大正製薬は5月25日、「熱中症対策」に関する調査結果を発表した。調査は2006年4月、全国の工場や建設現場などの暑熱環境で働く20代~60代の263名を対象にインターネットで行われた。

暑熱環境で働く人の約半数が「朝食を欠食」

  • 熱中症対策でこころがけていることは何ですか?

    熱中症対策でこころがけていることは何ですか?

調査の結果、「熱中症対策でこころがけていること」について、約7割が「こまめに水分補給をする」と回答した。次いで、「エアコン・扇風機を使用する」(89人)、「十分な睡眠をとる」(85人)、「食事をしっかりとる(朝食を含む1日3食)」(73人)、「のどが渇く前に飲むようにしている」(70人)が続いた。

暑熱環境で働く人は大量に発汗するため、そうではない人以上に熱中症リスクを意識して生活する必要がある。脱水や熱中症をおこすことで集中力の低下や意識を失うなどの危険もあり、死亡事故につながる恐れもある。このようなリスクを防ぐために重要なのが、「朝食を必ず摂ること」だと、熱中症に詳しい医師の谷口英喜先生は話す。

今回の調査の結果、暑熱環境で働く人の約半数にあたる133人は「朝食を欠食する日がある」と回答している。この層のうち、約3割強(47人)が、医療機関で熱中症と診断された、または熱中症と思われる症状を経験しており、毎日必ず朝食を食べる人(29人)の約1.6倍にのぼることがわかった。朝食欠食が熱中症リスクと無関係ではないと言えそうだ。

  • 暑熱環境で働くの約半数が朝食を欠食している/朝食欠食あり133人の熱中症症状経験率

    暑熱環境で働くの約半数が朝食を欠食している/朝食欠食あり133人の熱中症症状経験率

暑熱環境で働く人の熱中症対策について、谷口先生が解説している。

朝食抜きが"命の危険"につながる理由

朝食を摂らない状態は、すでに軽度の脱水とエネルギー不足のまま一日をスタートすることを意味し、特に暑熱環境下では発汗によって水と電解質が急速に失われるため、体内バランスが崩れやすくなるという。

水分が不足すると発汗による体温調節がうまく働かず、熱が体内にこもって高体温となり、熱中症リスクが高まるほか、血液循環の低下によって脳や筋肉への酸素や糖分の供給も不足し、集中力や判断力の低下、動作の鈍化を招き、事故リスクの上昇にもつながる。

理想とされる1日の水分補給の手法に、1回あたり約180mL(コップ1杯程度)の水分を1日8回に分けて補給する「6オンス8回法」と呼ばれる方法がある(6オンス=約180mL)。起床直後、朝食時、午前10時頃、昼食時、午後3時頃、夕食時、入浴前後、就寝前といったタイミングで分散して摂取することで、合計約1.5〜2Lの水分を効率よく体内に取り込み、体温調節や血液循環を安定させることができるという。しかし朝食を欠食すると、このうち朝食時と午前中の補給機会を逃し、約400〜600mLの水分摂取が不足することになる。

気温が上昇する時間帯に向けて脱水が進行しやすく、結果として午前中の早い段階から深部体温が上昇し、熱中症リスクが高まる点に注意が必要とされる。

朝食で摂るべき栄養素

熱中症対策としての朝食では、単なるカロリー摂取ではなく、以下の栄養素をバランスよく摂ることが重要となる。

水分:体液バランスの維持

平均的な成人で体内の約60を占める水分は、血液や細胞内液として全身に栄養や酸素を運び、老廃物を排出する役割を担う。十分な水分があることで血流が保たれて発汗でき、体温調節がスムーズに行われる。不足すると血液が濃縮して循環が滞ってしまい、汗がかけずに熱が体内にこもりやすくなる。

塩分(ナトリウム):発汗によって失われる電解質を補う

ナトリウムは、体液の浸透圧を維持して水分を体内に保持する働きがある。汗とともに失われると、血液量が低下し、めまいや立ちくらみの原因になる。また、神経伝達や筋肉の収縮にも関与しているため、不足すると筋肉のけいれんや倦怠感が起こりやすくなる。意識や体の動きの制御に非常に重要となる。

糖分(炭水化物):エネルギー源としての役割

糖質は分解されてブドウ糖となり、脳や筋肉の主要なエネルギー源として利用される。朝、糖分を補給することで血糖値が適切に上がり、意識の覚醒や集中力の維持につながる。逆に不足した低血糖状態だと、ぼんやり感や判断力低下、ふらつきなどが起こりやすくなる。

ビタミンB群:エネルギー代謝をサポート

ビタミンB群は、摂取した糖質・脂質・たんぱく質を効率よくエネルギーに変換するために不可欠な補酵素として働く。特にビタミンB1は糖質代謝に関与し、不足するとエネルギー産生が滞り、疲労感やだるさが強くなる。暑熱環境ではエネルギー消費が増えるため、重要性がさらに高まる。

アルギニン:血流改善と疲労回復

アルギニンは、血管を広げて血の流れをよくする働きがある。血流が良くなることで筋肉や脳に酸素や栄養がしっかり届きやすくなり、また、体の修復や回復に関わる成長ホルモンの分泌もサポートするため、疲労回復を助ける栄養素として重要とされる。

クエン酸:疲労軽減と代謝促進

クエン酸は糖質や脂質を効率よくエネルギーに変換し、さらに、疲労物質とされる乳酸の分解を促進するので、暑熱環境で感じやすいだるさの軽減にも寄与する。

特に朝にカロリーを摂るのが重要

朝食は、単なる習慣ではなく、体を「活動モード」に切り替える重要なスイッチ。特に朝に適切なカロリーを摂取することで、体温が上昇し、代謝が活性化する。これにより発汗機能や循環機能が正常に働きやすくなり、暑さへの耐性も高まる。一方で、朝食を抜くと体は省エネモードのままとなり、自律神経や筋肉の働きも鈍化してしまい、暑熱環境への適応が遅れ、結果として熱中症リスクが高まると考えられる。

理想的な朝食メニューと現実的な対策

理想的には、ごはんやパンなどの主食に加え、味噌汁や卵、魚、野菜などを組み合わせたバランスの良い食事が理想的だとされている。特に暑い時期は、冷たい味噌汁にするのも有効だという。味噌に含まれる塩分で電解質を補給できるだけでなく、わかめやあさり、しじみ、豆腐などを具材にすることで、細胞内の水分バランスを整えたり、心臓や筋肉の働きをサポートするタウリンや発汗によって失われやすい電解質を補い、筋肉のけいれん予防や神経・筋肉の正常な働きを維持するミネラルやカリウムも同時に摂取でき、疲労回復や肝機能サポートにつながる。また、焼き魚や納豆、卵などを組み合わせることで、たんぱく質やビタミンB群も補え、エネルギー代謝を活発にすることに役立つ。

ただ、「忙しくて朝食の時間が取れない」、「暑くて食欲がない」という場合は、熱中症対策の一環として、市販のゼリータイプ飲料などを積極的に取り入れることもおすすめだという。短時間で水分・糖分・塩分を同時に補給できるため、現場での実用性も高い対策といえる。

ゼリータイプ飲料を選ぶ際のチェックポイント

熱中症対策の朝食としての市販のゼリータイプ飲料を選ぶ際は、「水分補給」だけでなく、含まれている成分が体内でどのように機能するかを意識することが重要だという。特に暑熱環境下では、発汗によって水分と電解質が同時に失われるため、まず確認すべきはナトリウム(塩分)が適切に含まれているかどうかが重要となる。

全国清涼飲料連合会が定める「熱中症対策」表示ガイドラインでは、飲料100mLあたりの食塩相当量が約0.1〜0.2gの範囲に収まっていることが1つの目安とされている。この濃度設計には理由があり、塩分が少なすぎるとナトリウム補給としては不十分になり、一方で濃すぎると体内への吸収がかえって遅くなる可能性がある。そのため、0.1〜0.2g/100mLというレンジが、日常的な熱中症対策飲料としてバランスの取れた基準とされている。パッケージに「熱中症対策飲料」という表示のあるものを選ぶのが理想的だという。

加えて、糖質が含まれていることも重要となる。糖質も小腸での水分吸収を促進し、エネルギー源として脳や筋肉の働きを支える。また、糖質に加えてビタミンB群やアミノ酸が配合されているものにすると、エネルギー代謝や疲労回復の観点からも非常に有効だという。

"アイススラリー"は体温を冷やす効果も

アイススラリーという飲料の形態が、高体温対策としても有効な手段として注目されている。アイススラリーとは、液体と微細な氷が混ざったシャーベット状の飲料で、見た目はかき氷に近いものの、氷の粒子が非常に細かく溶けにくいため、氷の粒子が残ったままでも流動性があり飲みやすいのが特徴だ。この特性により、体内で氷が溶ける際に効率的に熱を奪い、単なる冷水よりも深部体温(体の中心の温度)を効果的に下げることができる。

  • 暑熱環境下における運動後のアイススラリー飲用による身体冷却イメージ

    暑熱環境下における運動後のアイススラリー飲用による身体冷却イメージ

もともとは運動時のパフォーマンス維持や熱ストレス対策を目的に、スポーツ医学や暑熱環境下での労働安全の分野で開発・応用が進んできた背景があり、さらに、臓器移植や外科手術の分野でダメージを抑えるために体や臓器を冷やすという考え方が用いられてきたように、アイススラリーも体を内側から効率よく冷やす発想に基づいている。現在では熱中症対策としても広く活用が期待されており、屋外作業やスポーツ前にあらかじめ体温を下げるプレクーリングや、暑熱環境下で長時間活動した後の休憩時に上昇した体温をリセットする用途に適しているほか、建設業や製造業などの現場でも導入が進んでいる。

一方で、今回の調査では、熱中症対策で「アイススラリーなどで体を内側から冷やす」と回答したのはわずか6人にとどまった。現場での導入は進みつつある一方、働く人一人ひとりの実践はまだ十分に浸透していない状況だ。

アイススラリーは日常生活に容易に取り入れることができる対策。前日の晩に冷凍庫に入れておき出勤時に持って出れば、15分程度で飲み頃のシャーベット状になるため、時間がなくて朝食を摂れない時にもこれを摂ると、水分と栄養補給にもなり、かつ体温を冷やすこともできる。

ただし、あくまで朝食をきちんと摂ることが推奨される。朝食をきちんと摂っていたとしても10時には再度水分補給をするべきであり、その際、体温を冷やしながら水分補給ができるのでそれも有効な活用法だという。

日々の体調管理と職場の監督環境の整備も必須

熱中症対策は、水分や栄養補給だけでなく、「前日からのコンディションづくり」と「職場環境」が大きく影響する。

まず重要なのが休養と睡眠。睡眠不足では、自律神経のバランスが乱れ、体温調節機能が低下する。その結果、同じ暑さでも体に熱がこもりやすくなり、熱中症のリスクが高まる。前日はしっかりと睡眠時間を確保し、お酒でのアルコールも脱水の原因になるので過剰な飲酒を避けることも大切だという。

また、疲労が蓄積した状態だと、発汗や循環といった基本的な機能が十分に働かず、熱中症を引き起こしやすくなるという。無理をせず、適切に休憩をとることが重要となる。

職場においては、管理者のスタンスが安全性を左右する。本人が「まだ大丈夫」と感じていても、実際には脱水や体調不良が進行しているケースは少なくない。「休憩を取りづらい雰囲気」や「我慢することが美徳とされる文化」は、熱中症リスクを高める要因となる。

周囲が積極的に声をかけ、こまめな水分補給や休憩を促すことや、体調の変化を申告しやすい環境づくり、「少しでも異変を感じたらすぐ涼しい場所で休む」というルールの徹底が重要とされる。