四方を海に囲まれた島国日本の、第一次産業の一つである漁業。その仕事として誰もが真っ先に思い浮かべるのは「漁師」だと思いますが、もちろん、業界を支える仕事は他にも様々あります。

今回フォーカスするのは「漁業協同組合」の仕事。福岡県の糸島漁業協同組合で業務課長を務める、鹿毛俊作(かげ・しゅんさく)さんに話を聞きました。

漁協職員は漁師のマネージャー

「漁業に携わりたい」と考えた時、選択肢の一つになり得るのが、漁業協同組合(以下、漁協)への就職です。

では、漁協で働く人たちは、一体どんな仕事を行っているのでしょうか。糸島漁協に務めて30年超の鹿毛さんは、漁協の仕事を「漁師のマネージャー」と表現します。

  • 糸島漁業協同組合 業務課長 鹿毛俊作さん 提供:糸島漁業協同組合

「漁協は、漁師を組合員とする協同組合組織で、我々漁協職員は、組合員である漁師の仕事と生活を支える業務全般を担っています。

糸島漁協で行っている事業は、大きく分けて6つ。販売・利用事業、購買・製氷冷凍事業、信用・代理店業務、共済事業、加工・漁業自営事業、指導事業です。

例えば、船舶の燃油や潤滑油、漁具や飼料などの漁業用資材を仕入れて漁師に販売したり、水揚げされた魚を漁師に代わって市場に運んで競りにかけ、一部は付加価値を高めるために加工・製品化したり、組合員の事業や生活を支える金融業務なども行っています。

現在、糸島漁協では、370人の漁師を35人の職員でサポートしています。漁師と漁協職員は日々苦楽を共にする家族のような存在。時に喧嘩になることもありますが、毎日楽しく仕事をしています」。

漁師と海と漁業について考え続ける役割

漁協が向き合うのは漁師だけではありません。行政や民間企業、学術機関など、外とのつながりも多くあると鹿毛さんは言います。

「現在、糸島の観光名物となっている『牡蠣小屋』は、もともとは時化で漁に出られないことが頻発する冬場の時期の漁師の収入を安定させるための対策として、漁協が旗振り役となり始めたものです。カキの養殖とカキ小屋の運営は漁師が担い、漁協は、国からの補助金や助成金の申請を行ったり、企業と組んでPR施策を打ったり、裏方の仕事を担当。おかげさまで今では、通年営業ができるまでに事業が成長しています」。

また、自然を相手に仕事をしている漁業事業者にとっての大きな課題、環境問題への対策活動も、漁協が中心となり、外部の関係機関と連携して行っているそうです。

「地球温暖化などを原因とする海の環境変化や、増えすぎたウニによる食害によって、海藻が著しく減ってしまう"磯焼け"が糸島でも発生しています。環境問題は人間の手でそう簡単に解決できるものではありませんが、手放しではいられないので、海藻の種を植えたり、痩せたウニを捕って再生養殖を行ったり、学術機関をはじめとした外部の方々の知恵を借りながら、漁師と共に対策を行っています」。

さらに糸島漁協では、民間企業と共に、水産資源の有効活用や環境負荷低減のための取り組みも行っていると鹿毛さん。

「一例として、福岡県で健康食品や化粧品を事業展開するヴェントゥーノと連携して、今まで未利用だったわかめの根元部分のめかぶを、化粧品開発に活用しています。この取り組みは、漁師の所得向上にもつながり、一方で、商品が糸島ブランドを盛り上げる役割も果たしており、良い循環が生まれています」。

  • 未利用メカブから生まれた化粧品「人魚の伊都姫」 提供:ヴェントゥーノ

漁協は漁師とともに成長できる職場

近年、日本では、魚の消費量が減少傾向にあります。また、漁業従事者の高齢化や減少も進んでいます。こうした課題の対策に取り組むのも、漁協の大事な仕事の一つだと鹿毛さんは言います。

「地元の小学校や中学校にゲストティーチャーとして出向き、糸島は新鮮でおいしい魚を安く買って食べられる恵まれた環境にあることを伝え、高校生とは、7~8年くらい前から商品開発プロジェクトを行っています。博多女子高等学校との取り組みで開発されたそうめんのりと呼ばれる『ふともずく』の加工品が、コンビニエンスストアで販売されたこともあります。小さな活動ではありますが、魚食普及や、次世代の漁業従事者を増やすためにも、頑張って取り組んでいます」。

漁協に30年以上勤め、酸いも甘いも知り尽くしているという鹿毛さんは、漁協の仕事のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。

「漁協の仕事は多岐にわたり、大変ではありますが、だからこそやりがいはあります。漁師と共に、励まし合いながら、成長できる仕事であり職場です」。

また、漁協に就職すると、様々な資格が取得できると鹿毛さん。

「漁協の仕事には、トラックやフォークリフト、船を陸に揚げるための巻き上げ機の運転免許、危険物取扱者乙種4類など、様々な資格が必要になりますが、これらは、仕事を通じて現場経験を積みながら取得できますので、心配はいりません」。

今、漁業業界は、若い力を欲していると鹿毛さん。日本の漁業と魚食文化を守るためにも、興味のある人、興味を持った人は、門戸をたたいてみてはいかがでしょうか。