大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第18回が5日に放送され、藤原道長の次兄・藤原道兼が病死した。道兼を演じ切った玉置玲央にインタビューし、道兼役のやりがいやラストシーンの撮影秘話を聞いた。

  • 『光る君へ』藤原道兼役の玉置玲央(手前)と藤原道長役の柄本佑

クズ役のやりがいを改めて実感「まだいろんなクズ役がやれる」

大河ドラマ第63作となる『光る君へ』は、平安時代を舞台に、のちに世界最古の女性による小説といわれる『源氏物語』を生み出した紫式部の人生を描く物語。主人公・紫式部(まひろ)を吉高由里子、まひろの生涯のソウルメイト・藤原道長を柄本佑が演じ、脚本は大石静氏が手掛けている。

道兼は、第1回でまひろの母・ちやは(国仲涼子)を殺害。その後もヒール的な役割を担い、存在感を放ってきた。第14回で兼家が後継者に道隆(井浦新)を指名した際には激高。「この老いぼれが……とっとと死ね!」と暴言を吐き捨てた。

玉置は「僕は殺人犯やクズの役が多くて、クズ役はお手の物なんです(笑)。大石先生からも『玉置さんに今回ぴったりの役があるのよ』といただいた役なので、『よしやるぞ!』という気持ちがありました」とニヤリ。

とはいえ、台本を読んだ時は「なかなかじゃないか」と想像以上のヒールっぷりに驚いたという。そして、道兼を演じたことで「クズ役はもっといっぱいやれるなと。数をこなしたいという意味ではなく、いろんなやり方があるんだなという意味で、自分はまだいろんなクズ役がやれるんだなと思えて、それはある種の今後のやりがいになりますし、この作品の中でもやりがいだったなと感じています」とクズ役のやりがいを改めて感じたと語った。

そんな道兼も、父・兼家の死後、絶望していた時に、道長に「私は兄上にこの世で幸せになっていただきとうございます。兄上は変われます。変わって生き抜いてください。この道長がお支えいたします」と言われたことで少しずつ変化していった。

道兼の変化について、玉置は「道長に救ってもらったことがきっかけで、道長との関係性がものすごく変わった。一番信奉していて自分の中の柱になっていた父という存在が亡くなって、道兼が崩れたところを道長が救ってくれて、彼の中で変化があった」と解説。

汚れ役という意味合いも変わったと言い、「言葉通りの意味ではなく、藤原家のために何か成し遂げるということに少しずつシフトしていった。想像でしかないですが、もしかしたらこの先の道長の未来に対しても汚れ役を担っていくような、自分の出世のためではなく、誰かのために汚れ役をちゃんと担っていくようになっていったのかなと。道長のおかげで彼は少しだけ真人間になりました」と語った。

納得のいく道兼の最期を迎え感謝「佑くんが道長でよかった」

道兼は悲田院に行ったことで疫病にかかり亡くなった。寝込んでいる時に道長が見舞いに訪れ、会話を交わすシーンが2人の最後のやりとりとなったが、このシーンは柄本の提案により、台本から変わったのだという。

「道長が見舞いに来て御簾越しに会話をして、道兼が『お前はこれからの人間だから、入ってきてうつったら大変だ。入ってくるな!』と突っぱね、道長が去っていくというシーンでしたが、佑くんがリハーサルで監督とやりとりをしてくれて、『道長は御簾の中に入って兄に寄り添う』という提案をしてくれたんです。ゴホゴホ咳をしながら倒れ込むところを、たまらず御簾の中に入って背中をさすってくれるというシーンになりました」

柄本がリハーサルで提案した段階では、どうするか確定せず。数日後の撮影時に再び柄本が「どうしても俺は御簾の中に入りたい。道長は寄り添うと思います」と熱意を持って意見したところ、監督も受け入れ、変更することに。

玉置は「佑くんが提案し、貫き通してくれたこと、道長が道兼に寄り添ってくれたことがすごくありがたかった」と言い、「道長に救われたという思いが一方的じゃないとわかった瞬間だった。道長は自分という存在をブレずに貫いてきた人物。そういう人こそが生き残っているというのが『光る君へ』の好きなところで、その道長が、これだけブレてきた兄に対して最後寄り添ってくれてすごく救われました」と振り返る。

続けて、「佑くんが道長でよかったなと思ったし、佑くんと共演できてよかったなと思ったし、ありがとうと思いましたし、いろんな思いが渦巻いたラストシーンでした」としみじみ。

さらに、「カメラが止まった時に咳が止まらなくなってしまって、佑くんがカメラが止まっているのにずっとさすってくれて、『つらいよね、つらいよね』と言ってくれたのを今でも覚えていて、自分の役割および死を全うできるなと思えて幸せでした」と柄本の優しい人柄が伝わる裏話も明かしてくれた。

道兼の最期については、SNSで「ろくな死に方はしない」「アイツたぶん呪い殺されるな」というコメントも目にしていたという。

だが、呪い殺されるような死は想像してなかったそうで、「台本を知らない段階でも、彼なりの幸せを見つけて死んでいくと思っていた。改心すると思ってなかったですけど、物語を盛り上げるための小道具として死んでいくということはなく、彼が重ねてきた所業はあれど、きちんと納得のいく、意味のある幸せな死を迎えるんじゃないかなと思っていました」と言い、「(実際に)そうなった気がします。共演者の皆様、監督、佑くんのおかげでそこに至れたなと。感謝、感動でした」と感慨深げに語った。

■玉置玲央
1985年3月22日生まれ、東京都出身。劇団「柿喰う客」所属。近年の主な出演作品は、舞台『ゲルニカ』(20)、『パンドラの鐘』『ジョン王』(22)、ドラマ『恋する母たち』(20)、『おかえりモネ』(21)、『風よあらしよ』(22)、『大奥 Season2』(23)、映画『夜を走る』(22)など。現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』に藤原道兼役で出演。3月から5月にかけて上演中の舞台『リア王』ではエドマンド役を務めている。また、映画『夢の中』が5月10日公開。

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