「昇給したのに、手取りは減ってしまった」という話を耳にしたことはありませんか? 「本当にそんなことあるの?」と疑問に思うかもしれませんね。そこで、どのような場合にそうなるのか、具体的なシミュレーションを交えながら解説していきます。
昇給したのに手取りが減るケース
昇給したのに手取りが減ることは、実際に起こり得ます。その理由は、税金や社会保険料の増加、各種控除や手当の廃止など、さまざまあります。ここではよくあるケースをご紹介します。
ケース1: 社会保険料の増加による手取りの減少
昇給によって給料が増えると、所得税の税率が上がる可能性があります。しかし、仮に課税所得が329万円から330万円になり、税率が10%から20%になったとしても、全体に20%の税率が適用されるわけではなく、329.9万円までは10%、それ以上が20%の税率になるので急激には増えません。これを「超過累進課税」と言います。そのため、所得税のみで考えると、「昇給によって手取りが減る」ような逆転現象は基本的に起こりません。
しかし、社会保険料の場合は、「標準報酬月額」という一定幅で区切られる等級に当てはめて保険料を求めます。そのため1円増えたことで等級が上がり、数千円社会保険料が増えることもあります。つまり社会保険料の場合は、「昇給によって手取りが減る」逆転現象が起こり得ます。
具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
<昇給前と昇給後の手取り比較>
昇給前の月収: 30万9,000円
昇給後の月収: 31万円
1,000円昇給したにもかかわらず、手取りが1,522円減っています。その理由は、標準報酬月額の等級が上がってしまったため、社会保険料が増えたことが影響しています。社会保険料は収入の15%程度差し引かれるため、1つ等級が上がるだけで保険料が大きく増加することがあります。
社会保険料は毎年4月~6月の給料をもとに決定するため、この時期に昇給をするとその年の9月から昇給後の保険料が適用されます。
ケース2: 住民税の増加による手取りの減少
住民税は前年の所得に基づいて計算した額が差し引かれるため、前年に昇給した場合は、今年の6月から増加した住民税が引かれます。そのため、前年と今年で給料の額が同じである場合、前年は昇給前の住民税が引かれ、今年は昇給後の住民税が引かれるため、今年の方が手取りは少なくなります。このケースでも、昇給したのに手取りが減ったと感じる場合があると思います。
住民税による手取りの変化は社会人2年目が顕著です。社会人1年目は前年の所得がないため住民税が引かれません。そのため新たに住民税が引かれる2年目が手取りの減少を強く感じることになります。
ケース3: 控除や手当の減額・廃止による手取りの減少
配偶者控除や配偶者特別控除には、所得制限が設けられています。配偶者控除は合計所得金額が900万円を超えると減額され、1,000万円を超えると適用されません。配偶者特別控除も納税者本人と配偶者の合計所得金額に基づいて控除額が変わり、1,000万円を超えると適用外となります。控除がなくなると、課税所得が増えるので、税金が多く引かれて手取りが減る原因となります。
また、会社によっては「住宅手当」や「家族手当」など、会社独自の手当が所得制限付きで設けられている場合があります。この場合、昇給によって所得制限を超えると、手当が減額されたり廃止されたりするので、手取りが減ることになります。
ケース4: 管理職になり残業代が支給されなくなった
管理職になって昇給しても、残業代が支給されなくなることで手取りが減ることがあります。労働基準法では、管理監督者とみなされると、労働時間・休憩・休日の規定が適用されなくなるため、残業代や休日手当を支払わなくてよいとされています。(労基法41条2号)
そのため、管理職に昇進して、役職手当や管理職手当などがついて、仮に月5万円給料が上がっても、それまで、残業代として月8万円を得ていたら、実質3万円手取りが減ることになります。
ただし、管理職になったからといって、必ず残業代がカットされるわけではありません。管理監督者の定義は、経営者と一体的な立場にある場合に該当するので、単なるリーダー的な管理職の場合は、管理監督者とは言えません。
まとめ
「昇給すれば、手取りが増える」と思いがちですが、そうならないケースもあることが理解できたと思います。社会保険料は給与を等級に当てはめて保険料が決まる仕組みなので、わずかな昇給でも境界ラインを超えると保険料が大きく増え、結果的に手取りが減ることがあります。また、管理職昇進で残業代がなくなるケースは、昇給分以上の収入減になることもあります。このように、制度の仕組みを知っていれば、想定外の手取り減に驚かずに済みます。給与明細はしっかり確認して、毎月の手取りや支出を把握しておくことが大切です。昇給やライフステージが変わるタイミングでは、一度家計を見直してみるといいでしょう。