昨今、「FIRE」という言葉をよく聞くようになりました。早期にリタイアして、その後は資産運用によって生活していくスタイルですが、完全な「FIRE」は多額の資金が必要です。そのため、自分には関係ない話と思っている人は多いようです。しかし、「セミFIRE」や「ゆるFIRE」なら、そこまで多くの資金がなくても実現できる可能性があります。不労所得を得ながら、ゆるく働くスタイルなので、社会とのつながりを持ちつつ、仕事に縛られない生き方ができます。「FIRE」よりも難易度の低い「セミFIRE」「ゆるFIRE」は、いくら資金があれば達成できるのか試算してみました。今後注目の生活スタイルになるかもしれませんね。

  • 「セミFIRE」「ゆるFIRE」いくらあればできる?

    「セミFIRE」「ゆるFIRE」いくらあればできる?

「FIRE」と「セミFIRE」「ゆるFIRE」どう違う?

FIREとは、「Financial Independence, Retire Early (経済的な自立と早期退職)」の頭文字をとった言葉で、定年を待たずにリタイアして、それまでに築いた資産を運用しながら生活することです。一般的に言う「早期退職(アーリーリタイア)」は、定年前に退職して、その後は貯金や退職金の取り崩しと年金によって暮らしていくスタイルですが、FIREは、投資元本を用意して、その運用益で生活していくスタイルになります。そのため完全なFIREであれば、元本を減らすことなく生涯を終えることができます。

FIREには「4%ルール」というものがあります。投資資金を年利4%で運用し、その運用益の範囲に年間の生活費が収まれば資産が減らないという考え方です。これをもとにすると、年間の生活費の25倍の資産があれば、FIREが達成できることになります。仮に年間の生活費が400万円であれば、1億円の投資元本が必要となります。

このように、完全なFIREをするためには、非常に多くの投資元本が必要となるので、実現できる人は限られてきます。しかし、リタイア後も、アルバイトや副業などで収入を得られれば、その分、必要となる投資元本は減らすことができます。完全に働くことをやめるのではなく、ゆるく働き続けることで、FIREに必要となる資産を半分にすることができれば、実現できる人は多くなるでしょう。このような、運用益とアルバイトなどの労働収入の2つで生活するスタイルを「セミFIRE」、「ゆるFIRE」、「サイドFIRE」などと呼びます。

「セミFIRE」「ゆるFIRE」はいくらあればできる?

それでは、実際にいくらあれば「セミFIRE」ができるのか、試算してみたいと思います。試算するにあたって、いくつか条件を設定する必要があります。先述したように、FIREするには年間の生活費の25倍の資産が必要です。これに対して、「セミFIRE」は労働収入で半分を補うとしましょう。生活費は、独身の場合と家族がいる場合では大きく異なります。そこで、総務省「家計調査」の単身世帯の生活費と二人以上世帯の生活費を参考にして、2通りの試算を行いたいと思います。

*独身の場合

総務省「家計調査」の直近データを参考にすると、単身者の生活費の平均は16万7,620円です。ここには、税金や社会保険料などの非消費支出は含まれていないので、それを含めて20万円としましょう。年間では240万円です。このうちの半分である120万円をアルバイトや副業などで稼ぐとします。そうすると、資産運用で用意すべき額は残りの120万円となります。120万円の25倍は3,000万円です。つまり3,000万円を年率4%で運用できれば、「セミFIRE」が達成できます。ただし、ここでは、運用益にかかる20%の税金が考慮されていないので、実際は年率5%で運用できないと120万円の不労所得は得られません。年率4%を想定するなら投資元本は3,750万円必要です。それでも4%の運用益を毎年確保できるとは限らないので、生活費を抑えたり、労働収入を増やしたりすることが必要になるかもしれません。

以上のことから、独身者がセミFIREをする場合、3,000万円~4,000万円の資産が必要となるでしょう。

*家族がいる場合

総務省「家計調査」から、二人以上の世帯の生活費を見てみると、29万3,997円となっています。ここには、税金や社会保険料などの非消費支出は含まれていないので、それを含めて38万円としましょう。年間では約460万円です。このうちの半分である230万円を労働収入で得るとします。残りの230万円は資産運用で賄います。230万円の25倍は5750万円です。ただし、4%の年率で税金を考慮すると7,187万5,000円の投資元本がないと税引き後に230万円になりません。足りない分は生活費を抑えたり、労働収入を増やしたりする必要があるでしょう。

以上のことから、家族がいる場合にセミFIREをするには、6,000万円~7,000万円の資産が必要になるでしょう。

*条件を変えてシミュレーション

ここでは、総務省の家計調査の平均値を参考にして、年間の生活費を求めましたが、個々の状況によって生活費は異なってきます。また、リタイア後にいくらに収入を得られるのかも状況によりけりです。そこで、生活費、労働収入ごとに、数パターンを作ってシミュレーションをしてみました。なお、運用利回りは4%で税金を考慮しています。

<セミFIREに必要な資産>

  • セミFIREに必要な資産 ※1万円未満切り捨て

新NISAを活用すれば運用益が非課税

ここまでのシミュレーションでは、配当金や売却益に課税される約20%の税金を引いたあとの金額で必要な資産額を求めていますが、新NISAを活用すれば、生涯を通じた投資枠である1,800万円以内で生じた運用益には税金がかかりません。そのため、必要な資産がその分少なくて済みます。また、必要な資産を作る際にも、新NISAを活用することで効率的に資産を増やしていくことができます。資産額によっては、新NISAと課税口座を組み合わせる必要が出てきますが、まずはNISA口座を限度額まで使うことを心がけるといいでしょう。新NISAは非課税期間が無期限である点も長期間の運用が前提となるFIREに適しているといえます。