JR西日本は、新たな観光列車「はなあかり」(キロ189系)の報道公開を8月29日に実施した。10月5日に敦賀~城崎温泉間で第1弾の運行を開始する。「はなあかり」のポイントは何か。いままでのJR西日本の列車とは何が違うのか。見ていきたい。
「はなあかり」は既存の特急車両キハ189系を改造。「WEST EXPRESS 銀河」や特急「やくも」の新型車両273系などを手がけたイチバンセン代表取締役の川西康之氏が、「はなあかり」のデザイン等を監修した。
キハ189系は大阪駅から山陰エリアを結ぶ特急「はまかぜ」向けの車両として2010年に登場し、現在も「はまかぜ」を中心に活躍している。うち1編成を改造した「はなあかり」は、3両編成の観光列車に。1号車(城崎温泉方)はグリーン車のワンランク上をいく「スーペリアグリーン車」。「籠」をイメージしたという2人掛け半個室の車両となった。
2・3号車はグリーン車。2号車はグリーン車とサロンを組み合わせた空間で、サロンはイベント等に利用できるフリースペースとなっている。2・3号車の座席は360度回転する独立した座席(1列+1列)と、ボックス席(2人用、3~4人用)を用意している。その他、調度品として出雲たたら製鉄や高岡銅器の一輪挿しなど、JR西日本管区内の伝統工芸品を楽しめる。
外観は西日本の自然と風景になじみ、懐かしくも華やかでモダンなデザインとなっている。具体的には、奈良時代を起源とする紋付き染めで最高級の「檳榔子染(びんろうじぞめ)色」を基調色とした。車体下部には日本の四季を彩る草花が装飾された。
「はなあかり」こだわりのひとつはラッピング
「はなあかり」のデザインを担当したのは川西康之氏だが、今回のこだわりは何だろうか。そのひとつに車体のラッピングを挙げた。そもそもキハ189系はディーゼルカーであり、改造にあたって条件面で厳しかったのは重量だという。
デザインの観点から考えると塗装がベストだが、塗料分の重量が加わってしまうため、塗装は断念せざるをえなかった。「ラッピングでいくしかない」と川西氏は決断したものの、ラッピングだと高級感を出しにくい。そこで、「はなあかり」ではシルク印刷(シルクスクリーン)を用いることにした。
鉄道車両のラッピングはインクジェット印刷を用いることが多い。これに対し、シルク印刷はスクリーンと呼ばれる印刷用の板にインクを付けて印刷する方法で、身近な例だと年賀状作りに使われた「プリントゴッコ」に似ている。シルク印刷を用いた結果、光沢がなく、反射しにくいマットな質感を表現できたという。その結果、ラッピング車両とは思えない落ち着いた外装になった。
デザイナーの意向を踏まえ、車両に反映したJR西日本の車両部車両設計室課長、鶴岡誠治氏は、「はなあかりのラッピングに関して、陽の当たり方によってどのように見えるかというところまで、ラッピングの素材をこだわりました」と語っている。
グリーン車と「スーペリアグリーン車」の違いは
「はなあかり」の内装における特徴として、新たに設定された「スーペリアグリーン車」が挙げられる。グリーン車と「スーペリアグリーン車」のコンセプトの違いも気になる点だった。
川西氏の説明によると、グリーン車は「見知らぬお客様同士の一期一会の会話、広い空間で1人あたりの占有面積を広く取っている点が特徴」。一方の「スーペリアグリーン車」は、「半個室といいますか、ボックス状の『籠』のような囲われた空間、プライベート感を高めた空間で旅を楽しめる車両」とのことだった。
要するに、旅の参加人数もさることながら、めざす旅のスタイルによって、グリーン車と「スーペリアグリーン車」を選択することができるとも考えられる。
実際にグリーン車と「スーペリアグリーン車」を見学したが、とくに「スーペリアグリーン車」はプライベート感の高い車両になっていると感じた。
「はなあかり」は短距離・中距離の運行を想定
「はなあかり」は単に乗って楽しむというだけの観光列車ではない。停車駅で沿線住民によるおもてなしも楽しめる列車として運行される。
ちなみに、沿線住民によるおもてなしが行われるユニークな列車といえば、同じくJR西日本が運行する「WEST EXPRESS 銀河」を思い浮かべる。「はなあかり」も「WEST EXPRESS 銀河」と同じようなコンセプトを持つ列車に見えるが、両列車の性格は大きく異なる。
JR西日本の鉄道マーケティング部課長、斉藤健志氏によると、「WEST EXPRESS 銀河」は「夜行も含めた長距離の運行を計画した列車」、一方の「はなあかり」は「短距離、中距離での運行を想定した列車」だという。その上で、エリアを固定して運行し、他の観光列車よりさらにグレードの高いしつらえを用意した列車となっている。
このように、「はなあかり」と「WEST EXPRESS 銀河」は明確に棲み分けができている。両列車を乗り比べて、差異を楽しむ鉄道旅行も面白いかもしれない。