一連の騒動の責任を取り、27日付でフジテレビ社長を辞任した港浩一氏。2022年6月、彼が社長に就任したのは異例のケースだった。
それまでフジの役員からグループ会社の社長に就任した人物はそこで最後まで勤め上げるのが慣例だったが、港氏は共同テレビ社長からフジに社長として復帰。それは、『とんねるずのみなさんのおかげです』というヒット番組を立ち上げ、その後もフジのバラエティ制作トップとして発揮した手腕から長年低迷する視聴率の上昇へ番組制作力強化を期待されてのものだった――。
「願わくば本人にお会いして直接お詫びしたい」
昼帯や深夜の生放送バラエティに『お台場冒険王』の復活、4年のブランクがあった『FNS27時間テレビ』の2年連続成功と次々に形を作ってきた中で発生したのが、今回の中居正広氏と女性に関する事案。この対処が自身の専門分野ではなかったにもかかわらず、コンプライアンス部署に一報を入れなかったことが、現在の混乱の引き金になったようにも見える。
港氏は27日の会見で、女性の心身のケアを最優先して対応に当たったことを前提にしながら、その後の週刊誌報道での彼女の声を受け、「今思うと反省点もあります。もう少し会社の仕組みを使えるタイミングがあったのではないか」と後悔を見せた。
後悔は、事案への対応を極めて少人数で行ったことにより、何も知らない社員が中居氏を起用した新規の番組を立ち上げる事態になっていたことにも及び、「我々が続けていた対応は本当に正しかったのか、今思うと違ったかなと反省しています」と苦渋の表情を浮かべる。
フジ社長就任以降、“陣中見舞い”とフットワーク軽く制作現場を回り、自身の名を冠した賞では「会社への提案」を募集するなど、歴代社長の中でも社員や現場の声を聞こうとする姿勢が強かった港氏。被害女性がフジを離れるにあたって面会した際に「楽しい会話ができた」と感じていただけに、週刊誌報道で「我々と向き合っていた時と気持ちが違う」と知ったショックは大きかったようで、「願わくば本人にお会いして直接お詫びしたい」という言葉が聞かれた。
語気を強めて「そういう気持ちはありません」
取材陣から再三質問が飛んだのは、中居氏の冠番組『だれかtoなかい』の終了のタイミングについて。「被害女性に刺激を与えないように取り組んできた」ことを理由に、事案の発覚後から1年半にわたり打ち切りを決定できなかったことが明かされた。
番組のレギュラースタートは23年4月(タイトルは『まつもtoなかい』)。初回放送は香取慎吾をゲストに迎え、当時のTVer見逃し配信のバラエティ記録を打ち立てていただけに、唐突に終了することで憶測を呼ぶことを避けたかったという。
その後、24年1月の松本人志の芸能活動休止に伴い改題の上継続する判断が行われたが、このタイミングでの終了は「女性のコンディションが良くなかった」と見送られた。ただこの時期は、他局を含め松本のレギュラー番組はすべて継続されており、『まつもtoなかい』だけが終了するという判断も難しかったと思われる。
これらの判断に対し、女性よりも中居正広というスターを守ろうとしたのではないかと追及された港氏は「そういう気持ちはありません」と語気を強めて断言。カンテレの大多亮社長(元フジテレビ専務)と同様に中居氏への「怒り」という感情も明かし、彼の引退については「特にコメントはありません」とした。
就任挨拶と会見最後に出た言葉
社長就任の挨拶で、「明るく楽しく元気なフジテレビのDNAを蘇らせる」と宣言していた港氏。今回の会見の最後では「働く社員の皆さんが一生懸命自分の仕事をしてくれています。今回の事案で大変ご苦労をかけていますが、1日も早く明るく元気な楽しいフジテレビ、視聴者の皆さんに喜んでもらえるフジテレビを目指してほしいと思います」という言葉を残した。
企業風土刷新の必要性を指摘され、「ちょっと昔の雰囲気を引きずってしまっている部分があると思うので、今の時代に合わせてアップデートし、さらに厳しく作り変えていくことが必要」と受け止めていたが、やはり「明るく楽しく元気なフジテレビ」の風土は守ってほしいという強い思いを感じた瞬間だった。