函館市は9月9日、北海道新幹線の函館駅乗入れに関する調査検討の進捗状況を公開。今後の基本方針を「フル規格車両で東京方面と札幌方面から直通運転する」「列車の分割併合はしない」「JR北海道に対し車両費の負担は求めない」とした。さらに、「JR北海道とは同社の営業区域に限り打ち合わせを行う」という。函館~新函館北斗間について、JR北海道からの分離を想定しているようだ。

  • 北海道新幹線の札幌駅延伸と函館駅乗入れが実現する頃、車両はE5系・H5系に代わる新型になっているかも

2024年4月に、函館市はコンサルタント会社に委託した調査結果を公開した。運行に関して3パターン、車両のサイズで2パターン、営業主体で3パターンを検討していることが明らかになった。

運行については、「函館~札幌間のみ」「函館~札幌間、東京~函館間で運行し、東京~函館間の列車は東京~札幌間編成と分割併合しない」「函館~札幌間、東京~函館間で運行し、東京~函館間の列車は東京~札幌間編成と分割併合する」を検討した。その結果、「函館~札幌間、東京~函館間で運行し、東京~函館間の列車は東京~札幌間編成と分割併合しない」が基本方針となった。

函館市によると、函館~札幌間だけでなく、東京(東北新幹線)~函館間も必要だという。ただし、10両編成を札幌編成と函館編成に分割した場合、先頭車両の座席数が少ないため輸送力が低くなる。分割・併合作業の時間もかかり、東京~札幌間・東京~函館間ともに所要時間が延びる。その他、経済波及効果なども総合的に勘案したとのこと。

車両のサイズは「フルサイズ新幹線規格」と「ミニ新幹線規格」を検討した。その結果、基本方針は「フルサイズ新幹線車両」となった。

函館市によると、5列座席のフルサイズ新幹線車両のほうが、4列座席のミニ新幹線車両より総座席数が多く、輸送力が大きいという。北海道新幹線と、東北新幹線いわて沼宮内駅以北の各駅で、ホームドアはフル規格新幹線10両編成対応仕様となっている。これに対し、ミニ新幹線車両は車体長が短いため、乗降扉の位置と間隔が異なる。ミニ新幹線連結編成が乗り入れる場合、各駅でホームドアの改修が必要になる。

営業主体については、「上下分離、第三セクターが保有、JR北海道が運行」「上下一体で第三セクターが保有と運行」「上下一体でJR北海道が保有と運行、ただし第三セクターが委託」を検討した。この部分に関して、今回は明確な進捗がなかった。

JR北海道は函館~長万部~小樽間を並行在来線と定義し、分離する考えを示している。一方、函館市の前市長は、「はこだてライナー」を残すことで「JR北海道と約束した」と主張した経緯がある。しかし、2011年にJR北海道が函館市に提出した文書を確認すると、「第三セクターからアクセス列車の運行委託を受ける用意があります」とあるだけで、JR北海道が主体となる話ではない。

基本方針をまとめると、「函館駅にはフル規格車両が乗り入れる。東京~函館間、函館~札幌間の列車は独立している」ということになる。ミニ新幹線車両を使用する案は消えた。

もともと「フル規格車両」「分割併合なし」だった。

北海道新幹線の函館駅乗入れに関して、当初は東京~札幌間のフル規格車両編成にミニ新幹線規格車両編成を併結し、新函館北斗駅で分割する案が広まっていた。しかし、発案者で日本鉄道建設公団(現在の鉄道・運輸機構)OBの吉川大三氏は、筆者のインタビューに対し、「もともと本命はフル規格の乗入れだった」と語った。

あえて「ミニ新幹線・分割併合案」を示した理由は、かつて函館市が函館~新函館北斗間でフル規格新幹線の建設を要望し、1,000億円以上という事業費で断念した経緯があるからだった。フル規格という言葉が独り歩きすると、「フル規格の線路建設」と受け止められ、金がかかるからと反発される。そこで、「まずはミニ新幹線のように在来線の線路を改良すれば安くできますよ」と提案し、注目してもらおうという作戦だった。

ところが、「ミニ新幹線・分割併合案」が予想外の大きな反響となった。鉄道ファンにとって分割併合は面白いし、スイッチバックして函館駅に乗り入れるというしかけも興味深い。なるほどと思わせるアイデアだった。ただし、この構想は「どうせスイッチバックして車庫に入れるなら、そのまま函館まで走らせてみよう」という考えが原点にある。わざわざ10両編成の分割対応編成を作るような手間をかけず、低コストで実現したかったようだ。

  • 函館駅乗入れが実現するまで、新函館北斗駅で乗換えが発生する。いままで乗換えなしだった特急「北斗」の利用者にとって不便になる(出典 : 函館市「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書【概要版】」)

  • フル規格新幹線。分割併合なしの場合の運行本数(出典 : 函館市「新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務調査報告書【概要版】」)

函館市が調査会社に依頼した際、「フル規格車両」だけでなく、「ミニ新幹線」も含めた理由は、比較検討の結果として正式に「ミニ新幹線案」を取り下げるためだったと考えられる。

「JR北海道に車両費負担を求めない」で、周囲の反応も変わってきた

基本方針が定まったという報道により、市議会やJR北海道の態度が変化しているように思う。北海道新聞の9月19日付「JR北海道社長 カスハラ対策『悪質行為は警察に相談』 JR貨物不正受けた車両点検、月内に報告<一問一答 注目会見>」によると、9月18日の定例会見で、JR北海道の綿貫社長は、「事業主体や事業費の全体像がまだ分からない。合わせて解決すべき課題として、従前からお話ししている建築限界や需要想定についてもある」と前置きしつつ、「これらがはっきりする中で事業性の判断になる」と語った。

煮え切らない態度のように見えるが、これまでJR北海道側は「実現不可能」「現時点で乗入れは可能ではない」などと拒絶気味だった。それが「事業性の判断」という言葉に変わり、条件によって検討できるという姿勢になった。函館市がJR北海道に対し、「乗入れにより追加で発生する車両調達費などの実質的な費用負担は同社に求めない」という方針を示したことが大きい。

技術的に可能性が高いことは調査結果で示されたわけで、JR北海道は実際のところやりたいだろう。函館駅乗入れが実現しなければ、函館~札幌間の特急「北斗」が、新幹線開業後に新函館北斗駅で乗換え必須になる。いままで直通だった列車が乗換え必須になると不評となり、客離れを起こしかねない。これは北陸新幹線の敦賀延伸において、大阪・京都から福井・金沢方面の不評が問題になっていると知ってのことだろう。

JR北海道はいま、経営自立に向けた「選択と集中」の過程にある。守りの姿勢になりがちで、挑戦的な投資は避けたい。北広島市のボールパーク新駅も、積極的に投資し、「エスコンフィールド HOKKAIDO」を結ぶ動線に商業テナントビルをつくってもよかった。将来的に成功する確度が高くても、手を出せない状況にある。その中で、函館市の「車両費負担を求めない」は大きな後押しになったのではないか。

市議会の空気も変わっているようだ。函館市議会の最大会派である自民党系「新市政クラブ」が、函館駅乗入れ案に賛成を表明した。「新市政クラブ」は函館駅乗入れ案に反対していた前市長を支持する議員が多く、2023年に市が調査費を予算案に盛り込んだところ、「カネを捨てるようなもの」とまで言い切っていた。それが2024年の市議会予算委員会で、「会派として賛成」と明言している。第2会派で現市長を支持していた立憲民主党系「民主・市民ネット」は、当初から函館駅乗入れに賛成しているから、これで議員定数27人のうち、半数を超える17人が賛成に回った。

ただし、新幹線函館駅乗入れには解決すべき問題もある。最大の課題は事業費。2024年3月に公開された事業費は約173億~186億円。そこへ車両関連費用が上乗せされる。大都市の相互直通運転では、自社線を他社の車両で営業する場合に車両使用料を支払うしくみになっているが、毎日の現金精算は手間がかかるので、あらかじめ使用車両の走行距離を等しくして精算する手法を使う。

東京~札幌間の距離は862km、東北新幹線と北海道を合わせると約1,070km。それに比べて、函館~新函館北斗間は約18kmと短い。必要な編成数は10両編成1本、予備も合わせて2本といったところだろうか。E5系・H5系の製造コストは約45億円といわれている。実際には、試作車「ALFA-X」をもとにした新型車両になりそうで、約50億~60億円になるだろうか。そうなると追加費用は約100億円になる。

函館市長は財源を明言していない。しかし、市長は2023年度に約15億円だったふるさと納税寄付額を100億円にする目標を掲げている。これは財源に役立てられそうだ。ちなみに北海道では、紋別市が2023年度に192億1,300万円を記録している。それに比べると、函館市の伸び代は大きそうに思える。加えて、函館市の「ホテルテトラ」会長が函館駅乗入れ事業に500万円を寄付し、市内在住の市民からも100万円の寄付があったという。

函館市の活性化のために、そして函館~札幌間の整備が北海道の活力になることに気づき、実現を望む声は日増しに高まっている。