パリ五輪の開催などで難しいクールだった夏が終わり、秋ドラマの主要作が出そろった。例年、一年の締めくくりとなる秋ドラマは強力なスタッフを立てた力作ぞろいだが、今年はどうなのか。

主要作がそろったこのタイミングで「本当に質が高くて、今後期待できる作品」を唯一のドラマ解説者・木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の第1弾では「2024年秋ドラマ主要24作の傾向とおすすめ5作」、次回の第2弾では「目安の採点付き全作レビュー」を挙げていく。

2024年秋ドラマの主な傾向は、【[1]超安定路線で際立つ「日曜の難しさ」 [2]各局きっての演出家が魅せるこだわりの映像】の2つ。

  • 『ライオンの隠れ家』出演の柳楽優弥

傾向[1]超安定路線で際立つ「日曜の難しさ」

今秋はゴールデン・プライムタイム(19~23時)で放送される16作中9作が刑事・医療・法律の定番3ジャンル。そのほとんどがシンプルで見やすい1話完結型の構成であることも含め、「視聴率獲得」という点で失敗しづらい堅実路線と言っていいだろう。

ただ、今秋で目立つのは、『相棒』(テレビ朝日、水曜21時)や『オクラ~迷宮入り事件捜査』(フジテレビ、火曜21時)などのオーソドックスな作品ではなく、ひとひねり入れた設定。

あえて昭和初期を舞台に選んだ『嘘解きレトリック』(フジ、月曜21時)、超常現象などを扱った刑事モノ『全領域異常解決室』(フジ、水曜22時)、フリーランスの看護師コンビが主人公の『ザ・トラベルナース』(テレ朝、木曜21時)、医者と刑事の異業種バディが事件に挑む『D&D~医者と刑事の捜査線』(テレビ東京、金曜21時)、小学生にまつわる医療を描いた『放課後カルテ』(日本テレビ、土曜21時)など、「定番ジャンルだからこそ差別化しなければ」という意識がうかがえる。

しかし、それでも堅実路線であることは変わらないため、視聴率もネット上の反響も一定レベルに留まり、ヒットしているとは言い難い。“刑事・医療・法律の一話完結ドラマ”という堅実路線の中で、どんなに設定を工夫し、クオリティを上げようと思っても限界があるのだろう。

  • 『放課後カルテ』出演の松下洸平

一方、序盤で評判がいいのは、TBSの看板枠・日曜劇場の『海に眠るダイヤモンド』(TBS、日曜21時)と、兄弟の物語に不穏な事件を絡めた『ライオンの隠れ家』(TBS、金曜22時)あたりか。前者はTBSが誇るプロデュース・新井順子、演出・塚原あゆ子、脚本・野木亜紀子のトリオが手がける品質保証、後者はTBS伝統の「金曜ドラマ」らしいヒューマン&ミステリーを追求したどちらもオリジナルで、力作と言っていいだろう。

また、賛否はあれど、夫に他人の子どもを育てさせる「托卵」がテーマの『わたしの宝物』(フジ、木曜22時)、首相と国民が入れ替わる政治ファンタジー『民王R』(テレ朝、火曜21時)の異色作はネット上の話題となっている。

さらに難しさを感じさせられるのが、日曜放送のドラマ。翌日の仕事や学校が頭をよぎる日曜夜は“刑事・医療・法律の一話完結ドラマ”という定番では視聴率も反響も得ることは難しく、それ以外のジャンルで挑むケースが多い。

今秋も、「愛と青春と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント」と掲げたスケールで勝負の『海に眠るダイヤモンド』、大学生の何気ない幸せな日々を描いたヒーリングドラマ『マイダイアリー』(ABC・テレ朝、日曜22時15分)、150年超前の名作をベースに四姉妹の恋と人生にスポットを当てた『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』(日テレ、日曜22時30分)が放送されている。

今秋に限らず「制作サイドがやりたいものを選んでいる」というより、日曜夜の視聴者心理を考えて模索しているが、TBSが局を挙げた大作を続ける日曜劇場以外はうまくいっているとは言い難い。

視聴率獲得をほぼ求められず、スケジュール、人、金、編成の自由度が高いNHKの『宙わたる教室』(NHK総合、火曜22時)、『3000万』(NHK総合 土曜22時)と比べると、なおさらその難しさを感じてしまう。

  • 『嘘解きレトリック』出演の鈴鹿央士

傾向[2]各局きっての演出家が魅せるこだわりの映像

ドラマ好きならスタッフが発表されたとき、多少の驚きがあったのではないか。『嘘解きレトリック』の演出には、西谷弘、永山耕三、鈴木雅之らが名を連ねている。

西谷は『白い巨塔』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』『シャーロック』など、永山耕三は『東京ラブストーリー』『愛という名のもとに』『ひとつ屋根の下』『ロングバケーション』『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』など、鈴木雅之は『29歳のクリスマス』『王様のレストラン』『ショムニ』『HERO』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』などを手がけたレジェンド演出家。そのタイトルを見ただけで印象的なシーンが頭に浮かぶようなヒットメーカーと言っていいだろう。

同じフジでは『全領域異常解決室』の石川淳一も『リーガル・ハイ』『海月姫』『絶対零度~未然犯罪潜入捜査』、映画『エイプリルフールズ』『ミックス。』など。カンテレ制作『モンスター』の三宅喜重も『アットホーム・ダッド』『結婚できない男』『嘘の戦争』シリーズ、『僕のヤバイ妻』などを手がけてきた。

  • 『宙わたる教室』出演の窪田正孝

次にTBSは『海に眠るダイヤモンド』の塚原あゆ子が『Nのために』『リバース』『アンナチュラル』『グランメゾン東京』『最愛』など。『ライオンの隠れ家』の坪井敏雄が『凪のお暇』『私の家政夫ナギサさん』『妻、小学生になる。』『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』などを手がけてきた。

日テレは『若草物語』の猪股隆一が『家政婦のミタ』『家売るオンナ』『コントが始まる』『リバーサルオーケストラ』『セクシー田中さん』など。『放課後カルテ』の鈴木勇馬が『偽装不倫』『二月の勝者―絶対合格の教室―』『恋はDeepに』『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』などを手がけてきた。

いずれもフジ、TBS、日テレを代表する作品の映像を担ってきた演出家であることがわかるだろう。当然ながら今秋の作品でも、カット割りやカメラワーク、ライティングや音響、ロケや美術、演技指導などにこだわった様子がうかがえる。自分がカメラマンとして映像を撮っているつもりでドラマを見ると、そのこだわりがわかるかもしれない。

  • 『海に眠るダイヤモンド』出演の神木隆之介 撮影:友野雄


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『ライオンの隠れ家』『嘘解きレトリック』の2作。

『ライオンの隠れ家』は、自閉スペクトラム症の弟に合わせて規則的な生活を送っていた主人公のもとに謎の少年が現れ、日常が乱されていく……しかし弟と少年の間に絆が芽生え、成長していく様子や、それを守ろうとする兄の姿に感動を誘われる。さらに湊かなえ作品などの“イヤミス”を放送してきた金曜ドラマらしい不穏なミステリーも健在。柳楽優弥に食らいつく坂東龍汰、無垢な子役・佐藤大空のやり取りは必見で、3人の暮らしがどんな着地を魅せるのか興味深い。

『嘘解きレトリック』は、月曜夜の視聴にフィットするライトミステリー。前述したベテラン監督たちが若い鈴鹿央士と松本穂香の魅力を引き出し、優しくも微笑ましい関係性を見せて視聴者を癒している。昭和元年が舞台の物語だが、NHKのようなリアルを追求した本格志向ではない映像は親しみやすさがあり、幅広い世代の見やすさにつながった。

その他、『放課後カルテ』は、病気を扱う医療ドラマでありつつ、小学校が舞台の学園ドラマであり、家族を絡めたホームドラマでもあるハイブリッド仕様。医療ドラマは外科手術が主流でジャンルの幅がせまくなりがちだが、子どもたちを当事者にすることで切実さを感じさせている。

『宙わたる教室』は数ある定時制が舞台のドラマの中でも、生徒の背景を最も丁寧に描いた作品ではないか。彼らに接する教師の距離感が心地よく、宇宙につながる今後の展開も楽しみ。『海に眠るダイヤモンド』は、盤石のスタッフ&キャストに向けられる期待値に負けない力感あふれる仕上がり。

これら以外では、グループライティングの可能性を見せ、ぜひ「一気見」してほしい『3000万』と、いい意味で「笑わせるためなら何でもアリ」の『民王R』もおすすめとして挙げておきたい。

さらに40年の時を経た漫画・アニメの実写化『ウイングマン』(テレ東、火曜24時30分)もクオリティが高く、特撮アクションの第一人者・坂本浩一監督の演出も必見。「学園青春ラマ+特撮アクション」という稀有なジャンルであり、40代以上はもちろん10・20代にも見てほしい作品となっている。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

2024年秋ドラマおすすめ5作

  • No.1 ライオンの隠れ家 (TBS 金曜22時)
  • No.2 嘘解きレトリック (フジ 月曜21時)
  • No.3 放課後カルテ (日テレ 土曜21時)
  • No.4 宙わたる教室 (NHK総合 火曜22時)
  • No.5 海に眠るダイヤモンド (TBS 日曜21時)