
現在公開中の劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』。フランシュシュの新曲4曲――どれが主題歌かと問われれば、「どれもが物語の中で歌われる曲」と佐藤宏次は語る。シチュエーションに沿ったテレビシリーズから一歩踏み出し、より自由にコンセプトを突き詰めた楽曲たち。「またたく宇宙(ソラ)に憧れて」や80sスタイルのハードロック「今日が歴史に残るなら」、高揚感あふれる「悠久ネバーダイ」など、多彩なアプローチが並ぶ。一方、劇伴を担った高梨康治は、宇宙人との戦闘シーンを貫くモチーフを起点に、バンドマンとしての感覚を活かしたサウンドを構築。挿入歌と劇伴――それぞれ異なる時間軸で作られた音が交差することで、作品に独特の現実味を与えている。試写で「泣いてしまった」と語る二人が明かす、音楽が支える集大成のステージ。
※この記事は現在発売中の雑誌「Rolling Stone Japan vol.32」に掲載されたものです。
”インディ感”を活かした挿入歌
ー今回、主人公のアイドルグループであるフランシュシュの新曲が4曲ありますよね。主題歌はどれですか?
佐藤 テレビシリーズであれば、『ゾンビランドサガ』におけるオープニング曲はオープニング曲として、エンディング曲はエンディング曲として作っていたのですが、今回の4曲は、フランシュシュが物語の中で歌っている曲という考え方で作っているので、どれが主題歌かと言われても私にはわかりません(笑)。オーダーに関しても、今回の劇場版用の新曲に対して物理的な制約は少なく、監督からも具体的というよりは、概念的なオーダーだったので、4曲とも割と自由に作らせていただいていました。立ち位置的には劇中における彼女たちの持ち曲、いわゆるテレビシリーズにおける挿入歌に近い感覚です。
ーこだわった点はありますか?
佐藤 より楽曲ごとのコンセプトを明確にして、印象に残るようにしています。”こういう曲流れてたよね”みたいなのが、なんとなく感じられるような。「またたく宇宙(ソラ)に憧れて」は佐賀万博のテーマ曲なので、メロディの中で過去の万博との繋がりを感じられるようなアプローチをしていたり。作曲家の加藤裕介とその辺の細かい話をしながら作りました。「今日が歴史に残るなら」はシチュエーションが絡む曲なので、歌詞も含めてそこにマッチするようにつくりました。今回、テレビシリーズでは参加していなかった作家にも頼んでいるので、これまでの挿入歌とも違うテイストの曲になっていると思います。「悠久ネバーダイ」に関しては、ある意味この作品を代表するような楽曲にしようかなと思って。テレビシリーズ第1期だったら「ヨミガエレ」だし、2期だったら「REVENGE」であるように、主題歌ではないけど、ちょっとしたテーマ性のある曲にしたいなと。気持ちが高揚するような曲が1曲は欲しくて。そういった考え方のもとにつくりました。「今を未来をありがとう」に関しては、何も言わない方が良い気がします。
ー「今日が歴史に残るなら」で新しい作家さんを起用したのはなぜですか?
佐藤 しっかりハードロックがやりたかったんですよ。メロもサウンドも含めて、ここのど真ん中ってやったことないなぁと思って。それで、しっかりハードロックができる人って誰かなと思ったときに、今まで挿入歌に関わっていただいた弊社の作家たちだと、ちょっとアプローチが違うかなと思って。より直球な、いわゆる80年代のアメリカン・ハードロックな曲を書ける方にお願いしました。
高梨 「激昂サバイブ」(2期の挿入歌)のハードロックとも違いますよね。
佐藤 あれはもうちょっと時代が新しいです。今回はサウンドに少しポップス感はあるんですけど、メロディに関してはTHE ハードロックにしてみました。だからある一定の層の方がグッと来てくれるんじゃないかなと思ってます。今回の新曲4曲は、1曲1曲にしっかりコンセプトを考えて印象に残るようにしているので、それを紐解いてもらえると嬉しいです。
ー劇中のとあるシーンで「徒花ネクロマンシー」(1期の主題歌)がかかりますね。
佐藤 今までは主題歌としてだけでしか存在してなかったものが、やっとあの世界の中の曲になった感覚です。「ズンドコ(冒険ズンドコドン!)」(2期ベストアルバム収録曲)も「徒花」も、作品の絵には絡まない曲で、あの世界にまだ存在してなかった曲じゃないですか。それがちゃんとアニメーションの中で流れることで昇華されたというか。ちゃんとあの世界の佐賀県に存在していて、フランシュシュの持ち曲になったことは感慨深いです。
高梨 音楽以外にも1期のオープニングとリンクする箇所があって、僕もすごく感慨深かったです。1期から今回の映画までが繋がってる感があって。
ー前回(2期で)お話を聞いた時に、作品の時間軸的に、令和元年ぐらいなんじゃないかとおっしゃってましたが、前回のテレビシリーズから4年以上経ったことで意識したことはありましたか?
佐藤 今回に関してはないです。前回までの時代背景や彼女たちの生きていた時代との対比はもう語り尽くされたので、今回はあまりそういうことは考えずに作っています。フランシュシュとして毎日練習して、7人がグループになった後のお話なので。
ーアイドルソングというより、フランシュシュの楽曲を作る感覚ですか?
佐藤 そうですね。現実のアイドルグループは、ある程度「この子たちの曲を作る」みたいな考え方と、時代のトレンドやバズる要素が含まれると思いますが、それよりももうちょっとインディ感というか、バンドに近い考え方かもしれないです。
ー佐藤さんの中で「フランシュシュといえばこういうもの」という形も、ある程度定まっているんでしょうか。
佐藤 楽曲的にはないんですよ。そこはちゃんとアイドルだと思っていて、何でもやっていいというか。あの世界の中で彼女たちが求められていることも多少あると思いますが、基本的に楽曲としては何でもやっていいだろうし。彼女たちが歌ったらフランシュシュのものになるので、「こうやったらフランシュシュになるよね」みたいなところはあまり考えてないです。歌詞の言葉の選び方ぐらいかな。
ーメタ的な発言ですけど、キャストの皆さんはキャラクターとして歌っている?
佐藤 皆さんキャラとして歌ってます。
ーこのキャラはこういう感じでっていうディレクションはしますか?
佐藤 ゆうぎりとサキの語尾ぐらい。そこはずっとそうだから崩しちゃいけないなって。サキのちょいちょい巻き舌になるところとか、ゆうぎりがリズム的に後ろめで歌うところとか。細かい話ですが、今までは感覚的に自由に歌ってたけど、グループになっていく過程で、だんだん意識的に現代というかグループとしてのまとまりがでるような歌になって行くみたいな流れはうっすらですが作っているつもりです。
ーこれまでのテレビシリーズで描かれてきた佐賀の日常から、今回はSFの要素も入ってきますが、高梨さんは劇伴をつくる上でどんな点を意識されましたか?
高梨 宇宙人との戦闘シーンで必ず使うモチーフを先に作ったんですよね。作品によってはキャラクターのテーマを軸にモチーフを流したりするんだけど、今回は宇宙人との戦闘シーンを軸に、必ずこのリフが出てくるって点をベーシックに置いてから、シーンごとに作っていくような感じでした。
ー宇宙人との戦闘シーンの旋律はどんなイメージで作ったんですか?
高梨 僕は基本的にバンドマンなんで、ロックに基づいたサウンドでつくるところは、どの作品でもブレないところなんです。今回はそれに加えて、宇宙っぽさをどう表現するか。シンセを使うと安易には表現できるんだけど、あえてオケとバンドを使った形で王道な戦闘シーンを主軸にやっていきました。『ゾンビランドサガ』の場合は、どちらかというと音楽的な主役ってあの子たちが歌うシーンになるので、劇伴が主題をやるタイプの作品ではないですよね。ライブシーンの挿入歌が主軸になる作風なので、自分は適度なラインでやらせてもらってます(笑)。
©劇場版ゾンビランドサガ製作委員会
デスメタルが書ける劇伴作家
ー『ゾンビランドサガ』1期、1話のデスメタル調の曲がかかるインパクトがとにかく鮮烈で。あれも高梨さんが担当されたんですよね?
高梨 はい。聴きやすいデスメタルにしました。ガチでやるとちょっと理解不能な領域になる。スピードメタル的だけど、リフ感はデス。あとはデスボイスを入れると”ぽく”なるんです。当時、テレビシリーズ監督である境(宗久)さんに呼ばれたときに、「このシーンでデスメタルをやりたいんだ」って言われて、「あ、俺が呼ばれた理由はそこか」って(笑)。
ー今回の映画でも、冒頭でそれっぽいのが流れますよね。
高梨 あれはちょっとオマージュしてるんです。「あのときの場面を思い出させるような形で、首が飛んでいくシーンをやりたいよね」ってお話をいただいて、喜んで引き受けました。ただシーンがものすごく短かったので、コンパクトにやらなきゃならないっていうのはあったんですけど。
ーしかしデスメタルの曲が書ける劇伴作家ってなかなかいないですよね。
高梨 みなさん僕を作曲家と言ってくださるんですけど、普通のバンドマン、メタラーからスタートしていて、どうして劇伴作家と言われるようになったのか、いまだ自分でも謎でしょうがない(笑)。この夏もずっとバンドでツアーしてるので。他の作品でも大体ハードロック、メタル系でやってるから「ハードロック系をやるなら、あいつしかいないよね」って声をかけていただいてるのかなとは思ってます。
ー今回劇伴をつくる上で、楽しんだポイントはありましたか?
高梨 楽しみポイントはいっぱいあります。映画の場合は短尺になるじゃないですか。シーンに合わせながら作るので。PC上で絵と音楽をリンクさせて、「ここでこうチェンジしたら良くね?」とか、「宇宙人がアップになるところにピークを持ってくるようにするとこの辺からかな」とかを考えながらやるのは、テレビシリーズとはまた違う楽しみがありました。
佐藤 そのときって、もう動画になってました?
高梨 色はついてなかったですけど、僕がもらったときにはセリフも乗ってました。
佐藤 楽しそうですね!
高梨 楽しいです。ぴったり合ったときが快感。「山田たえちゃんの心情がこのシーンではこうなるから、ちょっと変えようかな」とか、なんとなく心情が他のメンバーに移ってるところで少し曲のカラーを変えてみたりとか。絵に合わせながらやってくのは楽しい。ただ微妙に半拍ズレるなとか、変拍子にしようとか厄介な調整はあるんだけど、それは置いといても、映画の音楽を作るときの楽しみ方ですね。
ーテレビシリーズの30分のドラマとは全然違う?
高梨 テレビシリーズは基本的に、メニュー通りの曲を納品して、音響監督さんとかが編集してテレビの尺に合わせていくっていう進め方なので。テレビでは戦闘1、日常1、コミカル1、みたいな形で尺を気にせず作るんですけど、映画は自分で監督さんと打ち合わせて、この尺の間でこんな変化があるといいよねみたいなのをすり合わせてつくる。だから作り方は全然違います。でもどちらも異なる楽しみ方があります。音響的に言うとゴーイチ(5.1chサラウンド)っていう違いもありますよね。
ー高梨さんはフランシュシュの楽曲をどう捉えていますか?
高梨 テレビシリーズも含めてだけど、厳密なコンペをやってるのかと思ったくらい、どの曲もハマってるし印象に残るし……SCOOP MUSICさんすごいですね。
佐藤 カロリー高いんですよ、このお仕事。
一同 (笑)
ーそういう意味で言うと、いろんなアーティストとタイアップしていくやり方もあるけど、ずっと同じチームで音楽を作ってきて、作品の一要素として主題歌・挿入歌、劇伴も存在しているっていう稀有な作品ですよね。
佐藤 そうですね。作品の世界線がそんな感じじゃないですか。例えば大手事務所の大きいグループで武道館目指すっていうスタンスじゃない。地方のアイドルで、佐賀で活動しているっていうのがいい。そうなってくると同じチームがずっと楽曲を作ってることが多いと思うので、それぞれの楽曲の雰囲気が自然と寄ってきますよね。そういった部分という意味でのバンド感はあると思います。他社の方にお声をかけてもよかったんですけど、それだとどうしても”地方アイドル感”が思い描けなくて、だいたい同じチームの同じ考え方のもとで作るっていう方針でやっていました。
ー高梨さんは『NARUTO -ナルト-』『FAIRY TAIL』の音楽も担当してますけど、いずれも海外で人気がありますよね。
高梨 データ的なことで言うと、僕のファンと言われる人たちの97%が海外なんですよね。一番聴かれているのがアメリカ、ドイツ、フランスっていう順番だったかな。なので、海外が日本のアニメに持っている興味ってものすごいです。それはライブをやってても、日本より海外の方が熱狂的だったりするところからも感じる。それから意外と知られてないけど、数年前にアメリカで『ゾンビランドサガ』の音楽が「ベストサウンドトラック賞」って賞をもらったんですよね。アメリカに行ったら表彰されて、マジか!と思って。アメリカでファンが選んだ一番人気のアニメのサウンドトラックが『ゾンビランドサガ』。
ーすごい! 音楽的にはどういうところが受けていると思いますか?
高梨 自分の作品でいうと、例えばアメリカでは『NARUTO -ナルト-』の方が受けるんですけど、ヨーロッパでは『FAIRY TAIL』の方が受ける。国によって好みが若干変わってくるし、『ゾンビランドサガ』の音楽がどこの国で受けるかを体感してみないとわからないところもありますよね。
ーそういう意味では、この作品も海外で見てもらいたいですよね。
高梨 絶対喜ばれると思います。アメリカ人、ゾンビとUFO大好きだからね。ただアイドルって文化があんまりない。
ー余談ですけど、高梨さんは格闘技の「PRIDE」のテーマ曲も作曲されてるじゃないですか。僕は格闘技をやってるので、好きなんですけど……。
高梨 何をやってるんですか?
ー柔術とキックボクシングをやってます。
高梨 俺もやってるんです! 柔術です。10年近くやってます。別に格闘家になりたいとかじゃないんですけど。ツアーをやったときの体力を維持したいので、体力作りって面でもちょうどいいし。
ー当時「PRIDE」の曲を作ったときの背景をブログに書かれてましたよね。「当時のいろんな想いが音楽に込められてる」って話を読んで、こういう方が作ってる『ゾンビランドサガ』の音楽が熱くないわけがない!と思いました。
高梨 あれを作ったときの気持ちを、いまだに忘れないようにしてるんです。自分がたるんできたなと思ったらあの曲を聴くようにしてるんですよね。そうすると当時のことを思い出せるので。もう一回気合い入れ直していくか、みたいな。だから、自分にとっても大事な曲だったりします。
ー劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』はいよいよ10月24日に全国公開となりますが、今の気持ちをお聞かせください。
佐藤 ゼロから作っているし、時間がかかっていたということもあって、どれぐらいの人たちがついてきてくれてるのかなぁと正直ちょっと怖い部分もあります。ですけど、自分は試写で泣いてしまったので。きっと見てくれれば、当時の思い出や感情が、また湧いてきてくれるかなと思います。公開前なので、楽しみな気持ちと怖さが共存している状態です。
高梨 『ゾンビランドサガ』で泣くとは思わなかった。
佐藤 私、毎回泣いてます。毎シリーズ泣いてる。
高梨 (笑)やっぱりたえちゃんの展開は予想外だったなぁ。僕らは作ってる間に何十回も見てるから、完成したものを見たときのインパクトはすごくあって。僕が作ってるときは色もついてなかったので、カラー版を初めて見て感動した。映画としての表現と、彼女たちのライブシーンとか、いろんな部分でエンターテインメントが大量に入ってるから、最初から最後まで飽きるところがなかった。時間が短く感じるような映画でしたね。
高梨康治
音楽制作集団「Team-MAX」主宰、和楽器をフィーチャーしたロックユニット「刃-yaiba-」のリーダーでもある。2013年、2014年、2017年、2020年、2021年、2022年、2023年に通算7回『JASRAC国際賞』を受賞。代表作に、『NARUTO-ナルト-疾風伝』『BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS』『FAIRY TAIL』『ゾンビランドサガ』『ゲゲゲの鬼太郎(第6期)』『美少女戦士セーラームーンCrystal』『フレッシュプリキュア!』~『スマイルプリキュア!』『PRIDE』テーマ曲等がある。自身がパーソナリティを務めるWEBラジオ番組『アキバ鋼鉄製作所』を隔週で配信中。
佐藤宏次
アニメ作品やアイドルなどの楽曲を多数手がける、音楽ソフトコンテンツのプロデュース集団「SCOOP MUSIC」代表取締役。『ゾンビランドサガ』シリーズの主題歌・挿入歌のプロデュースを担当。

『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス
フランシュシュ The Best Paradise』
フランシュシュ
発売中
配信リンク:https://avex.lnk.to/zombielandsagaTheBestParadise_haishin
1.ChouChouture:SE
2.悠久ネバーダイ
3.今日が歴史に残るなら
4.REVENGE
5.七福大祭典
6.ズンドコドン!
7.すきっちゃん!からチュッ
8.徒花ネクロマンシー
9. またたく宇宙(ソラ)に憧れて
10.今を未来をありがとう
11.悠久ネバーダイ(Instrumental)
12.今日が歴史に残るなら(Instrumental)
13.REVENGE
(Instrumental)
14.七福大祭典
(Instrumental)
15.ズンドコドン!(Instrumental)
16.すきっちゃん!からチュッ(Instrumental)
17.徒花ネクロマンシー(Instrumental)
18. またたく宇宙(ソラ)に憧れて(Instrumental)
19.今を未来をありがとう(Instrumental)
劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』
全国の劇場にて公開中
©劇場版ゾンビランドサガ製作委員会

