対談は、YouTubeをはじめネットメディアに脅威を感じるかというテーマにも。橋本氏は「テレビは正直言うと大変な状況だと思います。みんながネットを見始めて、このあいだ衝撃だったのが、70歳になる母親からLINEで“ROLANDのYouTubeにハマってる”って送られてきたんですよ(笑)。70の母親って人生において最後までテレビだけを見てる人だと思ってたので、結構僕にとってもショックだったんです。今後ニュースやスポーツといったライブコンテンツは残ると思うけど、バラエティとかドラマをいつまでテレビで見てもらえるのかというのが課題になっていくと思います」と厳しい現状を受け止める。

その一方で、「テレビ局を辞めて、NetflixとかAmazonプライムとかABEMAの人と話しても、結局出てくるのはテレビを作ってた元局員の人なんですよ。だから、日本はプロデューサーとかディレクターといったクリエイターが、テレビからしか出てこない構造になってる。人を育てるってコストをかけるということだし、余裕がないとできない。それが今はテレビにしかできていないので、テレビの未来はめちゃくちゃ明るいわけじゃないけど、暗いわけでもない。テレビから育つ作り手がどう活躍できる環境を作れるかが鍵ですね」といい、「だからテレビはコンテンツをどうやって越境させるか。つまり出し口をいっぱい捉えてコンテンツの価値を最大化させるという勝負に変わっていくのではないか」と展望した。

様々な出し口が生まれたことをポジティブに捉える木月氏は「“この企画は今までの地上波テレビの枠組みだと難しいけど、こういう稼ぎ方ができたら成立する”とか、そういうことが増えてるんです。『久保みねヒャダこじらせナイト』って深夜で10年やってるんですけど、今はイベントが主体でチケット収益を得て、それをフジテレビで流すことにより宣伝になって、結果的にイベントにお客さんが来るというサイクルが生まれているんですよ」と事例を紹介。

橋本氏は「どう電波を活用して新しいモデルを作っていくかというのは、めちゃくちゃ大事ですよね。僕も『BUTSUYOKU LAB.』っていう通販番組を日本テレビでやっていて、インフルエンサーがテレビと自分のアカウントで同じ商品を紹介するんですけど、それで商品が注目されて売れれば、新しいビジネスモデルになる。どうやってお金をかけないで番組を作るかということも、実は知恵を使えばやりようがいっぱいある。それはテレビが持っている演出力をどう広げていくかという話なので、これから境界がなくなっていくんじゃないかと思いますね」と先を見据えた。

「お前、ブラジャーも着けれねぇのか!」

ほかにも、木月氏が演出を担当した『笑っていいとも!グランドフィナーレ』生放送中のヒリヒリする秘話、橋本氏が情報番組『ザ!情報ツウ』のADの頃、当時流行していた“海藻ブラジャー”(※海藻素材のブラジャー)を装着することをディレクターに命じられるも、うまく着けられずに「お前、ブラジャーも着けれねぇのか!」と怒られた話などを披露し、それぞれが最近注目した番組では、木月氏が『ドキュメント20min. ニッポン探訪 ~北信濃 神々が集う里で~』(NHK、木村優希ディレクター)、橋本氏が『カワシマの穴』(日本テレビ、南斉岬ディレクター)を挙げた。

さらに、2人から見たキー局それぞれの特徴や、“テレビは昔のほうが本当に面白かったのか?論”からの編集技術の飛躍的な進化、『新しい学校』の「学校かくれんぼ」制作の裏側、『ヒロミ、キャンプ場を作る。』から『しゃべくり007』八王子会紹介に見る日テレのチームプレー力といった話題などが展開され、質疑応答では希望者全員に当てられないほどの盛会となった。