草なぎ剛が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』(毎週月曜22:00~ ※FODほかで配信)の第3話が、27日に放送された。
妻の死をきっかけに“遺品整理人”となったシングルファーザーの主人公・樹(草なぎ)が、遺品整理や生前整理を通じて、残された家族へのメッセージをひも解いていくヒューマンドラマ。“死”を扱う物語でありながら、これまでは心温まるエピソードの積み重ねが印象的だった本作。しかし第3話は一転して、“嫌な描写”が連続する回となった。なぜそのような展開が必要だったのだろうか――。
矛盾や理不尽そのものが視覚化された
今作では縦軸となる御厨家のエピソードにおいて、夫家族からのモラハラや経営する企業での自殺者の隠ぺいなど、“嫌な描写”はこれまでも存在していた。しかし全体の印象としては、不思議と優しさに包まれた温かい世界観に仕上がっていた。それは“いいひと”草なぎ剛が主演というパブリックイメージが物語内にも侵食していたのはもちろんのこと、“遺品整理人”という死を身近に扱う職業を描くからには、依頼人に対し真摯(しんし)に寄り添う姿が必須であり、それがおのずと世界観を優しく温かくしていたのだろう。
しかし、第3話ではどうだっただろうか。冒頭から樹の息子・陸(永瀬矢紘)の様子が明らかにおかしく、真琴(中村ゆり)の夫・利人(要潤)のモラハラは相変わらず。遺品整理会社社長・磯部(中村雅俊)の過去を執拗に追う記者・波多野(古川雄大)や、学校でのいじめ、ゆずは(八木莉可子)の母(雛形あきこ)が登場して金の無心をし、さらには遺品整理の現場でも露骨な悪意が描かれ…と、中盤まで“嫌な描写”が連続したのだ。
その理由は、物語中盤に添えられた“ある言葉”を際立たせるためだった。
樹が真琴に放った言葉――「(陸には)矛盾や理不尽に流されない力を持たせたい」。この一言が、すべての“嫌な描写”に対して意味づけをし、浄化までしてくれたようだった。なぜならこの言葉に、樹の人生が凝縮されているようだったからだ。
妻の異変に気付くことができず先立たれてしまった後悔、それでも生きると決めた覚悟、そしてその妻の死に意味を見いだすために遺品整理人となった今…と、これまで淡々と描かれてきた樹の姿勢が、この言葉によって一気に輪郭を持ったのだ。同時に、彼が“遺品整理人”という職業に日々向き合ってきた中で被った矛盾や理不尽そのものが、この第3話で視覚化されたとも言えるだろう。
ただし、この言葉には“功罪”もある。草なぎ剛という俳優のおかげで、本来の意味合い以上に響く言葉になってしまったからだ。真琴が指摘したように、「矛盾や理不尽に流されない力を持つ」ことを息子に課すのは、親のエゴではないだろうか。そこにはもっと議論が必要なのではないか。その点が、草なぎという存在によって曖昧にされたような気もしたのだ。
とはいえ、それこそが今後待ち受けるかもしれない樹の“矛盾と理不尽”の布石にも思える。それが今回随所に、そして象徴的に描かれた“不倫”だ。
矛盾を背負うことになる危うさが魅力的に
現状、樹と真琴の間に特別な感情は描かれていないのだが、第1話で印象的だったあの演出…“ロマンス”を振り返れば、今後2人が惹かれあってしまう可能性は否定できない。もしそうなれば、樹は自らが語った“矛盾や理不尽に流されない”という言葉を裏切ることになる。
そして真琴もまた、自身が最も嫌悪していた行為に手を染めるという矛盾を背負うことになるのだ。その危うさが、今作をより深く、そして怖ろしく魅力的にさせている。
最後に、前回から続く“食”の描写に触れておきたい。第2話の“おにぎり”や“炊き込みご飯”は、ポジティブな一面として映っていた。だが今回は、その“食べること=生きること”…ではあるが、それはポジティブとは限らない、とでも言うように、温度差を感じる朝食の風景、欲にまみれ対話をしたくないともとれる“カニ”、そして本来は家庭の温もりを象徴するはずの母のカレーですら、苦々しい描写として見せた。生きることは単純ではないし、一面的でもないということを、小道具であるはずの“食”の描写でも表しているのだ。
“優しい世界観”と“嫌な描写”が紙一重で共存する、このドラマの真価が問われるのは、まさにここからだ。













