見た目は“変わり者”だが、では「普通」とは何か。尾野はそんなことを、伯爵の姿から考えさせられたという。

「特に配送業界は人手不足というのもありますし、いろんな男性が採用面接を受けいくると思うんです。その中で、伯爵は意外と普通の人なのではないでしょうか。自分で仕事先を見つけて、自分でいろんな物事を進めている。しかもちゃんと自分のやりたい夢を持っているんですから」

伯爵とその交際相手は、いわゆるマイノリティと言われる存在。今回のナレーションでは、その部分をことさらに強調して読むこともなく、「それも世の中の変化ですよね」と感じた。

ナレーションでは、そんな伯爵から「不思議と勇気をもらえる」と語る場面も。「最初は“このおじさんに…!?”と思ってしまうかもしれないですが、伯爵にうなずく場面があったり、“あっ、それでいいんだ”と思わせてくれるんです。本当に、皆さん勇気がもらえると思います」と予告した。

  • 配送会社の面接を受ける直哉さん (C)フジテレビ

    配送会社の面接を受ける直哉さん (C)フジテレビ

沖縄で飛び込んだ居酒屋業「何回も辞めてやろうと(笑)」

伯爵が配送会社のアルバイトに飛び込んだように、尾野自身も沖縄に移住し、女優業の傍ら居酒屋で女将として働いている。最初は新しい環境が楽しかったが、やはり一筋縄にはいかない仕事で、「本当に“辞めてやろう”と、何回も思いました(笑)」と打ち明ける。

自分の夢だった女優の仕事を辞めようと思ったことは、一度もなかった。「嫌なことや芝居で失敗したことがあっても、“次はこうしてみよう”とか、“じゃあもっと練習してみよう”とプラスに考えられるんですけど、居酒屋は違いました。好きな仕事と、やらなければしょうがない仕事の違いですね。女優の仕事はお金が見えないんですけど、居酒屋は1円、10円を稼ぐのがこんなに大変なんだと思い、みんなすごい仕事をしてるんだなと本当に尊敬します」と発見があった。

そんな居酒屋の経験は、芝居にも生きるのだそう。「最近、台所に立つシーンが結構多くて、“キュウリ切ってください”と言われたら、前は“手元は誰がやるんですか?”となってましたけど、今では何の迷いもなく“何切りですか?”って自分で切り始めて(笑)。そういう部分が広がったことでも、私がやっていることは間違いじゃないと自信を持つようにしています(笑)」と捉えている。

『ザ・ノンフィクション』で見つめた“おじさん”たちの今後に興味津々

『ザ・ノンフィクション』では、フィリピンでひっそりと暮らす70代の日本人男性・平山さんを追った「私の父のなれのはて ~全てを失った男の楽園~」(24年4月28日放送)のナレーションも担当した尾野。それに続く今回も、伯爵という不思議な魅力を持つ“おじさん”が主人公の作品を担当することになり、「(番組テーマ曲の)『サンサーラ』を聴くと、数奇な人生を送る人たちに寄り添うのが自分の役割なのかもと思って、楽しみでした」と臨んだ。

いずれの“おじさん”たちも、その後の物語に興味津々の尾野。「平山さんは今はどういう状態なのか分かりませんが、伯爵も私の故郷である奈良にいらっしゃるようなので、余計気になります。ぜひもう一度追いかけてほしいですし、その時にこの日本の社会がどう変わっているのかも楽しみですね」と期待を寄せた。

●尾野真千子
1981年生まれ、奈良県出身。97年に映画『萌の朱雀』で主演デビューし、『火の魚』『Mother』『名前をなくした女神』『カーネーション』『最高の離婚』『ライオンの隠れ家』『阿修羅のごとく』などのドラマ、『クライマーズ・ハイ』『そして父になる』『茜色に焼かれる』『新幹線大爆破』などの映画に出演し、NHK連続テレビ小説『虎に翼』では語りを担当した。2026年には映画『仏師』が全国公開予定。