開港の歴史が残る美しい建造物や商業施設が建ち並ぶみなとみらいは、横浜屈指の観光地。そんなみなとみらいの街中で、ゴルフカートのように開放的な珍しい乗り物がゆったりと走っていました。一体あれは……? 現在開催中のイベントで現れた“グリスロ”にという乗り物に乗ってみました。
1月26日まで開催中「YOXO FESTIVAL 2025 ~横浜でみらい体験~」
横浜市では、イノベーション創出を目的とした交流イベント「YOXO FESTIVAL(よくぞフェスティバル)2025 ~横浜でみらい体験~」を1月24日から26日まで開催しています。このイベントは、まちぐるみでイノベーションを創出していくための産学公民連携の推進組織・横浜未来機構の主催。イノベーターやクリエーターが未来に向けた新しいアイデアや技術を持ち寄り、領域を越えて交流することでひらめきを得ること、ワクワクを体験することを目的としています。
冒頭のゴルフカートのようなモビリティは、本イベントに出展しているヤマハ発動機の“グリスロ”と呼ばれるグリーンスローモビリティ。国土交通省と環境省が導入を推進している、時速20km未満で公道を走る低速小型EVで、高い環境性能や静音性が評価されているほか、窓がない開放的なキャビンが特徴です。
今回、ヤマハ発動機が楽器や音響機器で知られるヤマハとタッグを組み「グリスロで巡る横浜3Dサウンドジャーニー」を共同出展。グリスロ車内の前後、上下、左右に20個ものスピーカーを設置し、ヤマハ独自の立体音響技術「AFC(アクティブ・フィールド・コントロール)」を使い、拡張現実的な音響体験を楽しみながらみなとみらいを回遊できます。
今回のイベントでは、1月24日のビジネスデーと1月26日のオープンデーの2日しか実施されないということで、3Dサウンドを聴きながらみなとみらいを巡る貴重な体験をしてきました。
馬車や路面電車の音、ジャズを立体的に聴きながらゆったりと回遊
グリスロの乗降場所は、会場の横浜シンフォステージ前と横浜美術館前の2箇所。旗が立っているので簡単に見つけることができました。5人乗りのグリスロは、10分間隔で運行。この日はビジネスデーということもあり、説明を聞いているうちに筆者の番になったので、スムーズに乗ることができました。
座席に座って手すりを持てば、いざ出発。ゴルフカートで都会の公道を走っているような不思議な感覚はありつつも、窓がなく開放的なので風を感じられてとにかく気持ちがいい!
みなとみらいの風景を眺めていると、日常生活では聴きなれない馬車の音が聞こえてきました。
音と言ってもグリスロを通り過ぎていく立体感があり、映画館にいる気分。音は馬車から路面電車に変わったり、実際の海の方から船の汽笛の音が聞こえたり、なんだかテーマパークでアトラクションに乗っているかのようです。
そのほかにも横浜らしいジャズも流れ、モビリティのヤマハ発動機と音楽のヤマハ、そして横浜を掛け合わせた昔と、グリスロの外から聞こえる今を感じられる、まさに“横浜3Dサウンドジャーニー”を堪能できました。
担当者に話を聞いてみた
ヤマハ発動機が横浜シンフォステージWESTに共創スペース「リジェラボ」を2024年10月にオープンしたことを機に、ヤマハとの2社での出展が決まったという「YOXO FESTIVAL」。そのプロジェクトリーダーに選ばれた、ヤマハ発動機 技術・研究部 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループ 主任 和田朋智毅氏と、ヤマハ 研究開発統括部 先進技術開発部 新価値グループ 主任 密岡稜大氏に「グリスロで巡る横浜3Dサウンドジャーニー」の経緯やこだわり、苦労話を聞いてみました。
今回の共同出展にグリスロを選定した理由ついてヤマハ発動機の和田氏は、「自然を再生するミッションを掲げているので、まずは電動や新しい製品から考えた。その中でもグリスロは、高齢者やラストワンマイルの移動手段や観光地など地方で利用されることが多く、都会でも使えるのではないかと提案した」と理由を述べました。
その提案を受けて、ヤマハが掛け合わせたのは立体音響の技術。「通常はコンサートホールなど、管理され、閉じられた広い空間で使用しますが、開空間でさらに移動するグリスロで使ったらどうなるのかという実証実験も兼ねて、立体音響をテーマにした」と密岡氏は話します。また、「自動車の走行音など今の横浜の音が聞こえる一方で、馬車や路面電車の過去の横浜の音も聞こえるという“音の拡張現実”のような体験にもつながる」と考えたのだそう。
とはいえ、短期間での準備や初めての試みに苦労もあったはず。「立体音響のコンテンツを作る研究室とグリスロの研究室が異なり、環境も違うことからチューニングに悩まされた。そこにプラスして音の動かし方を考えるのも大変だった」と密岡氏は当時を振り返ります。一方和田氏は、「ドアがない環境や速度から、乗客が穏やかに体験できるようなルート取りに苦労した」と述べました。
1月26日のオープンデーに向けて、密岡氏は「立体音響ってこんな感じなのかと触れてもらい、ヤマハってこんなこともやってたんだと知ってもらえたらと思う。それが横浜シンフォステージ1階にある店舗にきてもらうきっかけになったら嬉しい」と話し、和田氏は「新しい体験をして楽しんでもらったり、未来にこんな移動手段があったらいいなっていう発想のきっかけになったりしたら嬉しい。さまざまなモビリティを創造する議論のきっかけになればと思う」と意気込みました。
みなとみらいをグリスロで巡るという体験だけでもインパクトを感じていましたが、立体音響との融合によって現在と過去の横浜まで想像できるのは、この2社の共創ならでは。音と乗り物、さらに横浜の街がリンクする貴重な旅をこの機会に味わってみては?
■「グリスロで巡る横浜3Dサウンドジャーニー」概要
乗降場所:横浜シンフォステージ前/横浜美術館前
日程:1月24日(金)12:00~16:00、1月26日(日)11:00~16:00
利用料:無料
※10分間隔で運行予定。
※乗車時に座席の手すりを持つことができ、両足がつく方が体験可。
※小学6年生以下は保護者の同伴が必要。