JRグループが「青春18きっぷ」の冬季版を発表した。いままで1枚で5回分だった利用条件が、3日間連続用・5日間連続用となった。従来は長い有効期間の中で、任意の日帰り5回という使い方ができた。また、「2人で同一行程2日間、残り1回をひとりで」あるいは「2セット買って5人で1泊2日」といった使い方も不可となった。
学校の休み期間に気ままな日程で、という旅は制限されるし、友達や仲良しグループの旅にも使えない。そんな旅を親しんだ利用者からは反発の声が上がっている。一方、自動改札対応については賛意が多い。これまで有人改札を通る必要があったが、訪日観光客など不慣れな旅行者で混雑して待たされたり、窓口時間が短縮されたりと不自由になっていた。
「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」の変更も賛否が分かれた。これまで北海道新幹線の乗車可能区間が奥津軽いまべつ~木古内間だったため、運行本数の少ない津軽線で津軽二股駅まで行き、奥津軽いまべつ駅へ徒歩連絡だった。冬季版から北海道新幹線の乗車可能区間が新青森~木古内間となる。津軽線の蟹田~津軽二股~三厩間が不通となっており、そのまま廃止される方向になったためと思われる。ただし、料金は2,490円から大幅に値上げされ、4,500円になった。
「青春18きっぷ」冬季版の5日間用は1万2,050円で、夏季版と同じ。違いは夏季版の「5回分」に対し、冬季版は「5日連続」であること。一方、冬季版の3日間用は1万円に。報道によると、「短期間の利用が多かったため」として3日間用を設定したという。利用実態に即した低価格設定にしたつもりだろうが、「秋の乗り放題パス」は連続3日間用で7,850円だから、やはり「青春18きっぷ」の3日間用は割高に感じる。
「秋の乗り放題パス」は、「青春18きっぷ」の設定がない秋季に「鉄道の日」(10月14日)と絡めて乗り放題きっぷを設定している。有効期間と価格以外の条件は「青春18きっぷ」とほぼ同じ。つまり、「青春18きっぷ」が連続使用限定となったら、それは「冬の乗り放題きっぷ」といえる。今後も同条件で続くなら、「青春18きっぷ」の春季版を「春の乗り放題きっぷ」、夏季版を「夏の乗り放題きっぷ」とし、春夏秋冬の乗り放題きっぷにしたほうがわかりやすい。
「青春18きっぷ」の成り立ちは
それでもJRグループは、「青春18きっぷ」のブランドを捨てられないらしい。1982年の「青春18のびのびきっぷ」以来、40年も売り続け、人気もあるきっぷだから、ここで廃止または名称変更してしまうと、ブランドの喪失感で売上が下がってしまうと考えたようだ。とはいえ、「青春18きっぷ」がいままでと違う内容だったら、それは利用者を欺くことにならないだろうか。
「青春18きっぷ」を連続利用とした理由について、JR側は「自動改札機の仕様で、有効期間の分割ができなくなった」と説明したという。利用者の実態に合わせたというよりも、システムの都合を優先したようだ。それが本当なら残念に思う。磁気券に複数の利用日をカウントできるようにシステムを変更すれば済む話だし、その対応ができるまで現状維持でも良かったはずだ。
柔軟なシステム運用のために、ICカード乗車券はセンターサーバー方式に切り替えることになっていて、それを磁気券でも適用すれば良い。あるいはスマホに紐づけられたQRコード乗車券の運用を待ってもいい。それまで自動改札対応の1日券を5枚発行する方法もある。現在も指定席券売機で買うと、本券1枚につき説明書2~3枚にアンケート1枚、さらに領収書やクレジットカード控えも出てくる。4枚くらい増えたって困らない。
ただし、ここで問題になるのがバラ売りされた券の転売である。いままでも「2回分余ったから金券ショップに売る」「1回分だけ安く買う」などの行為が横行していた。これは回数券のバラ売りのようなもので、JR側の本音は転売防止かと邪推したくなる。事実、ある金券ショップの「改悪により冬の青春18きっぷは買い取りません」と「敗北宣言」した貼り紙がネット上に出回っていた。
「青春18きっぷ」の本来の趣旨は「自由」だったはずだ。国鉄時代の1981年、「フルムーン夫婦グリーンパス」が発売され、国鉄の売上向上とイメージアップに成功した。これを学生向けにして、長期休み期間で鉄道の旅に親しんでもらいたい。どちらにしても学校が休みの間は通学利用者が減ってしまうので、輸送力を有効活用できる。そんな目論見で「青春18きっぷ」が始まった。
「青春18きっぷ」は年齢制限がなく、近年は中高年の利用も目立つが、本来の趣旨は若年層の取込みである。たとえばマクドナルドがハッピーセットを売ってこどもたちに親しんでもらい、大人になっても愛用してもらう。これと同じように、「青春18きっぷ」も若い人たちに鉄道の旅を楽しんでもらい、大人になっても鉄道を利用してもらう。そういう長期的見通しがあったはずだ。
「ウナギを注文したらドジョウが出てきた」と同じくらい、「青春18きっぷを注文したら乗り放題パスが出てきた」は残念な気持ちになる。JRグループは「青春18きっぷ」の本来の利用者、若者を見捨てるのか。「青春18きっぷ」のおかげで、飛行機や高速バスより新幹線を選ぶようになった大人たちもいるはず。JRグループは手軽で安価な高速バスに負けを認めるのか。非常に寂しい。
「青春18きっぷ」包囲網 JR西日本の動向に注目
「青春18きっぷ」が発売されて40年余り。「青春18きっぷ」に代わる乗り放題きっぷが増えている。北海道では、1986年に「北海道フリーきっぷ」「北海道ペアきっぷ」が発売された。国鉄から引き継いだJR北海道は、道外からの航空機利用者に注目し、フリーきっぷを拡充させていく。四国でも、1998年に「四国再発見きっぷ」が発売された。
1998年に発売された「周遊きっぷ」は、国鉄時代の「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」をリニューアルしたきっぷである。これが地域限定のフリーきっぷを拡充させるきっかけにもなった。
2002年に「北海道&東日本パス」が発売された。現在、JR北海道とJR東日本の全線など連続7日間乗り放題のフリーきっぷとして、1万1,330円で発売されている。2005年には、「北海道フリーきっぷ」「北海道ペアきっぷ」に代わるきっぷとして「北海道フリーパス」が登場。連続7日間用で2万7,430円とされ、価格は「北海道&東日本パス」の2倍以上だが、快速・普通列車の他に特急列車の普通車自由席も利用できる。普通車指定席も6回まで使える。
2007年、JR九州が「旅名人の九州満喫きっぷ」を発売。2016年、JR東海が「JR東海&16私鉄 乗り鉄☆たびきっぷ」を発売した。ともにJR線だけでなく、営業エリアの地方私鉄や第三セクター鉄道にも乗車できる。2009年、JR四国は「四国再発券きっぷ」を「四国再発見早トクきっぷ」にリニューアル。JR四国はこれ以降、「バースデイきっぷ」など乗り放題きっぷを多数発売した。
2016年、JR北海道はPeach、FDAなどの航空会社とタイアップしたフリーきっぷを発売する。「ひがし北海道フリーパス」は連続4日間用で2万円、「きた北海道フリーパス」は連続3日間用で1万6,200円。これらのきっぷは当初、航空機のチケット控え等の提示を必要としたが、2023年に新千歳空港限定で誰でも買えるようになった。1,000円分の機内または空港内売店のクーポンが付く。
JR北海道、JR東日本、JR東海、JR四国、JR九州は管轄エリア内のフリーきっぷを用意している。これらのエリア内で鉄道の旅をするなら、「青春18きっぷ」はいらないだろう。「青春18きっぷ」のアイデンティティは「連続5日間」ではなく、「期間内5回」だった。それがなくなったいま、「青春18きっぷ」を選ぶ理由は少ない。
「青春18きっぷ」を販売するJR旅客6社のうち、JR西日本のみ管内全域を対象としたフリーきっぷがない。2015年と2016年に「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」、2017年に「JR西日本30周年記念乗り放題きっぷ」を販売したのみ。現在のJR西日本は、「tabiwa」ブランドにおいて地域限定のフリーきっぷを各地で展開している。
つまり、JR西日本だけは管内全域フリーきっぷの役目を「青春18きっぷ」に譲り、自社で独自に販売していなかった。「青春18きっぷ」の仕様が変わったいま、JR西日本は自社独自の全域フリーきっぷを新たに企画するのではないかと期待したい。
今回の「青春18きっぷ」は「試験的」という報道も
鉄道会社が企画きっぷをリニューアルする理由は「もっと売りたい」のはず。「青春18きっぷ」も、もっと若い人に買ってほしいはずで、「改悪」して廃止に持ち込みたいなどと考えるはずがない。売上を伸ばしたいと考えたはずだ。しかし、JRグループは売上ではなく利益を上げようとした。自動改札対応は売上アップの発想ではなく、全社的な人員削減、コストダウンの発想といえる。
もっとも、利用者が「青春18きっぷ」に固執する必要もなくなったかもしれない。もっと使い勝手が良く、1日あたりの価格が安いフリーきっぷもある。
「青春18きっぷ」の仕様変更に納得が行かない従来の利用者の間で、「元に戻してほしい」とオンライン署名活動も始まっている。とはいえ、これでJRグループが施策を変更することはないと思う。高輪ゲートウェイ駅改名署名運動でも、JR東日本は動じなかった。
一方で気になる報道もある。中京テレビは、「今回の改定はこの冬シーズンから試験的に導入されますが、春シーズン以降での改定は現段階では未定」というJR側からのコメントを紹介している。「試験的」とは、利用者にどんな影響があり、売上が変化するかを実証するという意味だろう。不評で不買運動に発展すれば、売上減少を理由に、「青春18きっぷ」は廃止に向かって進むかもしれない。不買運動が起こらなければ、現状で利用者の不満はないとして、「青春18きっぷ」はこのまま進むに違いない。はたして「青春18きっぷ」の冬季版は、いままでより売れるか売れないか。
どちらにしても、もう代わりのきっぷはある。「青春18きっぷ」が自分の旅に合えば使うし、合わなければ使わないだけだ。さて、「青春18きっぷ」の春季版はどうなるだろう。