日本テレビ系ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(毎週水曜22:00~)が、8日にスタート。マイナビビュースでも様々なドラマの取材を行う「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏がレビューした。

  • (左から)桜田ひより、佐野勇斗

    (左から)桜田ひより、佐野勇斗

このドラマは大企業の一人娘の誘拐事件をきっかけに、人質の結以(桜田ひより)と誘拐犯である大介(佐野勇斗)が、なぜか2人で逃避行を続けることになるというヒューマンミステリー。

大石氏は、こう語る。

第1話のポイントは3つ。「整合性」「情報量」「新しさ」だ。

“誘拐”を題材とする物語で最も重要なのは「整合性」だろう。それは当然、整合性がない=“ありえない”描写になってしまえばこの先を見続けようという意欲がなくなってしまうし、連続ドラマである以上、つかみが矛盾だらけであれば、その先の物語についてきてもらえないからだ。

では今作における「整合性」はどうだっただろうか。まず冒頭から、結以を誘拐する側の大介のキャラクターがずいぶんと能天気だったため、誰にもバレることなく誘拐を遂行することができるのか? ちょっとした疑問はかすめたのだが、大企業のお嬢様とはいえ、警備員が常時つくはずがないこと、また彼女についていた秘書の万代詩乃(ファーストサマーウイカ)が居ぬ間の犯行など、さりげない描写の数々で、“ありえない”と思わせる“隙”を見せなかった。

また結以にGPSが付いていたことで、すぐさま居場所が判明してしまう展開はノンストレスであり、そのスピード感がかえって今後の展開を不透明にさせるサスペンスを生んでいた。何より、大介のその能天気こそが第1話中盤以降のキーとなっており、結以自らが誘拐に加担する流れに「整合性」をもたらした。

次に「情報量」。今作のように多くの謎をちりばめた作品の場合、その情報開示のさじ加減によって視聴者が限定されてしまうきらいがある。“何かある”という思わせぶりな伏線を引けば引くほど、謎解き好きにとっては引っかかりも多く、見たいと思わせる要因にもなるのだが、謎解きで頭を使わず、気軽に物語を楽しみたいという視聴者にとっては“面倒くさい”と判定されてしまうのだ。

だが今作第1話時点での「情報量」は、実に整理されていた。結以の父(北村一輝)や叔母(富田靖子)に関する“含み”は今後の展開を期待させるものであったし、現状物語に強いつながりを感じさせない刑事(松尾諭)やインフルエンサー(加藤千尋・高塚大夢)、謎でしかなかった女(志田未来)の存在も、演出上のあおりが少なく“嫌み”がなかった。

そして特に秀逸だったのは、結以のサイコメトリー(人やモノに触れることで情報を読み取る)の能力(なのか?)を“見せなかった”ことだ。その映像を見せることで更なるミステリーを生み、視聴者への引きを作ることができるのは無論なのだが、登場人物の紹介からドラマの導入を見せる、情報過多の第1話においては、それ以上の情報量、つまり主人公の特殊能力の詳細までは見せる必要がなかったといえる。むしろこの先、そのサイコメトリーがどのように“見える”ようになるのか、そんな期待感を高めることにもちつながっただろう。

最後にどんな物語においても必要なのが「新しさ」だ。誘拐が狂言誘拐に転じてしまうというあらすじは、新鮮さという点では欠けるだろう。しかし、今作は意外な点において新鮮さが感じられた。それは、結以と大介の“青春”だ。

結以と大介の造形は、“誘拐するはずだった”という筋書きに新しさは感じなくても、骨格の面白さだけを担保していれば、作劇上で都合よく動き回る“駒”になってもおかしくなかった。また、今作が今後そうなるとは限らないのだが、不意に出会った男女の二人が恋愛関係に陥っていくのか?とにおわせるのは、あまりにベタであり、リスキーだ。だが今作は、結以の繊細な悩みを大介がさりげなく察知する描写において、手錠を外したあとの手の触れ合いにおいて、髪染めを笑い合うやりとりにおいて、誘拐という骨格以上にエモーショナルな“青春”を浮かび上がらせた。

そしてその“青春”こそが2人がこれまで味わうことのできなかった、何よりもかけがえのないものであり、その先に恋愛が待ち受けていたとしても決しておかしくはないと思わせた。さらに、それこそが今作が最も描きたかったテーマであると思わせることにも成功したのだ。

誘拐を発端にした意外な逃避行のミステリー…と思わせながら(いや実際にはそうなのだが)、2人の“青春”もみずみずしく描かれるんだ!というその発見が、今作の「新しさ」だ。

ちりばめられた謎の数々と、二人の逃避行の行方も気になるのだが、2人が初めて手にした自由という名の青春劇も見逃せないドラマになりそうだ。

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