京都鉄道博物館にて、11月25日まで近江鉄道100形の特別展示が行われている。公開初日の10月29日、本館1階 「車両のしくみ / 車両工場」エリアで入線セレモニーが開催された。

  • 近江鉄道100形が京都鉄道博物館に。10月29日のセレモニーで、近江鉄道代表取締役社長の飯田則昭氏(右端)ら関係者、近江鉄道公式マスコットキャラクター「駅長がちゃこん」、京都鉄道博物館公式キャラクター「ウメテツ」の記念撮影が行われた

滋賀県の湖東地域を走る近江鉄道は、創業から100年を超える老舗企業である一方、今年度から公有民営方式による上下分離の運営に移行し、新たな一歩を踏み出した。入線セレモニーの模様をお伝えすると同時に、今後の近江鉄道の展望をレポートしたい。

元西武鉄道の車両、京都鉄道博物館に入線

近江鉄道は本線(米原~貴生川間)、八日市線(八日市~近江八幡間)、多賀線(高宮~多賀大社前間)のの3路線から成り立つ。米原駅で東海道新幹線と東海道本線、北陸本線、彦根駅と近江八幡駅で東海道本線、貴生川駅で草津線と信楽高原鐵道に接続する。近江鉄道は滋賀県に本社を置く鉄道会社だが、西武グループの一員となっていることもあり、元西武鉄道の車両が多く活躍している。

長年にわたり、近江鉄道は利用者数の減少に伴う営業赤字に悩まされてきた。そこで、2024年4月1日から公有民営による上下分離方式の運営へ移行することに。具体的には、滋賀県と沿線自治体で構成する一般社団法人「近江鉄道線管理機構」が線路・ホーム・車両等の鉄道設備を保守管理し、保守管理費も負担する。一方、近江鉄道は鉄道路線の運行に徹する。

新たな一歩を踏み出した近江鉄道のPRを目的として、同社の100形を京都鉄道博物館で特別展示する(期間は10月29日から11月25日まで)。近江鉄道の線路とJR西日本の線路はつながっており、京都鉄道博物館の開業後、甲種輸送による車両の特別展示は初めてだという。

  • 館内への入線を待つ100形

  • ディーゼル機関車に後押しされ、100形が入線

  • 近江鉄道100形102F編成。米原方の前面

  • 近江鉄道100形102F編成。貴生川方の前面

セレモニーの当日、100形102F編成の2両(モハ102・モハ1102)はディーゼル機関車の後押しで館内へ入線した。100形は元西武鉄道の新101系。1979(昭和54)年に101系のデザインを一新した新101系は、廃車が進んでいるものの、現在も西武鉄道の狭山線と多摩川線で活躍を続けている。

近江鉄道100形102F編成は2014年4月から同社での運行を開始。近江鉄道への譲渡後、前面に雪を跳ね除けるスノープラウを設置した。塗装は琵琶湖をイメージした水色を基調色としているが、塗装以外は西武時代とそれほど変わっていないように感じる。車内の料金箱などワンマン設備の設置が西武時代との違いと言っていいだろう。京都鉄道博物館への甲種輸送にあたり、ディーゼル機関車からのブレーキが伝わるよう、車内に西武鉄道からレンタルしたブレーキ制御装置が置かれていた。

  • 側面も塗装以外は西武鉄道時代の面影をよく残している

  • 近江鉄道の社紋

  • 乗務員室の近くに「駅長がちゃこん」のステッカーを貼付

  • 西武鉄道からレンタルしたブレーキ制御装置

セレモニーの後、近江鉄道代表取締役社長の飯田則昭氏に、京都鉄道博物館で特別展示を行う意義を聞いたところ、「お子様にも近江鉄道の車両を見ていただけますし、都会にいるとなかなか見られない、歴史のある、味のある車両が見られる機会だと思います。ぜひ多くの方に見ていただき、実際に動いているところも見ていただきたい」との答えが返ってきた。

譲受した元西武鉄道2000系に施す改造メニューとは

今年4月に新たな一歩を踏み出した近江鉄道は、車両面でも動きが見られる。10月22日、X(Twitter)の同社公式アカウントに、元西武鉄道2000系の到着を知らせる内容が投稿された。西武鉄道の2000系自体は1977(昭和52)年に登場したが、近江鉄道へ譲渡された2000系は「新2000系」と分類される車両で、1988(昭和63)年に登場。2000系をベースにデザインを一新している。

近江鉄道によると、譲受した2000系は計4両(2両×2編成)とのこと。ワンマン化改造は行うものの、もとから2両編成のため、先頭車化工事は必要ないという。2000系の改造については、先進車両の導入を支援する国の補助金である「社会資本整備総合交付金」も意識している。2000系を「先進車両」にするため、ワンマン化改造をはじめとする従来の改造メニューに加え、線路設備を点検する監視カメラも車両に設置する。

さらに、近江鉄道は観光列車の導入に向けて調査・研究を開始したことも明らかにした。具体的には、車内でビールの飲み比べを楽しめる「ビア電」といったイベント向けの専用車両を見据え、数年後の導入を検討しているとのことだった。このように、近江鉄道はさまざまな手を打っている。

ところで、元西武鉄道の車両が活躍する路線は他にも上信電鉄(群馬県)や流鉄(千葉県)、伊豆箱根鉄道駿豆線(静岡県)、三岐鉄道三岐線(三重県)などが挙げられる。このうち三岐鉄道三岐線に関して、今年7月、既存車両21両を置き換える目的でJR東海から211系を譲受したと発表があった。

三岐鉄道三岐線で既存車両の置換えが進むと、名古屋以西で元西武鉄道の車両がいまも幅を利かす近江鉄道の注目度がさらに増すかもしれない。近江鉄道の本線は東海道新幹線と接続する米原駅を始発駅としており、首都圏からもアクセスしやすい。京都鉄道博物館での特別公開を機に、懐かしい西武鉄道の車両に会う近江鉄道の旅はいかがだろうか。