ホテル業界のアカデミー賞とも称される「ワールドラグジュアリーホテルアワード」の2024年版にて、開業から3年で3冠受賞を果たした宿がある。それが広島県、瀬戸内海に浮かぶ江田島(えたじま)に位置する「江田島荘」だ。世界が注目する小さな島のホテルを、実際に訪ねてみた。
風光明媚な瀬戸内海を望むオーシャンビューホテルの「江田島荘」
広島港からフェリーで約30分、呉から車で約40分の場所に位置する江田島。古代より海上交通の要衝として栄え、旧海軍兵学校、旧陸軍砲台跡などで知られている。一方で、穏やかな海でのカヤックやSUP、トレッキングやサイクリングなどアウトドアも盛んな観光地としての顔も持つ。
そんな江田島に「こころと身体が元気になる温泉宿」として、2021年7月に開業したのが「江田島荘」だ。「ワールドラグジュアリーホテルアワード2024」では、Luxury All-Inclusive Hotel部門を日本初受賞、Luxury Small Hotel部門ではアジア最高位を日本初受賞、Luxury Hot Spring Hotel部門では世界最高位を日本初受賞する快挙を成し遂げている。
また2025年6月10日には、「日本秘湯を守る会」の正式加盟宿となった。1975年に発足したこの会は、自家源泉を持つこと、その土地の風情やもてなしを大切にすることなど、厳格な基準で知られる。「江田島荘」は、広島県および山陽地方で初の加盟宿であり、さらに「ワールドラグジュアリーホテルアワード」の受賞施設が同会に加盟するのは史上初の快挙だ。
宿に到着すると、大きな窓の外に広がる瀬戸内海の風光明媚な景色が出迎えてくれる。ロビーラウンジ「宙(そら)ラウンジ」で、着席しながらゆったりとチェックイン手続きを行う。
ウェルカムサービスとして振舞われるのが、スパークリングワイン(ノンアルコールドリンクの選択も可能)と、「にしき堂」の貴重な和菓子「德川宗家十九代継承記念 楓果 ふうのか」だ。心のこもったもてなしから、滞在への期待は大きく膨らむ。
ラウンジの一角にある「陽だまりカウンター」には、コーヒーやお茶、ワインや日本酒の利き酒マシン、ハーブウォーターなどが配されており、6:00~24:00の時間、宿泊者は自由に味わうことができる。
また、15:00~17:00の時間帯には江田島で採れた季節の果実を使った自家製スナック、22:00からはシェフ特製の「本日のまかない飯」と題した夜食も提供される。朝の時間帯にはお目覚めの一杯が用意されており、朝風呂後の一杯に最高だ。
オールインクルーシブプランを選べば、「陽だまりカウンター」でのビールやレトロドリンクもフリーフローになる。こうした滞在中のドリンクやスナックが宿泊料金に含まれるオールインクルーシブのスタイルが、「Luxury All-Inclusive Hotel」部門での受賞につながった一因であろう。
ラウンジをやわらかく照らすのは、和紙作家の堀木エリ子氏が手掛けた「宙の兆し」という「立涌(たてわく)」柄の光柱だ。底面中央には、江田島出身の六角紫水氏が手掛けたといわれるキリンビールのロゴマークが透かし柄として配されており、その周囲に風水四神を表す四色の色糸を漉き込まれている。このほか、ロビー、レストラン、温泉に堀木氏のアート作品がディスプレイされている。
また、ラウンジの一番大きな壁と全ての客室のベッド側の壁に「紙布(しふ)」を採用しているのも特徴的だ。日本には2社しかない紙布織物工場で、江田島で130年の歴史を誇る津島織物製造の壁紙があしらわれている。ラウンジ内には、広島にゆかりのある書店が選書した本が並ぶミニライブラリーもあるので、ドリンクや軽食と共に本を読みふけるのもいいだろう。
目の前にビーチが広がる「凪テラス」も見逃せない。ここにはソファやサンベッドのほか、足湯もあるので、足湯に浸かりながら海を眺めるという贅沢な時間を過ごせる。
全32室オーシャンビュー、瀬戸内海の情景に溶け込む客室
客室は、全32室が瀬戸内海を望むオーシャンビューだ。今回宿泊した「スタンダード和洋室 B」も例外ではなく、窓の外には瀬戸内海の静かな海が広がり、時間が経つのを忘れさせてくれた。
快適な睡眠へのこだわりも徹底している。マットレスには広島を代表する「ドリームベッド」社のものを採用し、シーツは石川県の老舗布団店「石田屋」のものを使用。そして、ゲストが直接肌に触れるタオルには、風力発電で織り上げるオーガニックタオル「IKEUCHI ORGANIC」を備えるなど、細部に至るまで心と身体を休めるための配慮が行き届いている。
特別室など一部の客室にはバルコニーもあり、長瀬海岸が目の前に広がる。瀬戸内海の穏やかな潮風を感じながら過ごす時間は、格別だ。
希少なラドン泉を源泉かけ流しで堪能できる「えたじま温泉」
「江田島荘」が世界的に評価された大きな理由の一つが、温泉である。その泉質は、全国的にも珍しいラドン泉。ラドンは呼吸によって体内に取り込まれ、細胞の働きを刺激するホルミシス効果と呼ばれる反応が起き、血行・代謝促進、免疫力アップが期待される。
源泉は地下1,700メートル、1億2千万年前の白亜紀の地層にまで届く。ここから湧き出る温泉は「化石海水型温泉」とも考えられる非常に希少な泉質で、太古の海水が長い年月をかけてろ過され、豊富なミネラルを含む温泉となったといわれている。
さらに「えたじま温泉」の温泉成分は、温泉法で定められた基準の約26倍にも及ぶ。唇に触れると塩辛く感じるほどだ。体内の水分よりも高濃度であるため、湯船に浸かると、浸透圧により温泉成分が肌や体内へ届きやすいという。全国でも珍しいラドン泉の源泉かけ流しのぬる湯もあり、加温されたあつ湯と、源泉かけ流しのぬる湯の交互浴をするのもおすすめだ。
大浴場は源泉かけ流しを含む内風呂、寝湯を含む露天風呂、スチームサウナを完備。温泉は日帰り入浴も可能だ。宿泊者限定で、予約制の半露天貸切風呂も2室ある。
湯上り処からの景色もまた素晴らしい。一面ガラス張りになっており、庭園越しに瀬戸内海が眺められる。
この湯上り処、17:00~23:00の時間「Kei’s bar」というナイトバーへと様変わりする。本格的なカクテルが味わえるので、湯上りの一杯はもちろん、ディナー前のアペロや就寝前の一杯などを楽しむのもいいだろう。
瀬戸内の恵みが散りばめられた「えたじまフレンチ」の夕食と和朝食
オーシャンビューレストラン「locavore(ロカヴォーレ)」での食体験も「江田島荘」を語る上で欠かせない。「local = 地元」と「vore = 食動物」が名前の由来の通り、江田島をはじめ瀬戸内海をメインとした地元産の食材をふんだんに使っている。
ディナーでは、イタリアンのエッセンスも加えた「えたじまフレンチ」がコンセプト。取材時(7月)のディナーでは、「江田島オリーブファクトリー」のオリーブオイルや、広島県産のキジハタを使ったカルパッチョや、自家製パスタで包み上げた広島県産真鯛のトルテッローニが登場。
メインの魚料理である広島県産マナガツオのポワレや、和牛フィレのロティには「三次ワイナリー」の赤ワイン「シラー」を使ったソースが添えられるなど、この土地の食の豊かさを感じられる内容だ。
ハウスシャンパーニュがサステナブルな取り組みに力を入れる「テルモン」というのも「江田島荘」との共鳴を感じる。
朝食は「島のお母さんの朝ごはん」をコンセプトにした和食だ。江田島荘オリジナルの南部鉄器で炊き上げた広島県産米や、朝どれ野菜のサラダ、魚介だしのお味噌汁、サバの塩麹焼きなど、新鮮な食材のポテンシャルを生かした料理が並ぶ。
国際的なラグジュアリーホテルの快適性と、日本の伝統的な湯治文化を継承する「秘湯」、そして地元食材を使った創造的な食体験。この唯一無二の体験こそ、「江田島荘」が世界から評価されているゆえんだろう。
取材協力: 広島県


























