航海士の階級である、「一等航海士」や「二等航海士」などの呼称は多くの人が聞いたことがあるのではないでしょうか?

航海士はトップダウン方式で、階級による違いが明確です。これは、船上での安全を保つためで、仕事内容はもちろん、食事や休憩場所まで異なります。

では、具体的に階級によってどのような違いがあるのでしょうか?

航海士の階級は4段階

  • 航海士の階級は4段階

    航海士になるには国家資格取得が必要です

航海士には、「船長」を最高責任者とし、「一等航海士」「二等航海士」「三等航海士」の4つの階級があります。それぞれの階級には実務経験や海技士(航海)の国家資格が必要です。

海技士(航海)の資格は、1〜6級と船橋当直3級に分かれています。年に4回ほど実施される国家試験では、筆記と口述からなる学科試験と身体検査が行われます。さらに、乗船経歴も必要です。

航海士の階級ごとに必要な資格級は、船の大きさや航海域によって異なります。例えば5,000トン以上の大型漁船の場合、船長は海技士(航海)1級が必要ですが、日本の国土周辺の極限られた水域であれば、海技士(航海)3級でも船長として乗船ができます。

航海士の階級による仕事内容の違い

  • 航海士の階級による仕事内容の違い

    航海士は階級によって仕事内容に違いがあります

航海士は、階級が上がるほど権限や責任が重くなる特徴があります。航海中の当直は、どの階級の航海士も交代で担当しますが、それ以外に階級ごとに任される仕事があるのです。

それぞれの階級の仕事内容を紹介します。

船長の仕事内容

船長は船の上の最高責任者です。「キャプテン(マスター)」と呼ばれ、航海士だけではなく、通信士や機関士のトップとしても重要な任務を果たします。船長になるには、航海士としての多くの経験が必要です。

海上の波や風などの気象情報を見ながら航海の是非や航路を決め、安全な航海を指揮するのが船長の仕事です。緊急時の対応や難易度が高い場所の操船指揮など、高度な技術が要されます。

また外部との交信や、船内の資金管理も船長の重要な仕事です。乗船している全員の命を守らなければならない船長は、緊急時には部下のみならず乗客にも命令を下す権限があります。

一等航海士の仕事内容

航海士の中で一番大きな権限を持ち、船長の右腕となるのが一等航海士です。「チーフオフィサー」とも呼ばれ、事故や病気などで船長が万が一の事態の際や、船長が休憩中には船長代理を務めます。

主な仕事は、航海士が所属する甲板部の統括です。甲板部には、職員である航海士のほかに、国家試験を保持しない甲板部員も所属しています。

入出港の際は、船と陸上とをロープで繋いだり放したりする係船作業の指示を出すのも、一等航海士の仕事です。航海中には当直や積荷の管理、航海の前後には船体の整備を行います。

二等航海士の仕事内容

一等航海士をサポートしつつ、三等航海士のフォローも欠かせないのが二等航海士です。「セカンドオフィサー」と呼ばれ、船長とともに航海計画の立案も行います。

入出港時に一等航海士が船頭で作業を行うのに対し、二等航海士は船尾で埠頭への着岸と離岸の指揮や監督を行います。航海中はGPSやレーダーなどの機材管理や、航路のチェック、航海日誌の記入などを担当します。

機材のデータや星の位置を読み取り、船の位置を把握したり航路の確認をしたりする二等航海士の仕事は、安全な航海に欠かせません。

三等航海士の仕事内容

国家資格を有する航海士の中で、最も責務が軽いのが三等航海士です。「サードオフィサー」と呼ばれ、一等航海士や二等航海士の補佐をします。

主な仕事は、救命設備(ボートやいかだ)の管理と防火設備の管理です。航海に関するさまざまな書類の管理や、航海日誌の記入も担当します。

また、三等機関士とタッグを組んで、航海中のレクリエーションを企画運営することもあります。

小さな船での航海など、場合によっては三等航海士がいないこともあり、その際には二等航海士や一等航海士が三等航海士の仕事を兼務します。

航海士の階級による肩章の違い

  • 航海士の階級による肩章の違い

    航海士の階級は肩章の金筋の本数でわかります

船の乗組員の制服には、階級とセクションがわかる「肩章」が付いています。冬服の場合、肩ではなく袖章の場合もあります。

階級は、金筋の本数で区別されており、航海士が所属する甲板部では4本が船長、3本が一等航海士、2本が二等航海士、1本が三等航海士です。

また、セクションの区別は金筋の間の色で決められています。甲板部は黒、機関部は紫、パーサー(船客部門の責任者)は白、無線部は緑、船医は赤となっています。

乗船した際には、ぜひ肩章をチェックしてみてください。

航海士の生活

  • 航海士の生活

    航海士の勤務時間は、階級によって異なります

航海士の勤務時間は、船上と陸上で異なります。また、長期の航海中は休暇が取れませんが、下船後にまとめて数か月の休暇が与えられることもあります。

給与をもらいながら自由に過ごせる長期休暇は、旅行や趣味に没頭することもでき、航海士の醍醐味といえます。

航海士の勤務時間

船上では、安全な航海のために24時間誰かが業務にあたります。通常、当直業務は交代で4時間担当して8時間休憩を繰り返し、1日に8時間担当します。当直の担当時間は階級ごとに次のように決まっています。

〈当直担当〉

・一等航海士:4~8時、16~20時

・二等航海士:0~4時、12~16時

・三等航海士:8~12時、20時~0時

8時間の当直以外は、食事や入浴、睡眠など自由に過ごす時間ですが、機器の整備や書類の整理などは適宜対応します。

陸上での勤務時間は会社によって異なりますが、おおむね9:00〜17:00です。12:00前後に昼食休憩があり、一般的な会社員と同じような勤務時間です。

航海士の休暇

船上で休暇がない航海士は、1年のうち9か月間は休みなく勤務して、下船した後3か月間が休暇というような特殊なスケジュールで働いています。

休暇のサイクルは会社や船の規模により異なり、30日間の乗船後10日間の休暇であったり、60日間の乗船後20日間の休暇であったりとさまざまです。

航海士はキャリアアップのために国家資格の取得が欠かせません。陸上での長期休みの間、資格取得に専念する航海士も多いです。

航海士の年収

  • 航海士の年収

    航海士の年収は総じて高めの傾向にあります

船上で常に危険や責任を伴う仕事をしている航海士の給与は、他の業種と比べて高めです。また、海上勤務の際は乗船手当が付与されたり、船上では生活費もほぼかからないため出費が抑えられたり、金銭的なメリットが大きいです。

航海士の全国平均年収は453.8万円です。大型船の船長クラスでは年収が1,000万円を超えるケースもあるようです。

航海士の年収は、会社や船の規模で大きく異なります。あくまでも目安として参考にしてください。

航海士は階級によって仕事内容が異なる

  • 航海士は階級によって仕事内容が異なる

    航海士は階級によってさまざまな違いがあります

航海士には4つの階級があり、肩章で判断できます。船の最高責任者である船長をトップに、航海士の仕事は階級によって区別されています。一等航海士、二等航海士、三等航海士それぞれの仕事内容は、会社や船の規模が変わっても共通であることがほとんどです。

航海士には年齢制限がありません。海技士の免許交付は20歳以降なので、実際に専門学校などに通いながら船乗りを目指しているのは20歳前後の方が多いですが、30代以上でも未経験から航海士を目指すことは可能です。航海士に興味がある方はぜひ参考にしてください。