本エリアにおいて電話やインターネットなどの通信を担う会社というのが多くの方のイメージでしょう。しかしNTT東日本は日本国内だけでなく、海外でも事業を展開しています。
そんな同社の海外事業のひとつが、インドネシアにおけるFTTH(Fiber To The Home)事業です。今回は、NTT東日本がインドネシアでFTTH事業に取り組む背景や、現地で直面している課題、そして通信インフラが教育や地域社会にもたらす変化について、この事業を担当するNTT東日本 グローバルビジネス推進室長の日下玲央氏に話を聞きました。
停滞する日本に対して、伸びしろのあるインドネシアのFTTH事業
国内の通信インフラで最も大きなシェアを持つNTT東日本がなぜ、インドネシアのFTTH事業に投資をするのでしょうか。その背景には日本とインドネシアの両国における、FTTHの伸びしろの違いがあります。
「日本国内のFTTH市場はすでに成熟段階へ入っています。光回線の普及率は高く、ここからの新規契約数の大幅な伸びは期待できない状況です。それに対して、インドネシアは人口およそ2.8億人/9,000万世帯の中で、FTTHを導入している世帯数は1000万世帯ほど。まだまだ新規契約の伸びしろがあります」(日下氏)
日本に暮らしていると家庭用のインターネット回線は当たり前の存在ですが、インドネシアではまだまだ富裕層など限られた人しか利用できない状況にあるそうです。
「普及が進まない理由はインドネシアの月収にもあります。平均的な給与水準は日本円にすると3~5万円程度。既存のFTTH事業・サービスは富裕層向けがほとんどで、費用は月額3,000円以上と高額で、普及の足かせになっています。
さらにFTTHが整備されているエリアも都市部に限定され、地方では家庭用のインターネット回線を引き込むことが難しいという状況も、普及の足かせになっています」(日下氏)
そこでNTT東日本では、現地の新興FTTH事業者であるWEAVEに出資を行い、同社が取り組みを進める低価格かつ地方へのFTTH事業の支援に取り組むことにしたそうです。
既存サービスより大幅に安く、広いエリアにFTTHサービスを提供
WEAVEが現在進めているFTTH事業の特徴は、インドネシアの既存のFTTH事業と比べ大幅に安い「月額1,000円」という価格です。さらに都市部だけでなく、既存のサービスが提供されていない地方にもエリアを広げています。
富裕層だけを対象とせず月額料金を既存サービスの3分の1程度に設定し、さらに地方に新規のFTTHインフラを整備してサービスを提供するとなると、そこで利益を出すのは難しいように思えます。しかしそこには、しっかり利益を見込めるビジネスモデルがあります。
「WEAVEのFTTHは、既存の鉄道網に沿うように敷設を行っています。そのため新規に電柱を立てるといったコストを大幅に下げることが可能です。また対象となるエリアでは一軒一軒に営業をかけるのではなく、町内会長や村長といった地域に影響力を持つ層に営業をかけることで、地域一括で導入してもらい、契約者数をまとめて伸ばすようにしています」(日下氏)
「また工事を行う担当者も、日本では『開通工事にいくら』『修理対応にいくら』といった形で支払いを行っていますが、WEAVEのFTTH事業では営業による契約獲得から工事・保守までを一貫してお願いし、獲得した契約者の利用料の20%を永続的に支払うレベニューシェア方式を採用しています。レベニューシェア方式では、修理が発生すると余計なコストがかかって損をしますから、営業や工事のクオリティもあがります」(日下氏)
このように日本とは異なる文化に合わせた営業手法とビジネスモデルが、まだまだ伸びしろのあるインドネシアのFTTH事業の成長を加速し、投資効果が得られると考えられるのだそうです。
現地のスマホ利用状況/教育環境もFTTH事業の後押しになっている
FTTHの普及率の低いインドネシアですが、スマートフォンは普及しているそうです。そして、その利用状況や契約状況も、今回NTT東日本がWEAVEへの出資を後押しすることを決めた理由になっているといいます。
「インドネシアのスマートフォンはポストペイド方式ではなくプリペイド方式で、事前にチャージして使うのが一般的です。そしてInstagramのようなデータ通信量の多いアプリを利用していると、モバイルの通信料金を追加で支払うことになります。一方、家で定額制の固定ブロードバンドのWi-Fiを使いたくても、高すぎて使えない人が多いというのがインドネシアの富裕層エリア以外の状況でした」(日下氏)
「また、FTTHの普及率が低い中でも、教育にタブレットやスマートフォンを活用するICT教育の取り組みは盛んで、そこにギャップが存在します。Zoomのようなビデオ通話も利用されており、高速で安定した回線を求める声は大きく、我々が出資してWEAVEが地方に高速なFTTHを敷設したことで、教育環境が改善したといったうれしいお声もいただいています」(日下氏)
スマートフォンがあっても満足に通信が行えない、学校教育でインターネットが活用されるにもかかわらず通信品質がよくないという状況は、インドネシアにおけるデジタルディバイドを産んでいました。これを解決することが「社会貢献につながる」というのも、NTT東日本がインドネシアにおけるFTTH事業に力を入れる理由になっています。
教育や研修の面でもWEAVEを支援
このようにWEAVEに対して出資を行い、その事業をサポートしているNTT東日本ですが、資金以外の面でも同社のFTTH事業を支える支援を行っています。それは教育や研修です。
「日本とは違って、インドネシアでは、同じ場所に電柱が何本も立っていたり、電線などケーブルがまるで蛇がとぐろを巻いているかのように複雑に絡み合っていたり、ひどい場所では歩行者の首にかかりそうな高さまで垂れ下がっていたりします」(日下氏)
FTTH網を張り巡らせるのに必要な電柱の設置状況が日本よりもかなり劣悪な状態にあり、「過去の一般的なインドネシアの通信工事を見ると、安全な作業手順が身についていないために、電柱での感電死や落下死も見られました。機器やケーブルなどの故障の発生率は月間で約9%で、お客様目線では通信サービスが使えないことが年1回以上あるほど高頻度でした。とにかく、安全や安心とはかけ離れていました」(日下氏)という状況だったそうです。
そこでNTT東日本は日本から技術者を派遣し、現地に研修センターを建て、NTT東日本の工事や運用のノウハウを現地技術者に伝え、教育を行っています。研修センターでは座学を行うだけでなく、実際に電柱をセンター内に建ててFTTHのケーブルを敷設するような研修も行っています。
このケーブル敷設の際にも、ただ漫然と作業するのではなく、脚立の立て方や、落下防止のために車のタイヤのゴムを滑り止めに使ってコストを下げながら安全確保するといった工夫についても教えているそうです。
研修にあたっては言葉や文化の壁があるようですが、画像や動画を多用した教材やマニュアルを用意し、実技までチェックを行ってから技術者を現地に送り出すことで、安全と品質の両方が向上するよう努めているとのことです。
インドネシア国民の平均年齢は30代前半。人口は日本の2倍以上で、働き口を探している人も多いそうです。現在、WEAVE/NTT東日本は首都ジャカルタを中心として郊外へエリアを広げていますが、さらにエリアを拡大していく中でFTTHの営業や工事を行う人材はもっと必要になります。NTT東日本では、この事業によって同国の就業率や収入が改善されることも、社会貢献になりえると考えているそうです。
将来的に目指すのは1,000万契約
このようにインドネシアのFTTH事業は、同国のインターネット環境を大きく改善すると共に、すでに存在する需要に応えるかたちで急成長が見込まれる事業になっています。
WEAVEのFTTH事業は2023年にサービス提供を開始して以降、契約者数が順調に増加し、当初の予定を上回るペースで100万契約を突破しているそうです。将来的には1,000万契約を目標としており、それを達成すれば、NTT東日本の純利益の10%以上(Weave49%出資の持分法純利益)を占める一大事業に成長すると見込まれているそうです
「1,000万契約という目標に対し、スタートしたばかりの今だからこそ、1,000万契約やそれ以上に耐えられる品質や技術を育て、準備しておく必要がある」(日下氏)と、同事業への投資が将来的に今以上に実るよう、今後も積極的な支援・投資を続けていく方針です。
インドネシアのFTTH事業は国内技術者の経験の場ともなる
ここまで、インドネシアにおけるFTTH事業への投資は、NTT東日本として利益を期待できるものであり、社会貢献にもなっているという話でした。しかしこの事業にはNTT東日本の人材育成にもメリットがあると日下氏は言います。
「日本国内はすでにFTTHインフラの整備が完了しているため、若手の技術者がゼロから大規模ネットワークを構築する経験を積むことができなくなっています。その点、インドネシアではエリア設計・設備構築・工事マネジメントなど、大規模な構築を実践できるため、日本ではできない経験を積むことができる場になっています」(日下氏)
将来的に日本から失われてしまうかもしれない技術や経験を、インドネシアでのFTTHインフラ整備を通じて継承できることも、本事業のメリットになっているというわけです。
日本型インフラの輸出というと、これまでは鉄道などがよく例に挙がりました。日本の鉄道は車両・管制システムなどが優秀で、新興国の交通インフラとして採用された例がたくさんあります。
日本の通信インフラも世界的に見るとかなり高度なものであり、品質や速度も高く評価されています。この評価の背景には、高い技術とそれを伝えていく教育のノウハウがあります。新興国では高速なFTTH網によるインターネットインフラの構築と普及は大きな課題になっており、新たな日本型インフラの輸出の形となる可能性があります。NTT東日本がインドネシアで進めるFTTH事業は、その先行例として、今後も目が離せない注目の事業といえるでしょう。






