日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント‘26』(毎週日曜24:55~)で、10日に放送される「ひとりじゃない ボクとおばちゃんの15年」(ミヤギテレビ制作)。東日本大震災の津波で家族全員を失い、7歳で一人になってしまった辺見佳祐さんと、子育て未経験ながら彼を引き取った伯母・日野玲子さんが過ごした15年の記録だ。

『NNNドキュメント』でこれまで3本放送され、YouTubeで配信する『Nドキュポケット』で2023年に配信したショート版は1,076万再生(※26年5月6日現在)と大きな反響になっているこのシリーズ。巡る季節を一緒に過ごし、学校行事、進学、就職と節目を重ねながら、少しずつ“家族”になっていった2人を追い続けてきたミヤギテレビの佐々木博正ディレクターに、取材秘話を聞いた――。

  • 宿題をする佳祐さんと玲子さん=2011年12月(上段)、佳祐さんの入社式の朝=2024年4月(下段)

    宿題をする佳祐さんと玲子さん=2011年12月(上段)、佳祐さんの入社式の朝=2024年4月(下段)

「暗い感じを本当に見たことがないんです」

2011年3月の震災後、佐々木Dが2人と出会ったのは、同年秋。震災で家族を亡くした人たちに取材を申し込んでも、「本当に壮絶な体験をされていますし、周囲の目というのもあると思うので、なかなかカメラの前でお話ししてくださる方は少ないです」という中で、玲子さんは受け入れてくれた。

その背景には、「佳祐さんと一緒に生活する中で、いろんな人に支えられて助けてもらったことを記録に残したい」という思いがあった。このため、玲子さんの心の傷に配慮もしながら多くの質問を重ねることができたという。

一方で、家族全員を失った小学2年生の佳祐さんにはどう接すればいいのか、最初は戸惑いが大きかった。そこでいきなりカメラを回すのではなく、「たまに遊びに来る知り合いのおじさんみたいな感じ」という雰囲気で訪問。一緒に遊び、テレビを見て、同じ時間を過ごすという関係づくりから始めた。

カメラなしで2カ月ほど通ってから本格的に取材がスタートしても、幼かった佳祐さんに家族のことを直接的に聞くことはしなかった。玲子さんが外出し、佐々木Dと2人で夜を過ごしていた時に、佳祐さんがふと「(亡くなった)おばあちゃんは大切な人だったんだよ」と語りだすこともあったが、それ以上深く聞くことはせず、小学校を卒業する頃に初めて「家族と暮らしていた時はどうだったの?」と尋ねてみたという。

一緒に過ごす中で、佳祐さんからは「暗い感じを本当に見たことがないんです」という。佐々木Dと共に隠れて買い食いし、「(玲子さんに)絶対言わないでね!」と茶目っ気たっぷりに話しかけてくる普通の少年だ。彼が唯一涙する姿を見たのは、近所の年上の子とゲームをして負けた時で、「本当に強い子だと思いました」と驚かされた。

もちろん、実際に一人でいる時の思いや、心の奥にあるものは分からない。それでも、取材陣と一緒にいる時は、弱いところを見せることなく、いつも自然体だったという。

佳祐さんは中学2年の時、不登校になった。ただでさえ思春期である上、カメラを向けられたくないタイミングではないかと想像するが、佐々木Dは折を見て石巻に顔を出し、一緒に出かけることもあったという。こうしたエピソードからも、関係を重ねてきた信頼がうかがえる。

  • 佳祐さんにゲームを教わる佐々木D=2012年3月

    佳祐さんにゲームを教わる佐々木D=2012年3月

震災前に離婚…玲子さんも「一人になった」

佳祐さんだけでなく、玲子さんもまた震災で深く傷ついた一人だった。離婚した玲子さんにとって、妹である佳祐さんの母と、自身の母という家族2人を同時に失い、玲子さんも「一人になった」と話していたという。

それでも、「佳祐さんもいるので、“お互い一人じゃないんだ”ということを、よくおっしゃっていました」と、前を向こうとしていた玲子さん。そんな彼女にも、精神的な“強さ”を随所で感じた。

佳祐さんと一緒に生活を始めた時、玲子さんは51歳。子育ての経験はなかったが、子どもが好きで世話好きな性格だったこともあり、学校行事にも欠かさず参加した。佳祐さんの学校生活の中で、周囲に“普通の親子”がいる場面は少なくなかったはずだが、玲子さんはその時間を一つひとつ埋めるように寄り添っていた。

佳祐さんと暮らすにあたり、妹夫婦が経営していた自動車整備工場を引き継いだ。ここは、玲子さんの親の代からの家業だったが、高校卒業後は仙台に出て仕事をしており、全く関わってこなかった。それでも、佳祐さんとの生活を守るため、そして家業を残すため、一から学んだ。

玲子さんも涙を見せることは多くなかった。だからこそ、涙を流した場面は強く印象に残っている。小学校の卒業式、入社式の朝――見送った後の玲子さんに共通していたのは、「妹さんや亡くなった家族にも見せてあげたいという思い」だった。

  • 佳祐さん(前列中央)と家族

    佳祐さん(前列中央)と家族