2024年12月から、高校生まで児童手当が拡充されます。それを受けて16~18歳の子どもがいる家庭に適用される扶養控除が縮小される見通しです。そもそも、児童手当が支給されると、なぜ扶養控除の廃止や縮小の話になるのか、児童手当と扶養控除の関係をこれまでの経緯を含めて解説します。また、児童手当拡充と扶養控除縮小による家計への影響を年収ごとに表した一覧表も載せていますので確認してみてください。
児童手当拡充と扶養控除縮小
今後の税制改正によって、子育て世帯に係わる制度がどのように変わるのか、ポイントとなる児童手当の拡充と扶養控除の縮小について、それぞれ概要をみてみましょう。
*児童手当の拡充
政府は「こども未来戦略」として、児童手当の拡充を決定しました。2024年12月の支給分から実施されます。
変更点は次の3つです。
- 所得制限の撤廃
- 高校生まで支給(支給期間を3年間延長)
- 第3子以降は3万円に倍増
第3子の手当の増額は、第1子が22歳に達する年度末まで継続できるようにするとしています。
<児童手当の額(月額)>
*扶養控除の縮小
児童手当の拡充に伴って、高校生などの扶養控除の見直しが検討されています。
現時点では、以下の案で検討が進められています。
16~18歳の子どもがいる家庭に適用される扶養控除(1人当たりの年間控除額)
所得税: 38万円から25万円に引き下げ
住民税: 33万円から12万円に引き下げ
この案が実現すると、すべての所得層で、控除の縮小によって増える税負担よりも、子ども1人当たり年間12万円の児童手当の増額分が上回るうえ、所得が少ない層ほど実質的な手取りが多くなる設計となります。これについては最後の項目で一覧表にして解説します。
「扶養控除」と「児童手当」の関係
なぜ、児童手当が拡充されると扶養控除の廃止や縮小の話になるのか、これらの制度の歴史を振り返ってみます。
児童手当は1972年に施行された児童手当制度によって、第3子以降に月3,000円の支給から始まりました。そこから度重なる改正を経て、2010年に民主党政権において「控除から手当へ」のスローガンのもと、「児童手当」から名称を変更した「子ども手当」が創設されました。
支給額は1万3,000円、所得制限なしで施行されましたが、この時、年少扶養控除が廃止されました。年少扶養控除は0歳から15歳までの子どもを扶養している場合に、1人当たり38万円が所得税の課税対象から控除されるものです。つまり、子ども手当(児童手当)が支給されるのであれば、この年代の控除はいらないという考え方です。
また、この年の税制改正で、高校の実質無償化に伴い、16~18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分(25万円)も廃止されました。
所得控除は、所得が多いほど控除による効果が大きくなる仕組みであるため、年少扶養控除の廃止は一定以上の所得者にとっては、手当で受け取る額よりも税負担の増加の方が大きくなります。さらに、2012年には、所得制限なしで始まった「子ども手当」に所得制限が設けられ、手当もカットされる層が出てきました。所得制限を設けるなら、年少扶養控除を復活させるなど、整合性を取る必要があると思うのですが、年少扶養控除は廃止されたまま、所得制限のある児童手当が今日まで続いています。
「扶養控除」と「児童手当」は、子どもがいる家庭を経済面で支援するという意味では同じですが、支援の方法が「減税」と「給付」で異なります。扶養控除は減税であるため、高所得者ほど恩恵が大きく、非課税者などの低所得者には恩恵がありません。一方、児童手当は一律の給付ですが、所得制限を超えると給付がなくなるので、所得制限を超えた高所得者には恩恵がありません。つまり、現行の制度は、低所得者には有利、高所得者には不利な制度といえます。
改正後の家計への影響を年収別に確認
2024年からの児童手当の拡充とそれに伴って行われる扶養控除の縮小は家計にどのような影響を与えるのでしょうか。全世帯で差益が出ると試算している政府試算の年収ごとの差し引き受益額を確認してみましょう。
差し引き受益額は「児童手当(年12万円)」-「所得税と住民税の増加分」です。
児童手当拡充と扶養控除縮小による影響(政府試算)
所得税の控除額は38万円から25万円になるので、13万円の控除がなくなります。その13万円に所得税の税率をかければ増加分になります。所得税の最高税率は45%なので、一番負担が増える人でも5万8,500円となります。一方、住民税は33万円から12万円になるので、21万円の控除がなくなります。住民税は一律10%とすると2万1,000円の負担増となります。所得税と住民税を合わせると、一番負担が増える人でも7万9,500円となります。児童手当の12万円から差し引きすると約4万円となるので、政府の試算とほぼ近いことがわかります。
このように、所得が低い人ほど扶養控除の縮小の影響は少ないので、児童手当が高校生まで拡充される恩恵をほぼそのまま受けられます。一方、所得が高い人は、税率が高くなるほど扶養控除縮小の影響を受けますが、これまで特別給付の5,000円かあるいはまったく受け取れなかった児童手当が、所得制限がなくなり満額給付を受けられるため、差し引きではプラスになります。つまり、今回の改正案は誰にとっても得となります。少子化対策としては、物足りなさはありますが、改善されつつあるといえるでしょう。