福島民友電子版の報道によると、会津鉄道は6月24日の取締役会で常務の佐藤喜市氏を新社長に選任したという。佐藤社長は観光客の増加を図り、年間輸送人数50万人をめざすとしている。福島県は会津鉄道に新たな観光列車を導入すべく、2024年7月から検討を始めている。佐藤社長は観光車両も含め、今後10年間で保有車両をすべて更新する考えを示した。
更新対象の車両は11両あり、観光客に人気の「お座トロ展望列車」や、「AIZUマウントエクスプレス」として活躍する車両も含まれる。会津鉄道は1月に国から10年間の鉄道事業再構築実施計画を認定されており、車両更新は設備投資計画に沿ったものとなる。
会津鉄道の車両、新旧交代のタイミングを探る
会津鉄道が現在保有している車両を古い順に紹介すると、次の通りとなる。
- AT-400形(1両) : 2003年改造、展望座敷席の観光車両
- AT-500形(2両)、AT-550形(2両) : 2004年新造、セミクロスシートの一般車両
- AT-600形(1両)、AT-650形(1両) : 2005年新造、転換クロスシートの一般車両
- AT-350形(1両) : トロッコタイプの観光車両
- AT-700形(1両)、AT-750形(2両) : 2010年新造、回転リクライニングシートの一般車両
観光車両2両・一般車両9両の合計11両。型式番号の50番代は原則としてトイレ付きだが、AT-350形はトイレなしの車両となっている。最も古いAT-400形は、改造されるまでJR東日本のキハ40形(キハ40-511)だった。国鉄時代の1978年に製造後、JR東日本へ引き継がれ、会津若松運輸区に配属。後に会津鉄道へ譲渡された。つまり、製造から47年も経っている。頑丈なキハ40形だから今まで走れた。しかし2024年5月の報道で、耐用年数が残り数年と見積もられた。
福島県はJR只見線を含めた会津地方の活性化に向けて、新しい観光列車を検討している。2025年の報道で「2028年の運行開始を目標」としていたことから、AT-400形を車齢50年で交替させようと考えていたと思われる。「相棒」となるAT-350形は車齢16年とまだ若いため、しばらくは「新しい観光車両」と併結または単独のトロッコ列車として走れそうだ。
前掲の福島民友の記事によると、一般車両9両は2032~2034年度の3年間で3両ずつ更新していく予定とのこと。車両交替のスケジュールを予想すると、2028年までに2両編成の「新しい観光列車」が登場し、車齢50年のAT-400形が引退。2032年度に一般車両の新車3両が入線し、AT-500形とAT-550形のうち3両が引退する。2033年度も一般車両の新車3両が入線し、AT-500形かAT-550形の1両、AT-600形とAT-650形の2両が引退。2034年度に一般車両の新車3両が入線し、AT-700形とAT-750形の3両が引退すると考えられる。
2034年度に導入する新車3両は、「AIZUマウントエクスプレス」の後継車種になるだろう。AT-700形とAT-750形は引退となるが、車齢24年と若いから、まだまだ頑張れそうな気がする。座席も上等だから、他の地域のローカル鉄道が欲しがるかもしれない。
会津鉄道の観光車両を新造、只見線乗入れでさらなる集客に
会津鉄道は旧国鉄・JR東日本の会津線を引き受けた第三セクター鉄道。会津線は1927(昭和2)年に只見線の西若松駅から分岐して上三寄駅(現・芦ノ牧温泉駅)まで開業し、1953(昭和28)年に会津滝ノ原駅(現・会津高原尾瀬口駅)まで全通した。国鉄再建法により第2次特定地方交通線に指定されたが、地元自治体が第三セクターを設立して存続。その過程で国鉄が分割民営化されたため、実際はJR東日本が廃止し、第三セクターへ譲渡という形になった。
現在、会津鉄道は会津高原尾瀬口駅から野岩鉄道と直通運転を実施している。野岩鉄道はかつて会津滝ノ原駅と国鉄日光線の今市駅を結ぶ路線として計画されたが、国鉄再建法によって工事が凍結されてしまった。そこで、こちらも第三セクターを設立して工事を続行し、1986(昭和61)年に会津高原尾瀬口駅(当時は会津高原駅)から新藤原駅まで開業。新藤原駅から東武鬼怒川線と直通運転を実施している。こうして、東京都心から会津若松市内までJR線を介さないルートができ上がった。
会津鉄道は南側の会津田島~会津高原尾瀬口間が電化されており、野岩鉄道を経由して東武鉄道の特急「リバティ会津」が1日4往復乗り入れてくる。季節運転の臨時列車として、特急「スカイツリートレイン」も会津田島駅まで運転されている。したがって、観光需要としては東京側からの流入が多い。一方、会津若松方面の需要もあり、生活路線の意味合いがあるほか、会津若松駅発着で「お座トロ展望列車」を走らせ、会津若松駅と鬼怒川温泉駅を結ぶ「AIZUマウントエクスプレス」も運行している。
「お座トロ展望列車」は2011年7月から只見線でも運行していたが、その直後に只見線が新潟・福島豪雨で被災し、寸断された。JR東日本はバス転換を促したものの、地元自治体と福島県は観光の要として只見線に活路を見出し、鉄道復旧を望んだ。その結果、会津川口~只見間は上下分離とし、福島県が第三種鉄道事業者となって復旧した。
福島県は只見線の観光を強化するため、観光列車の運行を働きかけた。たとえば、2023年は「お座トロ展望列車」を10~11月の8日間にわたって運行。予約開始から5日で満席となる列車もあった。運行された8日間の乗車率は76.1%で、これも十分な成功といえる。ただし、JR東日本のトロッコ列車「風っこ号」は82.1%、観光列車「SATONO(さとの)」はキャンセル待ちとなったとのこと。えちごトキめき鉄道のリゾート列車「雪月花」による特別運行も、1名あたり2万5,000円と高額だったにもかかわらず、満席だった。
これらの結果から「お座トロ展望列車」の76.1%をどう考えるべきか。只見線の観光列車には伸び代がある。しかし車両の魅力が足りない。もっと良い車両を投入しよう。これが前向きなとらえ方ではないか。そこで福島県は考えた。只見線だけのために観光車両を製造できないとしても、会津鉄道の観光車両をリニューアルし、会津鉄道と只見線の両方を走らせれば、もっと集客できるはず。JR東日本をはじめ、他社の車両をいつも使えるとは限らない。
只見線沿線は、鉄道のある風景写真の素晴らしさが評価され、いまや世界的観光地になりつつある。そのアプローチ線として、東北新幹線から磐越西線のルートだけでなく、東武鉄道・野岩鉄道・会津鉄道のルートも十分に成り立つ。同じルートを戻る旅は楽しくない。行きと帰りでルートを変えたい。加えて、小出駅まで上越新幹線と上越線を乗り継ぐルートもあるから、只見線にアプローチできるルートは合計3つとなる。このうち、利用できるルートは最大2つ。只見線へのルートも競争になるだろう。
そしてもちろん、会津鉄道そのものの魅力を発信する観光列車ができれば、会津鉄道を奥会津観光の軸にできるわけだ。
鉄道事業再構築の実施計画は車両更新だけでない。駅などの施設整備も含め、総額約141億円の投資になる。これは会津鉄道の輸送の維持・持続可能性向上にも寄与する。実施計画では、2034年度までに年間利用者数47万人を見込む。佐藤社長は年間輸送人数50万人をめざすとしており、3万人を上乗せできるかどうかは観光車両を含む新型車両の魅力にかかっている。