内航海運事業者団体と中国運輸局は7月17日、中国地方では初めてとなる「内航船員就職セミナー」を開催。地元の高校生らが多数参加した。

  • 中国地方では初となる「内航船員就職セミナー」が開催された

内航海運とは?

今回の内航船員就職セミナーは、隠岐水産高等学校、境港総合技術高等学校の生徒など、地元の若者を対象にしたもの。

  • 会場となった、みなとテラス 市民ホール(境港市民交流センター、鳥取県境港市上道町3000)

  • 内航海運(ないこうかいうん)とは、食料品、日用品、産業基礎資材、石油といった国内貨物の海上運送のこと

みなとテラス 市民ホールには中国地方で事業展開する23社の内航海運事業者がブースを設け、担当者約40人が船員の働き方や魅力を対面で説明。また中国運輸局では、船員制度の説明、就職活動に関する相談も実施した。普段、聞けない現場の生の声を直接聞ける機会とあり、参加した高校生ら約70人は担当者の話に熱心に耳を傾けた。

  • 隠岐水産高等学校、境港総合技術高等学校の生徒、保護者、教諭が来場した

ひとくちに”内航海運事業者”といっても、事業内容は各社様々。内航船にも一般貨物船、油送船、コンテナ船、ケミカル船、自動車専用船、RORO船……というように種類がある。「前からサルベージ船が好きで、今日は気になる企業で話を聞いてきました。でも別の企業のブースを訪れたら、そちらの事業内容にも興味が出てきて」などと笑顔を見せる生徒もいた。

  • 10年で船長・機関長を育てるキャリアアッププランを示す企業

  • 内航船のリストに興味津々の生徒

多くの生徒の関心事は『陸上には何週間戻れないのか』『休暇は取れるのか』『給与はどのくらいか』といったもの。企業側も質問を先回りして『当直業務とは』『航海士の1日のスケジュールは』『乗船サイクルは』などを丁寧に説明していった。10時半~15時半まで開催された今回のセミナー。昼時には「午前中だけで5~6社を回りました。午後もブースを周ります」と意欲的に話す生徒の姿も見られた。

  • 航海士の1日のスケジュール。こちらの企業では、貨物船・タンカー船の乗船サイクルについて70日乗船、20日休暇、70日乗船、20日休暇、を繰り返していくと説明した

  • プレゼン資料には「居室は別々、食事は一緒。コミュニケーションの必要性!」のメッセージ

海から日本を支える仕事

日本内航海運組合総連合会の林広之氏に話を聞いた。海運業界の就職状況については「毎年、ある程度は入ってくれるんですが、離職率も高い世界です」と林氏。就職した若者にいかに定着してもらうか、いま各社とも苦労していると内情を明かす。

  • 日本内航海運組合総連合会 総務部長 広報室長の林広之氏

また女性の社会進出が言われる時代にあり、この業界でも女性を積極採用する動きが活発になってきたという。従来は男性中心だった企業に女性が入社することで、船内環境も明るく綺麗な空間へと変わり始めている、とした。

  • 会場には、女子生徒の姿も多く見られた

ところで、いま物流業界では「2024年問題」が喫緊の課題となっている。2024年4月に施行される新たな働き方改革関連法により、地上を走るトラックドライバーの労働時間に上限がもうけられることで、トラック運送業社は利益が減少し、ドライバーは収入が減少、賃料は高騰する、といった負の連鎖が起きることが懸念されている。

2024年問題について、林氏は「私が色々と言える立場でもないのですが」としたうえで「個人的に思うのは、今後陸上で運べない荷物の一部を海上輸送で補うことは十分に考えられることでしょう。そのための準備を念頭に入れています。

もっとも、船を増やすことは事業者の経営判断によること。最近は荷主、トラック会社、船会社が共同する新たな物流のカタチも出てきています。そういった事例も参考にしながら、我々としても社会課題を乗り越えていきたいですね」と話した。

  • 日本内航海運組合総連合会のポスター

海運業界を目指す若者に向けては「昨年より弊社では”海から日本を支える仕事”というキーワードでメッセージを打ち出しています。社会的にも意義の大きな、誇りを持って続けられる仕事です。是非、たくさんの若者にチャレンジしてもらえたら、と期待しています」と呼びかけた。

夢を実現するための近道に

このあと、中国地方海運組合連合会 専務理事の永見慎吾氏にも話を聞いた。今回のセミナーの盛況ぶりに、同氏は「想定していた以上の反響です。参加した事業者は、パソコン、プロジェクターなどをうまく使って、工夫をこらしたプレゼンを行っていますね」と手ごたえを口にする。

  • 中国地方海運組合連合会 専務理事の永見慎吾氏

今回、セミナーを休日開催にした理由については「教職員と保護者のかたにも参加を呼びかけたかったんです。17歳、18歳というとまだ職業観が固まっていない若者も多い。そして、業界について詳しいことまでは知らないという親御さんもおられます。そこで、親子でもブースを回ってもらえるようにしました。息子が船乗りになると言っているけれど、どんな業務内容なのでしょうか、そんな感じで興味を持って説明を聞いていかれる親御さんもおられます」。

  • 子どもも親も、そして学校関係者もこうした機会に期待している

「バス、タクシー、トラックであれば町中を走っているので業務内容もイメージが沸きますが、海の上の仕事となると、皆さん想像がつかないですよね。自然が相手の仕事なので辛さはありますが、こんな業務内容ですよ、実は待遇も良くて、休暇も取れるんですよ、というところをお伝えしています」。

  • 「30歳で家が建ちます」と訴求する企業も!

やはり、就職したあとの定着が課題になっている、と永見氏。「業務内容の理解が十分でないまま海の世界に入ってしまうと、こんなはずじゃなかった、ということで離職してしまうんですね。こうした機会に、少しでも内航船員への理解を深めてもらえればと思います」と話す。

中国エリアで初開催となった今回のセミナーについては「ひとつの成功事例になったのでは、と評価しています。すでに次回の開催を期待する声もいただいていますし、継続的に実施していきたいですね」。

最後に「海運業界の仕事はタフさが求められますが、若者にとって、夢を実現するための近道だとも思うんです。率直に言って、給料が高い。統計上、陸上産業の平均1.4倍くらいの高給取りになれます。こうしたセミナーをきっかけに業界をちょっと覗いてもらって、就職先に『船乗り』という選択肢を加えてもらえたらな、と期待しています」と話していた。