TBS系報道番組『サンデーモーニング』(毎週日曜8:00~)はこのほど、11月15日に「生成AI」について誤った情報を放送したことについて、BPO放送倫理検証委員会に報告書を提出した。BPOが14日、ウェブサイトで公表した同委員会の議事概要で明らかにした。

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TBS、報告書で「視聴者の信頼を損ねてしまった」

これは、イスラエル・ハマス戦争に関係する画像5枚について、「生成AIでつくられたフェイク画像」と断定できる根拠がないにもかかわらず、断定して放送したもの。その後、番組ホームページや翌週の番組でおわびと訂正をした。

報告書によると、ハマス幹部に関する4枚の画像については、インターネット上に画像が出回った時期からして、実際にあったシーンを撮影した本物の画像である可能性が高いことが判明。そもそもこのコーナーは、まん延する生成AIによる創作物やフェイク画像の扱いについて警鐘を鳴らす目的で制作されており、まさにその中で、生成AIに関する誤った情報を放送し、視聴者の信頼を損ねてしまったことを重く受け止めているという。

ミスを起こした大きな原因は、放送内容をチェックする立場にあるプロデューサー陣の管理態勢の問題。担当ディレクターも放送内容の事実確認に関する基本認識に欠けた部分があったほか、プロデューサー陣、担当ディレクターともに、生成AIやフェイク画像に関する認識が不十分だったからだとしている。

再発防止策として、事前プレビュー・チェックの強化や画像ファクトチェックの強化など。また報道局全体の再発防止策として、フェイク情報共有システムを新設し、ニュースに関連するフェイク情報や画像を発見した場合、系列各局で即座に情報を共有できるようにするといった施策が打ち出されている。さらに、同局の放送倫理委員会で議論し、全社的にも問題点の周知・徹底を図るとしている。

生成AI画像の問題は「他局にも同様の課題を突き付けている」

BPO放送倫理検証委員会は、誤った情報を放送するにあたって事実確認が不十分であった点で放送倫理違反の疑いはあるものの、局の調査が詳細に行われており、さらに踏み込んだ調査の必要性に乏しいことや、生成AIやフェイク画像を含むファクトチェックに関する再発防止策が速やかに取られていることから、経過を見守ることが望ましいと判断。討議を終了し、審議入りはしないこととした。

だが、生成AI画像の問題は、他局にも同様の課題を突き付けていると考えられ、警鐘を鳴らすという意味で、委員からの意見を議事概要として公開した。

委員からの主な意見は、以下の通り。

・基本的なチェックが行われずに事実と違うことを放送した点で、放送倫理違反があったと言える。

・放送では、プロパガンダと生成AIの話が交錯しているが、おわび放送で生成AIのフェイク画像が誤りであることについては触れているものの、写真自体がフェイクであったのかについては説明がない。プロパガンダという面からみると、視聴者に対しては写真自体がフェイクかどうかについても説明すべきだったのではないか。

・VTRが非常に分かりにくい。生成AIのフェイク画像であることを専門家が説明しているが、この画像がどのような状況で使われたか、なぜ取り上げているのかについての説明がない。

・単に事実確認の基本を怠っているだけであり、生成AIのような新しいものが出てきたから事実確認のハードルが上がった、というような事案ではないのではないか。

・ローマ法王がトランプ(前米大統領)を支持しているというフェイクニュースを例に取れば分かるとおり、フェイクニュースは、それを作った人の意図と流通させている人の意図がまったく違う可能性が多い。当該放送局がどこまでこれを認識していたかは分からないが、フェイクニュースの問題は単純に捉えない方が良い。

・現実のニュース報道においても、生成AIによるフェイク画像が潜んでいる可能性がないとは言えない。これを全て検証する術があるのだろうか。SNSをリソースとしてはならない、という厳しい規制になりかねない。

・生成AI画像問題を取り上げるコーナーにおいて、フェイク画像にだまされたのではなく、本物である可能性が高い画像をフェイク画像と断定したのは、事実確認が甘すぎる。

・放送前に、画像分析ツールや複数の分析会社を利用すれば防げたのではないか。

・生成AIの技術はどんどん進化していくので、放送局に対してしっかりと確認するように伝えたとしても、現在の技術状況では確認に限界があり、一罰百戒にならないか。今後放送局が「これはフェイク画像だ」と言えなくなってしまう恐れがあると思う。

・フェイク情報共有システムの構築などは、他の放送局にとっても参考になると思う。