そんなディーン・フジオカの存在感と並ぶもう1つの見どころは各話のエピソード。

コナン・ドイルの小説には“アントールドストーリーズ”(語られざる事件)と呼ばれる「本文中でわずかに言及されながら詳細は明記されていない事件」が複数存在するが、ドラマ『シャーロック』はあえてこれをピックアップした。

つまり、「ドラマ『シャーロック』は全貌が明かされていない事件を掘り下げて新たな物語を作る」ということ。アントールドストーリーズは原作ファンの間で話題にあがるものだけに、厳しい目で見られやすいなど映像化へのハードルは決して低くなかった。各話のエピソードは「オリジナルでゼロから手がける」ほうが簡単だったように見えるが、あえて難易度の高いものに挑む志の高さを感じさせられる。

しかも制作サイドは、第1話「アバネティ家の恐ろしい事件」、第2話「ダーリントンの替え玉事件」、第3話「タンカーヴィル・クラブ醜聞事件」などとモチーフにした全話のエピソードを公開。原作ファンから逃げも隠れもせず、「キャラクターだけでなく物語でも魅了する」という道を選んだ様子がうかがえる。

ディーン・フジオカの起用とアントールドストーリーズへの挑戦によって『シャーロック』はこれまで何度も映像化されてきたどの『シャーロック・ホームズ』とも異なる作品となった。『モンテ・クリスト伯』『レ・ミゼラブル』のときもそうだったが、安易に『シャーロック・ホームズ』という偉大な原作に頼るのではなく、主体性をもって挑んだからこそ感動につながったことは間違いない。

「イケメンバディ」の残念な設定

最後にもう1つあげておきたいのは「イケメンバディ」の生かし方。獅子雄の相棒はジョン・ワトソンがモデルの精神科医・若宮潤一(岩田剛典)であり、ディーン・フジオカと岩田剛典というイケメンバディだったことは確かだ。

しかし、「2人とも偏屈で人格に問題を抱える」というネガティブな設定を加えてギャップを生み出し、男性視聴者を置き去りにしなかった。さらに獅子雄が潤一を翻弄しながら徐々に絆を深めていく過程でも視聴者を魅了。「心の中では互いに支え合い、まるで兄弟のような存在になっていく」というブラザーフッドのムードを漂わせていた。

これらを作り上げたのは、主に脚本家・井上由美子、演出家・西谷弘。名手のタッグが強烈な登場人物や映像美をもたらしたことで、連ドラ終了から3年後の22年に映画『バスカウィル家の犬 シャーロック劇場版』が公開された。

あまり知られていないが『シャーロック』が放送された月9は、前年の18年夏から23年夏までラブストーリーを避けて刑事、医療、法律の3ジャンルにほぼ特化していた。この3ジャンルは手堅く視聴者を集められる一方でマンネリと紙一重だが、当作に関しては「シャーロック・ホームズという特別なジャンルのため、そんな不安は感じさせなかった」と言っていいのではないか。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。