今や演技派俳優として、引く手あまたな草なぎ剛。連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)では、趣里演じるヒロイン・スズ子を導く音楽の師匠・羽鳥善一役を好演している。どんな役どころも草なぎが演じれば、まるで当て書きされたかのようにすんなりと馴染み、今回の善⼀役でも、肩ひじ張っていないナチュラルな演技で視聴者を魅了。そんな草なぎの魅力を、これまでの代表作を振り返りつつ紐解いていく。

  • 『ブギウギ』羽鳥善一役の草なぎ剛

当たり役は“いい人”役からダークヒーローまで幅広い

俳優として最初にお茶の間で熱い視線を浴びたのは、1997年放送の連続ドラマ『いいひと。』だろうか。とても楽観的で誰の前でも“いい人”というキャラクターが、草なぎのパブリックイメージはもちろん、本人の人柄ともベストマッチ。このドラマは彼の俳優としての出世作となり、その後主演を務めた『僕の生きる道』(03)、『僕と彼女と彼女の生きる道』(04)、『僕の歩く道』(06)の“僕シリーズ3部作”につながっていった。

とはいえ、“いい人”役は、俳優として様々な色のパレットを持つ草なぎの一部にすぎない。温厚な役柄とは真逆に、男くさい熱血漢や野心をむき出しにした役どころでも大いに実力を発揮してきた。

映画化もされた『任侠ヘルパー』シリーズ、『銭の戦争』(15)、『嘘の戦争』(17)、『罠の戦争』(23)など、多くのヒット作で主演を務めてきた草なぎ。背筋がぞっとする復讐鬼やダークヒーローの役も草なぎの十八番である。『任侠ヘルパー』は指定暴力団の組長が介護ヘルパーとして働くという異色の設定だったが、そこに説得力を与えたのは、草なぎが醸しだす絶妙なさじ加減の演技によるところが大きかったと思う。

特筆すべき点は、そういった役柄を演じるにあたり、ただ優しいほのぼの系の役柄に逆振りするのではなく、草なぎならではのユーモアやシュールさを微妙な塩梅で入れてくる点だ。それによって、回を追うごとに、キャラクターの知られざる魅力が小出しされていき、油断しているとうっかり涙腺トラップにハマってしまう。

『ミッドナイトスワン』で俳優としての頂点をマーク

映画では、クチコミでロングランヒットとなり、最終的に興行収入30億円を上げた『黄泉がえり』(03)以降、様々な話題作に出演。もちろん代表作は、2020年に主演を務めた『ミッドナイトスワン』である。草なぎはトランスジェンダーの凪沙役で、第44回日本アカデミー賞にて自身初となる最優秀主演男優賞を獲得したのも記憶に新しいところだ。

トランスジェンダーという難しい役どころだが、草なぎはミリ単位と思えるようなバランスで主人公の凪沙役を熱演。凪沙の繊細さや抱える葛藤が、リアルに浮かび上がった。

ちょうど『ミッドナイトスワン』公開時に草なぎにインタビューをしたが、草なぎは役へのアプローチの仕方について、非常に彼らしいコメントを出してくれた。

「基本的に最初は、全部が『無理だ』『どうせできないよ』とは常に思ってしまいます。役は自分とは違う人なのだと、諦めて捨て鉢になったところから入るほうが楽なので。もちろん、実際にはちゃんとやるんですが、そういうふうに思っていないとできません。一つの作品で、できたなと思っても、次に新しい役が来たとき、それができる保証はなに一つないですし」と、そこには常にポジティブな謙虚さが感じられた。

また、周りの共演者を常にリスペクトし、様々なものを吸収してきた草なぎ。『ミッドナイトスワン』で、凪沙と同居した中学生・桜田一果役で映画デビューを果たした服部樹咲について「演技に初挑戦した一果役の服部樹咲ちゃんと出会って、キャリアだけで語れないものも感じました」と語っていた。

  • 『ブギウギ』羽鳥善一役の草なぎ剛とスズ子役の趣里

つかみどころのないキャラクターも好演

もちろんその輝きは主演に限ったことではない。近作でいえば、吉沢亮主演の大河ドラマ『青天を衝け』(21)で演じた徳川慶喜役は、非常に好評を博した。演じたのは江戸幕府第15代将軍だが、ただ飄々としているキャラクターではなく、草なぎが演じることで、浮世離れした高貴さに、時代を見極めている賢さが見え隠れした。

こういったどこかつかみどころのない役も、草なぎが得意とする分野だと思う。そして朝ドラ初出演を果たした『ブギウギ』の羽鳥善一役もそのジャンルに近い気がする。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」など数々の名曲や多数の映画に出演した戦後の大スター・笠置シヅ子(かさぎ・しづこ)をモデルにした『ブギウギ』。趣里演じる福来スズ子(芸名)こと花田鈴子が、“ブギの女王”と呼ばれる大スターになるまでの波乱万丈の人生を描いていく。善一は大阪生まれの作曲家で、モデルは作曲家の服部良一氏。ジャズを得意とし、「東京ブギウギ」「青い山脈」「別れのブルース」など数多くの名曲を世に生み出してきた逸材で、鈴子の才能を見出し一流の歌手へと育てあげた鈴子の恩人だ。

善一役を演じるにあたり、草なぎは「初めての朝ドラ出演で、昭和の作曲家・服部良一さんがモデルの役を演じさせていただきます。皆さんに楽しんでいただける作品になるよう、服部さんの楽曲を聴き、収録に臨みたいと思います。僕自身も昭和の時代を駆け抜けます!」と語っていた。

善一は「トゥリー、トゥ、ワン、ゼロ」という軽快なリズムの取り方ですぐに視聴者の心を鷲づかみに。そして、天才にありがちな、どこまでもマイペースなゴーイングマイウェイなキャラクターとして存在感を放っている。とはいえ、彼の人生も波乱万丈で、陸軍の報道班員として上海に赴くも、そこで終戦を迎え、その後連行されてしまう場面もあり、そういったシーンでは苦悩がにじみ出ていた。

草なぎはどんな役を演じても、観るものに「きっとこういう人に違いない」と想像させるような余白を与えられる点が素晴らしい。その余白が、想像の斜め上を超えてくることも多いので、登場回ではついついそういうものを期待してしまう。そこが彼の役者としての強みでもあると思う。

これまでにもことあるごとに、スズ子の背中を押す重要な役どころを担ってきた善一。喜劇王・タナケンこと棚橋健二(生瀬勝久)の一件もしかりだ。そして善一役としてもそうだが、俳優・草なぎ剛としての人間力も、主演の趣里や作品自体に大きな力を与えているに違いない。今後も『ブギウギ』にて、スズ子の人生にいろんな波風が立ちそうだが、善一がその時々で、スズ子の未来を照らすパートに居続けてくれることを期待したい。

(C)NHK