東京・目黒のホテル雅叙園東京で、企画展「ミニチュア×百段階段~文化財に広がるちいさな世界~」が開催されています。同ホテルが有する東京都指定有形文化財「百段階段」の7つの部屋に、19人の作家・蒐集家による多彩なミニチュアおよそ1,150点が大集結。この空間でしか味わえないミニチュア展の見どころの一部をご紹介します。

文化財「百段階段」は、1935年(昭和10年)に建てられた、同ホテルで現存する唯一の木造建築。99段の長い階段廊下が7つの部屋をつなぎ、当代屈指の画家たちによって趣向を凝らした絵や彫刻で装飾された部屋には、江戸時代から伝わる美意識と昭和初期のモダニズムが息づき、その絢爛豪華さで“昭和の竜宮城”とも称されていたとか。

  • 東京都指定有形文化財「百段階段」

脳がバグりそう……精緻な、あまりに見事なミニチュアたち

ひとことで「ミニチュア」と言っても、食べ物や豆本など指先サイズの極小アート、美しいドールハウス、建築模型やジオラマ、小さなものを愛でる“ひいなあそび”に由来するお雛様など、そのジャンルは多岐に渡ります。1つめの部屋では、「ミニチュアの饗宴」と題し、多彩な作家によるミニチュアたちが夢の共演。かつての宴会場「十畝の間」(じっぽのま)を現代風にしつらえた華やかな空間に、遊び心あふれる豆本、エモさ漂う昭和の情景を表現したミニチュアフード、キュンが止まらなくなるガーリーなアイテムといった作品群が所せましと集います。

  • ドールハウス・ミニチュア作家 ミニ厨房庵さんの作品。実寸大の調理器具と対比するとその精緻さが伝わるはず

  • 海鮮居酒屋のリアリティがすごい! 生け簀の魚のピチピチ感まで伝わる「大漁丸」

グッと顔を近づけて覗き込み、少し引いた目線から情景を感じ、俯瞰で世界観を味わって、また至近距離で凝視。そんな風に視点を変えるたびに驚かされ、わあ、おおお、すご~! と、言葉にならない感嘆詞が口をつく。小さな世界を創り出す超絶技巧の職人技に感動し、細部にわたるあまりのマニアックなこだわりぶりに、ときには笑ってしまうほど。ひと部屋めから見どころだらけで作品ごとに足が止まり、時間が経つのも忘れてずっと眺めてしまいます。

かっこよ!! 『用心棒』の名場面を再現したミニチュアハウス

続く2つめの部屋は、文化財「百段階段」で一番豪華といわれる「漁樵の間(ぎょしょうのま)」。なのですが、今回そんな絢爛豪華な室内で目にするのは、段ボールサイズのいくつもの箱たち。最初は「あれれ?」と戸惑いますが、実はこの箱は遠近法のミニチュアハウス。箱の正面から中を覗くと、なるほど、謎が解けました。

  • 見える……小さな箱の中に、何かが見えるぞ……

  • 畳や襖の質感のリアリティに嘆息。島木英文さんの作品「斜陽館(太宰治記念館)」

斜陽館(太宰治記念館)など実在する名建築や、さまざまな京町家を模したミニチュアハウスは、奥にいくほど狭く、天井は低く、床が高く作られているそう。これらを手がけたミニチュアハウスアーティスト、島木英文さんが“元建築士”の経歴を活かして用いた遠近法による絶妙な奥行き感には、終始唸らされっぱなし。残念ながら島木さんはこの企画展の準備している最中に他界されたそうですが、黒澤明の名作『用心棒』のワンシーンを再現した作品など震えるほどカッコいいので、ぜひ肉眼でご覧いただきたいです。

  • かっこよ!! 名場面を再現した「用心棒『路』」。左手奥には撮影中の黒澤監督の姿も!?

秋葉原や新宿の雑踏や喧噪まで表現したジオラマの臨場感

続く「草丘の間(そうきゅうのま)」で出会うのは、先ほどのミニチュアハウスとは打って変わってダイナミックなジオラマたち。「秋葉原大通り」「新宿大ガード」といった誰もがよく知る街の景色を、雑踏や喧噪、その街特有の空気感まで生き生きと再現したジオラマは、千葉経済大学 模型部の作品です。秋の学園祭に出展するために部員たちは毎年テーマを1つ決め、約3カ月間をかけて制作しているそう。最新作の「横須賀軍港の風景」では、海上の艦船や湾岸施設から三笠公園、どぶ板通りといった街並みまで、“ザ・横須賀”な景色と風情が1/700スケールにギュッと詰め込んで再現されていました。

  • 千葉経済大学 模型部のジオラマ「秋葉原大通り」。大通りの奥には総武線の高架も見える

  • 『千と千尋の神隠し』の世界観を表現した作品も

「静水の間(せいすいのま)」には、昨冬の企画展「百段雛まつり」に出展していた雛道具研究家、川内由美子さんのコレクションが今回もおめみえ。実物と同じ工程で作られた江戸期の高級人形店「七澤屋」の雛道具や、最小クラスの木製お雛さま、約5ミリのほど極小サイズの貝殻に源氏物語54帖が描かれた合わせ貝など、贅を極めた約1,000点の貴重な作品は必見です。

  • 雛道具研究家 川内由美子さんのコレクション。源氏物語が描かれた合わせ貝

  • アンティークドールハウス コレクター 佐藤與市さんのコレクション。ドイツのアンティークドールハウス「おもちゃ屋」

  • 金魚をモチーフにするミニチュアドールハウス作家 小林美幸さんの「アクアリウムショップ」

本棚で見つける小さな世界。最後は自分がミニチュア世界へ……

本展のメインビジュアルにもなっている「本の間の小さな世界」は、路地裏BOOKSHELF作家・mondeさんの作品。本棚に並んだ本をよく見ると、本と本の間に“小さな世界”が出現しています。ニューヨークや香港の街角、飲み屋横丁、木造住宅など、どこかノスタルジックな雰囲気をまとった小さな世界。うっかりすると見逃してしまうほど自然に本棚の中に紛れ込んでいるので、作品の見逃しにはくれぐれもご注意を。

  • 路地裏BOOKSHELF作家 mondeさんの「本の間の小さな世界」。くすっと笑える本の背表紙の題名は、企画を担当した同ホテルのイベント企画担当の柚木さんが考案

クライマックスの「頂上の間」で待ち受けるのは、「不思議の国のアリス」ならぬ、“和の国のアリス”をテーマにした不思議空間です。極彩色のジャイアントフラワーがもたらす錯覚によって、自分自身がミニチュア化してしまう。まるで不思議の国に迷い込んだアリスのごとく、迷路のように区切られた室内を彷徨い、咲き誇る巨大な花々によって、それまで鑑賞してきた世界に今度は自分が入り込み、ミニチュア世界を体感する。そんなひねりの効いた趣向の空間展示で、展覧会は幕を閉じます。

  • 最後は自分がミニチュア化!? ジャイアントフラワーアーティストMEGUさんの空間装飾「Alice in “Wa”nderland」

レトロな名建築が舞台のミニチュア展だけあって、ジャンルの異なるおよそ1,150点の作品の魅力はもちろん、作品の背景となる館内装飾や空間との相乗効果、さらにミニチュア世界に没入するような体感型展示と、何重にも楽しめる構造になっている同展。ホテル雅叙園東京で、3月9日まで開催です。

  • あ、こんなところにも小さな世界が

■information
「ミニチュア×百段階段 ~文化財に広がるちいさな世界~」
会場:ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
期間:3月9日まで(11:00~18:00/月曜休)
料金:当日券1,600円、大学・高校生1,000円 / 小・中学生800円