経営状況が悪化している福岡県の第三セクター鉄道、平成筑豊鉄道について、今後のあり方を検討する法定協議会が設置された。鉄道の設備が老朽化し、保守費用を増額する見通しで、自治体の補助金拠出額の限界を超えた。今後、1年間にわたって調査検討を重ね、鉄道の存続、バス転換、BRT転換など協議するという。協議会には沿線9市町村をはじめ、交通事業者や学識経験者も参加する。対象となる路線は伊田線、糸田線、田川線の3路線。上下分離方式で列車の運行のみ担う第二種鉄道事業の門司港レトロ観光線(北九州銀行レトロライン)は含まれない。

  • 平成筑豊鉄道で初という自転車ラックを搭載した車両「黒銀(KU RO GI N)」。2024年3月に運行開始した

平成筑豊鉄道は1989(平成元)年に設立され、JR九州の赤字ローカル線だった伊田線、糸田線、田川線を継承した。正確にはJR九州の前身である国鉄時代にさかのぼり、1980年に成立した国鉄再建法の下、1981年に発出された国鉄再建法施行令によって「特定地方交通線」に分類された路線である。原則として鉄道を廃止し、バス転換が適当とされていた。

伊田線、糸田線、田川線はもともと筑豊炭田で採掘された石炭を港へ輸送するために建設された路線だった。1890年代に民間資本で開業し、1907年に国有化。戦前・戦後にわたり石炭輸送で活躍したが、1960年代から筑豊炭田の炭鉱閉山が始まり、役目を終えた。

  • 平成筑豊鉄道の路線図。対象は南側の3路線。門司港レトロ観光線(北九州銀行レトロライン)は対象外

その後は旅客営業と田川線のセメント輸送を担っていたものの、輸送密度4,000人/日未満という基準によって、1986年に第3次廃止対象路線にリストアップされた。翌年、国鉄の分割民営化にともないJR九州が発足。3路線を継承したが、廃止方針も継承された。そこで、鉄道を残したいという沿線自治体の要望で第三セクターの鉄道会社を設立。現在の出資比率は、福岡県と沿線9市町村の合計で64.46%、民間資本が35.54%となっている。

線路・車両・設備の交換時期に直面

平成筑豊鉄道は開業当初から「原則1両運転」「ワンマン運転」を取り入れてコストを削減しつつ、運行本数を増やして便利な鉄道をめざした。その効果もあって、1992年の年間利用者数は約342万人まで増えた。しかし、これをピークとして利用者は減少し、2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で年間利用者数約118万人と、ほぼ3分の1まで減ってしまった。その後、回復したとはいえ、2023年の年間利用者数は約124万人で微増だった。

出資者でもある沿線9市町村は、2011年度から助成金を交付した。当初は年間1億5,000万円だったが、業績悪化とともに増えていき、2023年度は約3億円になった。平成筑豊鉄道も経営努力をしており、2012年には日中時間帯を中心に列車を大幅に削減している。こうした関係は続き、26年連続の営業赤字といえども、赤字を助成金で補いながら運行を続けていた。決算では、助成金を含むとはいえ経常黒字になった年もある。

平成筑豊鉄道は自転車操業状態とはいえ、明るい話題が多かった。2008年にカラオケを搭載した500形の観光車両「へいちく浪漫号」を投入。この車両を使って2018年からレストラン列車「里山列車紀行ひとつ星」を運行開始した。2019年から400形を水戸岡鋭治氏のデザインで改造した観光列車「ことこと列車」がデビュー。フランス料理を提供するレストラントレインとして人気だという。

  • 2019年に登場した観光列車「ことこと列車」

  • 門司港レトロ観光線(北九州銀行レトロライン)を走る「潮風号」

2009年には、門司港レトロ観光線が開業した。旧貨物線を活用し、九州鉄道記念館駅(JR門司港駅から徒歩2分)と関門海峡めかり駅を結ぶトロッコ列車で、北九州市が鉄道の施設を保有し、平成筑豊鉄道が施設を借りて列車を運行する上下分離方式の観光路線となっている。

ユニークなところでは、2023年に「爆破」をテーマとした町おこしの試みもあった。金田駅の広い操車場と、有志がクラウドファンデングで保存した元ひたちなか海浜鉄道の車両「キハ2004」を使い、爆音と燃える火の間を列車が通り抜けるという趣向で、往年の刑事ドラマ『西部警察』のファンだという飯塚市出身の映像作家が手がけた。

このまま、平成筑豊鉄道が沿線自治体に許容できる範囲内で赤字を補填しつつ、運行を続けていられればよかった。しかし、施設の老朽化という問題に直面した。

2024年6月7日に西日本新聞me(電子版)やNHKなどが、「平成筑豊鉄道が沿線自体に法定協議会の設置を要請する方針」と報じた。平成筑豊鉄道の株主総会で意向が示されたという。今後、鉄道を維持する場合、レールやまくらぎの交換、鉄橋の錆止め塗装その他の費用が必要になる。鉄道を維持する場合の費用について、当初は年間約10億円、30年間で338億円になるとのこと。

  • 3路線のうち伊田線(直方~田川伊田間)は全線複線

現在の助成金は年間約3億円だから、3倍以上の助成金が必要になる。30年間といえば車両の更新も必要だろう。少子高齢化によって鉄道の利用者が減り、市町村側も税収増が見込めない中で、これ以上の助成金増額は難しい。それを察して、平成筑豊鉄道は法定協議会設置を要請した。

法定協議会とは何か? 再構築協議会との違いは

法定協議会は、2007年に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」にもとづく制度であり、国土交通省の資料によると、「民間鉄道事業者任せにしていては、利便性と持続可能性の高い地域公共交通を維持していくことが困難」な場合に、地方公共団体が組織するという。

この法律は2024年6月23日に改正され、新たに「鉄道事業者から法定協議会の設置を要請できる制度」と、「国が組織する再構築協議会」が新設された。再構築協議会は地方公共団体または鉄道事業者から国に要請できる。

ざっくりいえば、法定協議会で決着しないときや、法定協議会の設置に合意されない場合は、国に再構築協議会の設置をお願いするというしくみになった。法定協議会も再構築協議会も、協議の結果として鉄道を維持する場合は「鉄道事業再構築事業」として、あるいは鉄道以外の交通手段を選択する場合は「地域公共交通利便増進事業」として、それぞれ国の支援を受けられる。

赤字ローカル線の存廃問題では、鉄道事業者側の「廃止したい」、自治体側の「廃止反対」から始まる事例が多かった。それがこじれて、国に鉄道事業再構築協議会の開催を願い出るという形になる。一方、平成筑豊鉄道は沿線自治体に法定協議会を要請した。「相談させてください」からスタートしたことになる。正しい手順だと思うし、自治体も平成筑豊鉄道の株主で、経営状況を理解しているからこそできたことかもしれない。

上毛電鉄の協議会は「鉄道で存続」基本方針

2024年6月28日、平成筑豊鉄道は沿線市町村に対し、法定協議会設置を要請すると発表した。7月3日には、2024年3月決算で約5,800万円の赤字と発表した。27期連続赤字で、累積赤字は約2億5,600万円。この状況から、平成筑豊鉄道は沿線市町村に約2億5,000万円の追加支援を要請した。

沿線市町村は対応を検討すると同時に、もはや沿線自治体だけでは問題を抱えきれないとして、10月31日に法定協議会の設置を福岡県に要請した。筆頭株主の福岡県も受諾し、年度内に法定協議会を設置することになった。平成筑豊鉄道の2024年度の赤字が2億円を超えること、2025年1月に資金不足になることから、沿線市町村は11月1日に合計1億5,000万円の追加支援を決めた。残り5,000万円は金融機関と交渉するという。

こうした経緯から、2025年1月31日に平成筑豊鉄道の第1回法定協議会が開催され、県と沿線自治体のほか、民間の交通事業者、学識経験者が参加した。今後は4~5月にかけて、判断材料となる調査の項目を決めて調査を開始し、秋に調査結果を取りまとめた上で、冬に関係者の意見を集約する。方針の決定は2025年度内をめざす見込み。鉄道を維持する場合は上下分離、既存の道路を走行する路線バスへの転換、線路を舗装してバス専用道とするBRT(バス高速輸送システム)の導入などについて検討することになる。

法定協議会の設置は鉄道の存廃問題に直結する。鉄道での存続は難しいと思われがちだが、上毛新聞1月28日付「上毛電鉄は全線存続 協議会が基本方針 魅力や利便性高め沿線価値向上」によると、上毛電気鉄道(群馬県)のあり方を協議する「沿線地域交通リ・デザイン推進協議会」は、同社の全線を鉄道で存続させる基本方針を決定したという。

上毛電鉄の毎年の赤字は2億~3億円、自治体からの補助金は毎年3億円と、平成筑豊鉄道に似ている。協議会のアンケートによると、利用者の6割が鉄道維持のための運賃引上げを容認しており、バスやBRTに転換した場合の5年間の収支を試算して、鉄道が最も赤字が少なかったとのこと。

いままでのローカル線存廃論議は、「鉄道が無理ならバスに」だった。しかし、バスの運転手不足という状況を考えると簡単にはいかない。BRTは線路の道路化工事など初期費用が大きい。伊田線、糸田線、田川線の3路線ともに石炭輸送の役割は終わったが、現在は地域輸送の要である。地域の利用者にとって最良の答えが見つかることを願い、見守っていきたい。