高所得とされる年収でも、税金や社会保険料が引かれると、手取りは思ったほど多くないという話はよく聞きます。そこで、何がどのくらい引かれているのか、その中身を解説するとともに、「年収1,200万円」、「年収800万円」、「年収400万円」の手取りを、シングル・ファミリー別に計算して、比較してみたいと思います。

給料から引かれるもの

給料収入(額面金額)から、税金と社会保険料を引いた金額が手取りになります。税金は所得税と住民税。社会保険料は健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料を合わせたものです。それぞれの金額の出し方をみていきましょう。

*所得税

所得税は、1年間に得た所得に対して課税される税です。年収から必要経費を引いて所得を出し、さらに所得控除を引いて課税所得を求めます。課税所得に税率をかけたものが所得税額です。給与所得の場合、給与所得控除が必要経費にあたります。所得控除は、社会保険料控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などたくさんあります。

「給与収入」-「給与所得控除」-「所得控除」=「課税所得」
「課税所得」×税率=所得税額

令和19年までは、所得税に復興特別所得税(所得税額の2.1%)が合わせて徴収されます。

*住民税

住民税は居住地の都道府県と市区町村に対して納付する税です。前年の所得に対して課税され、会社員の場合は給与から天引きされます。

住民税は、前年の所得をもとに課税される「所得割」と所得にかかわらず定額で課税される「均等割」で成り立っています。実際は自治体ごとに異なりますが、ここでは、所得割一律10%(道府県民税4%、市町村民税6%)、均等割5,000円(道府県民税1000円、市町村民税3,000円、森林環境税1,000円)で計算します。

*健康保険料

健康保険は会社員や公務員が加入する公的医療保険です。加入者やその家族が病気やケガなどをしたときに保険給付を行います。健康保険料は、標準報酬月額(月給)および標準賞与額(賞与)に保険料率をかけて計算します。保険料率は加入している健康保険組合によって異なります。

ここでは、協会けんぽの東京都の保険料率で計算します。令和6年度の東京都の保険料率は9.98%です。保険料は会社と折半して負担するため、従業員の負担は4.99%となります。

*介護保険料

介護保険は老化が原因で介護が必要になったときに、介護サービスを受けられる制度です。40歳以上65歳未満の人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。

協会けんぽの令和6年度の東京都の介護保険料率は1.6%となっており、健康保険と合わせて11.58%となります。保険料は会社と折半して負担するため、従業員の負担は5.79%となります。

*厚生年金保険料

厚生年金は、会社員や公務員が加入する公的年金制度です。厚生年金に加入することで、国民年金にも加入していることになり、国民年金(基礎年金)とその上乗せである報酬比例部分の年金を受け取ることができます。

厚生年金保険料は、標準報酬月額(月給)および標準賞与額(賞与)に保険料率をかけて計算します。現在、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。保険料は会社と折半して負担するため、従業員の負担は9.15%となります。

*雇用保険料

雇用保険は、失業時に受け取れる失業保険の給付や職業訓練のための給付などを行う制度です。令和6年度の労働者負担の雇用保険料率(一般事業)は0.6%です。

雇用保険以外は標準報酬月額にそれぞれの保険料率をかけて保険料を出しますが、雇用保険は給与の支給額に雇用保険料率をかけて保険料を算出します。

計算方法に多少の違いはありますが、従業員負担の保険料率をすべて合計すると、40歳未満は14.74%、40歳以上は15.54%となります。そのため、社会保険料を大まかに求めるときには15%で計算してもいいでしょう。

「年収1200万円」「年収800万円」「年収400万円」の手取りを計算

「年収1,200万円」「年収800万円」「年収400万円」のそれぞれについて、単身者と4人家族(配偶者と子2人)の2パターンの手取りを計算してみました。

年収1200万円の手取り

<単身者>
月収100万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳

*所得税および復興特別所得税
125万3,471円

*住民税
82万300円

*健康保険料・介護保険料
68万904円

*厚生年金保険料
71万3,700円

*雇用保険料
7万2,000円

*社会保険料(合計)
146万6,604円

*手取り
845万9,625円

<4人家族>
月収100万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳
配偶者(パート: 年収103万円以下)、小学生の子ども2人

*所得税と住民税について
納税者の所得金額が1,000万円を超えるので、配偶者控除は適用されません。
子ども2人は16歳未満なので、扶養控除の適用はありません。

*社会保険料について
扶養家族がいても保険料は変わりません。

そのため、手取りは単身者と同じになります。

*手取り
845万9,625円

年収800万円の手取り

<単身者>
月収67万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳

*所得税および復興特別所得税 45万8,939円

*住民税 44万8,500円

*健康保険料・介護保険料 47万2,464円

*厚生年金保険料 71万3,700円

*雇用保険料 4万8,000円

*社会保険料(合計) 123万4,164円

*手取り 585万8,397円

<4人家族>
月収67万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳
配偶者(パート: 年収103万円以下)、小学生の子ども2人

*所得税および復興特別所得税
38万1,343円

*住民税
41万5,500円

*社会保険料について
扶養家族がいても保険料は変わりません。

*社会保険料(合計)
123万4,164円

*手取り
596万8,993円

年収400万円の手取り

<単身者>
月収33万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳

*所得税および復興特別所得税
8万4,028円

*住民税
17万4,600円

*健康保険料・介護保険料
23万6,232円

*厚生年金保険料
37万3,320円

*雇用保険料
2万4,000円

*社会保険料(合計)
63万3,552円

*手取り
310万7,820円

<4人家族>
月収33万円、協会けんぽ(東京都)加入、40歳
配偶者(パート: 年収103万円以下)、小学生の子ども2人

*所得税および復興特別所得税
6万4,629円

*住民税
14万1,600円

*社会保険料について
扶養家族がいても保険料は変わりません。

*社会保険料(合計)
63万3,552円

*手取り
316万219円

「年収1200万円」、「年収800万円」、「年収400万円」の手取り比較

  • 「年収1200万円」、「年収800万円」、「年収400万円」の手取り比較 ※筆者試算

年収1200万円は扶養家族がいても支援なし?

今回の試算でモデルとした4人家族は、小学生の子ども2人なので、16歳未満に該当し、扶養控除は適用されません。その代わり、児童手当が支給されます。配偶者は年収103万円以下なので、年収1,200万円以外は配偶者控除が適用されます。

年収1,200万円の場合は、所得金額が1,000万円を超えるため、配偶者控除は適用されません。そのため、このケースでは家族がいても、単身者と手取りはまったく同じになります。

年収に対する手取りの割合をみてみると、年収400万円は約80%となり、年収が増えるに従って割合が減っていき、年収1,200万円では約70%に減っていることがわかります。

2024年10月から児童手当の所得制限がなくなりましたが、それまでは年収1,200万円は特別給付5,000円の支給もありませんでした。年収の約3割を徴収されても支援がまったく受けられなかった年収1,200万円の子育て世帯もようやく児童手当だけは支給されるようになりました。現状、高校授業料無償化制度では、年収1,200万円は原則対象外(※都道府県ごとに異なる)であり、JASSOの貸与型の奨学金もほぼ借りられない年収層です。

高所得とされる年収1,200万円の手取りは850万円に満たないこと、子育てには多くのお金がかかるのに支援はほとんど受けられないことなどから、SNS上で最近よく聞かれる、年収1,200万円でも生活が苦しいという声はあながち間違いではないでしょう。