JR東日本が2025年夏の臨時列車を発表。リストの中に「GV・SLぐんま横川」「SL・GVぐんま横川」「SL・GVぐんま桐生」「GV・SLぐんま桐生」とあり、鉄道ファンらをざわつかせた。かつては「GV」の位置に「EL」「DL」があり、「SL」は蒸気機関車(Steam Locomotive)、「EL」は電気機関車(Electric Locomotive)、「DL」はディーゼル機関車(Diesel Locomotive)だった。「GV」は電気式気動車(Generating Vehicle)のGV-E197系を示す。
GV-E197系は保線や車両の回送などの用途を想定して製造された。国鉄時代から使い続けた電気機関車・ディーゼル機関車が老朽化する一方で、JR東日本としては代替する機関車を新造しない方針となった。もともと貨物列車は運転しないし、「カシオペア」を最後に長距離客車列車も廃止に。重量列車を牽引する機関車の必要がなくなった。
しかし、わずかながら機関車を必要とする場面はあった。保守用資材の輸送と車両の回送である。新型車両を受け取って車両基地へ輸送する、廃車を車両基地から解体工場へ送り込む、車両の配置を転換するなど、電車・気動車を無動力化して運ぶ用途がある。こうしたわずかな用途のために新型車両を製造することとなったが、機関車ほどの大出力にする必要がないため、電車・気動車として製造している。電車版は2両1ユニットのE493系、気動車版はGV-E197系となった。どちらも貨車や客車に連結する自動連結器と、電車と連結する密着自動連結器の両方を切り替えられるようにしている。
GV-E197系は動力車のGV-E197形と砕石輸送車両のGV-E196形に分けられ、GV-197形2両の間にGV-E196形4両を組み込む。動力車を列車の前後に連結した「プッシュプル方式」の運転が可能で、機関車の前後を付け替える手間が要らない。ディーゼル発電機で作った電気でモーターを動かす方式で、電車と同じ制御方式となっている。
列車の運転に必要な動力車運転免許は電気車と内燃車で異なるが、GV-E197形のような内燃機関発電式の車両はどちらかの免許があれば追加講習のみでできるという。電気機関車もディーゼル機関車も大出力で保守にお金がかかり、運転者の養成も必要。JR東日本としてはGVタイプの車両に置き換える利点のほうが大きいため、機関車の廃止に踏み切った。
ただし、JR東日本にとって重要な客車列車が残っていた。高崎駅を拠点に運行している「SLぐんま」シリーズである。「SLぐんま 水上」は水上駅に転車台があるため、往復ともにSL列車として運転できる。一方、横川駅と桐生駅に転車台はないため、蒸気機関車のみでの運転はできない。そのため、蒸気機関車の反対側に電気機関車またはディーゼル機関車を連結した。
- 「SL・ELぐんま 横川」 : 横川行は蒸気機関車(SL)が先頭、高崎行は電気機関車(EL)が先頭
- 「EL・SLぐんま 横川」 : 横川行は電気機関車(EL)が先頭、高崎行は蒸気機関車(SL)が先頭
- 「SL・DLぐんま 横川」 : 横川行は蒸気機関車(SL)が先頭、高崎行はディーゼル機関車(DL)が先頭
- 「DL・SLぐんま 横川」 : 横川行はディーゼル機関車(DL)が先頭、高崎行は蒸気機関車(SL)が先頭
桐生駅で折り返す列車の場合、「横川」の部分が「桐生」になる。旧型客車を使用する場合、「ぐんま」の部分が「レトロぐんま」になる。
昨年8月、JR東日本は電気機関車とディーゼル機関車の旅客列車運用を2024年秋で終了すると発表。「誇り高き機関車たちを胸に刻む。EL・DL カウントダウン運転開始!」と銘打ち、「SLぐんま」系統のEL・DL列車を運行した。ただし、SL列車の運行終了ではなかった。今後のSL列車はどうなるのか。前後に蒸気機関車を連結したら大喜びだし、奇抜な発想として、制御客車を新造して蒸気機関車を推進運転する方法もある。そうでない場合、JR貨物から機関車を借りるか、2021年から配備されているGV-E197系やE493系を使うことになるだろう。
客車がほぼ半減されたこともざわつく理由に
GV-E197系が電気機関車・ディーゼル機関車の代わりになることは予想できた。とくに「鉄道ファン 2024年1月号」で、「200番台は自動ブレーキによる被けん引に対応するための可搬式読替装置を搭載可能な構造」と紹介されており、旅客列車に使用できると判明した。
ここは少し解説が必要だろう。列車のブレーキは、編成全体に空気管を通し、空気圧で制御する方法が主だった。連結が外れると空気が漏れて圧力が下がり、自動的にブレーキがかかるしくみになっている。しかし列車の長編成化により、近年の旅客列車は電子指令制御ブレーキになった。編成全体でブレーキ制御とは別に一定の電圧をかけておき、連結が外れると電気連結器が外れて電圧低下を検知することで、自動的にブレーキがかかる。
自動(空気)ブレーキと電子指令制御ブレーキには互換性がない。連結するには電子指令制御車両側に自動(空気)ブレーキの圧力を検知する読替装置が必要となる。GV-E197系の200番代に読替装置を搭載したため、国鉄時代に製造された客車と連結可能になった。「SLぐんま」シリーズにおける電気機関車・ディーゼル機関車の役割ができるということでもある。
ところで、GV-E197系の起用だけでなく、「GV」の付く列車の客車が3両であることも鉄道ファンらをざわつかせた。「ELぐんま」「DLぐんま」の客車はいずれも最大6両だったが、機関車から気動車の牽引に変更したことで、客車はほぼ半減となった。蒸気機関車が重いからともいえるが、GV-E197系は機関車よりずっと非力だとわかってしまった。
機関車の牽引性能は出力と軸重で決まる。高出力で質量が大きいほど、牽引力が増加する。そこで比較すると、GV-197形は自重58トン、モーター出力は110kW×4基だという。DD51形は空車重量76トン、機関出力2,200馬力で、換算すると約1,618kW。EF65形は自重96トン、定格出力2,550kW。GV-E197系は機関車より軽く、出力が小さい。事業用車の用途に最適な性能だからと思われるが、そのしわ寄せが「GVぐんま」に現れてしまった。
客車が最大6両から3両に減れば、単純に考えて最大運賃収入が半分になる。JR東日本にとってもうれしくないだろう。しかし、SL列車用に高出力な機関車を導入し、機関士を養成する手間と費用を考えると、収入を減らしてでも妥協すべきと考えた可能性がある。「SLぐんま 横川」「SLぐんま 桐生」の乗車率は「SLぐんま 水上」より低かったかもしれない。
鉄道ファンらにとっても、客車の3両化は妥協点といえる。客車6両の場合、曲線区間で最後尾の窓から前方の機関車を撮影できる。かつて雑誌「鉄道ジャーナル」の列車追跡記事でも使われたことから「ジャーナル撮り」とも呼ばれるという。客車3両では、よほど急カーブにならないと「ジャーナル撮り」ができない。外から列車を撮影する場合も、客車6両と客車3両では見栄えが違う。それでも廃止されるよりはずっといい。
客車列車の楽しさは機関車だけにとどまらない。独特の揺れと停車時の静けさに加え、12系客車や旧型客車のような4人掛けボックスシートもいまでは貴重な体験になった。「GVぐんま」は事業用車両を使った珍しい列車になるし、これはこれとして趣味的な価値がある。むしろGV列車を新しい列車として売り出したい。特別なラッピングやマークを入れるなどの仕掛けがあるだろうか。運行開始は楽しみだが、客車3両はやはり寂しい。
いっそ、横川行・桐生行ともに蒸気機関車だけで客車6両とし、逆方向はGV-E197系で蒸気機関車と客車を別々に回送しても良いのではないか。いや、GV列車も面白そうだから、3重連で客車だけ運行てきないか。
そんなことは織り込み済みかもしれないが、試してみてほしいと思う。