番組制作の安全性を高め、ドラマの映像表現を広げ、企画書の評価も――。民放キー局の25年度決算資料で、各局が進めるAI活用の具体例が相次いで示された。単なる効率化ツールではなく、コンテンツ制作や新規事業の競争力を高める成長領域として位置づけ始めている。
制作現場のリスク管理・品質管理を強化
日テレでは、VTRチェックのAI「VチェックAI」を開発。素材VTRと編集後VTRの文字起こしデータをもとに、AIが不適切な編集や発言などがないかをチェックするものだ。話者特定も含めた文字起こしデータを活用することで、放送前の確認作業を補助し、制作現場におけるリスク管理や品質管理の強化につなげる狙いがある。
同局では、完全子会社化したKANAMELとの協業で今年1月に実写×AIドラマ『TOKYO巫女忍者』を制作。また、KANAMELの映像制作力を生かし、ドラマ・映画・音楽IPの企画制作、広告ビジネスの進化、海外拠点を通じたグローバルビジネス拡大を目指す中で、AIは映像表現の拡張にも関わる技術として組み込まれている。
「生成AIの民主化」へ全社横断プロジェクト
TBSでは、「生成AIの民主化」を掲げて全社横断のAI活用プロジェクトを推進。ドラマ制作では、日曜劇場『VIVANT』の制作工程の一部に動画生成AI「Veo 3」を導入し、クリエイターのビジョン拡張や、CG制作費・労務時間の削減につなげたという。さらに『東京2025世界陸上』では、スタートリスト作成に「Gemini」を導入。英語PDFの自動読み込みと日本語変換によって、作業量を大幅に削減した。
情報番組『ひるおび』では、イラスト作成で生成AI「Nano Banana」を導入。オリジナルのマザー画像を作成し、それをもとに「夫婦の50年後の姿」や「入学式」のイラストなどを生成することで、「オリジナルビジュアルの確立」という攻めの側面と、「著作権侵害リスク回避」という守りの側面を両立させたという。
同局では23年7月に生成AIガイドラインを制定し、25年7月に改定。AI活用の姿勢を「慎重に、限定的に使う」段階から、「リスク管理を強化しつつ、AI時代における競争力を高める」方向へ移行させた。25年10月には、放送業界で初めてJDLA(日本ディープラーニング協会)の賛助会員となり、AI人材育成やAI倫理、ガバナンスの知見を取り込み、責任あるAI活用を推進。さらに今年4月にはAIガバナンス委員会を新設し、AI技術によるイノベーション推進と社会的信頼の確保、権利侵害リスクの防止の両立を図るとしている。
収録素材から文字起こし&テロップ案を自動作成
フジテレビでは、ドラマでの車走シーン、空想の世界、未来の街並みなどの背景映像にAIを活用。バラエティ・情報番組では、再現VTR内の映像やスタジオのフリップ、紹介イラストに活用している。
業務効率化の面では、AIペルソナがコンテンツ企画書を評価する「AI企画書のカギ」をリリースし、クリエーション力を強化。さらに、編集業務の効率化に向けて、収録素材から文字起こし・テロップ案作成をAIで自動化する取り組みをGP帯バラエティ番組に導入。リサーチ業務では、ソーシャルリサーチやネタ出しのAI補助ツールを一部情報番組で実証検証中だ。
グループ全体では、フジテレビとフジ・ネクステラ・ラボが共同で、AIを活用した自社IP制作にも挑戦中。小規模チームでAIを使い、過去作のリメイクなど、100%権利保有可能なIP制作を試みているという。加えて、会見や説明会などの質疑応答をAIで支援するリアルタイム質疑応答支援システム「Live-QA」が、日本新規事業大賞で審査員特別賞を受賞した。
テレビ各局においてAIは、番組制作を効率化するだけでなく、コンテンツの安全性を高め、新しい映像表現を生み、さらには教育や体験型ビジネスへと広げるためのインフラにもなり始めている。視聴率や広告収入だけに依存しない成長戦略を描く中で、AIをどう使いこなし、放送局ならではのIPや信頼性と結びつけるか。各局の取り組みは、テレビ局の次の競争軸を示すものになりそうだ。
