BPO放送倫理検証委員会は11日、TBS『news23』の「JA自爆営業」調査報道について、放送倫理違反があったとする決定を公表した。意見書は「情報源の秘匿という本来放送局が負うべき責任を軽んじた対応」と断じると同時に、テレビ局が行う“調査報道”にエールを送る内容となっている。

BPO事務局が入る千代田放送会館

『news23』に放送倫理違反

審議となったのは、『news23』で昨年1月に放送したコーナー「調査報道23時」で、JAにおいて共済営業の過大なノルマ達成のために、職員やその家族が不必要な契約を結ぶいわゆる“自爆営業”が横行していると、顔をぼかし声を変えた職員の証言をベースに報じたもの。放送後BPOに、この職員と会ったことがあるという視聴者から、放送を見て誰かをすぐ特定できたという声が寄せられ、同年8月に審議入りした。

その結果、内部告発者の状況や真意をくみ取った取材とは言い難く、情報源の秘匿という放送局が負うべき責任を軽んじた対応だったことが判明。さらに、内部告発者が使用を控えてほしいと頼んだ映像を、約束を失念して放送してしまうという失策を犯していたことなどもわかり、放送倫理違反があったと判断した。

「調査報道は絶対にやめたくないんです」の声

一方で、テレビ報道が置かれている現状についても言及。ネット上にあふれる「テレビの報道は信用できない」「自分たちに都合のいいところを切り貼りしているだけではないか」「政権や当局、スポンサーなどに忖度し、どうせ肝心なことは報道しない」といった声を挙げながら、「“マスゴミ”という言葉を交えながら、真実はネットにあるといった声もSNSを軸としてインターネット上にあふれている。 放送局で働く制作者たちのなかには、こんな言説を目の当たりにしてげんなりした経験を持つ人も多いに違いない。ただでさえ、報道の現場は忙しい。休みもろくに取れない。『働き方改革など、どこの世界の話だ?』と思う人もいるだろう。心身をすり減らしながら取材し、報道しても、“マスゴミ”批判が拭いきれないとしたら……こんな、報われない仕事があるだろうか」と、テレビの報道現場に寄り添った。

この現状打破の一手として、発表報道への傾倒から「調査報道」に注力することで、視聴者の期待に応えたいという思いがあると理解。実際に、今回のTBSへのヒアリングでも「身の丈に合わないことをやっていると言われればそうかもしれない。でも、記者クラブに張り付いて情報をもらって視聴者に伝えるということだけでは、『おまえたち、もう要らないよ』と世の中から言われているような気がしています。自分たちで問題を発見し、問題を提起していくことが、多数の報道機関が存在するネットメディア時代においての存在意義だと思うので、調査報道は絶対にやめたくないんです」という声があったという。

「挑戦を続けてほしいと切に願っている」

その上で、『NNNドキュメント「ネットカフェ難民 漂流する貧困者たち」』(07年、日本テレビ)、『夢は刈られて~大潟村・モデル農村の40年~』(11年、秋田放送)、『戦没者遺骨の取り違え公表せず』(19年、NHK)、『すくえた命』キャンペーン(21年、テレビ西日本)といった調査報道の成果事例を列挙。

さらに、TBSが21年7月、報道局内に「調査報道ユニット」を発足させ、「GoToトラベル事業不正受給」のスクープ報道や「老舗旅館による雇用調整助成金の不正受給」報道といった実績を積み重ねてきたことをはじめ、ここ数年で各局が調査報道を冠する組織や番組を相次いで立ち上げていることにも触れ、「挑戦を続けてほしいと委員会は切に願っている」と熱望した。

だからこそ、「TBSには本件放送の大きな失敗を大きな教訓に変えるよう努力してほしいし、他局の制作者たちも足元を見つめ直す契機にしてほしい」と強調。

そして、「制作現場では、つらく、重苦しいことが続いているかもしれない。しかし、不正や不作為、不公正を報道の力で正してほしいと期待している人々は社会のあちこちにいる。『素晴らしい番組だった』『あの報道によって社会が動いた』という声をもっとたくさん聞くために、諦めず、投げ出さず、引き続き、胸を張って仕事をしよう」と呼びかけた。