YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”たちは、どのような意識で番組制作に臨んでいるのか。連載【令和テレビ談義】では、『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』などを手がけるフジテレビの木月洋介氏をモデレーターに迎え、テレビの今を捉えながら、その未来を考えていく。

第1弾は、『有吉の壁』『有吉ゼミ』『マツコ会議』などヒットバラエティを担当する日本テレビの橋本和明氏、『プレバト!!』『初耳学』『教えてもらう前と後』という現在放送中のMBS制作GP帯全国ネット全レギュラー番組を立ち上げた水野雅之氏が登場。木月氏を含め、各局のエースディレクターによるテレビ談義をお届けする。

3回シリーズの第2回のテーマは、ダウンタウン・松本人志の苦言でも話題の「視聴率」。テレビ番組を評価する唯一の指標だった「世帯視聴率」から評価軸が多様化していることを、最前線の制作者たちはどう捉えているのか。3人のトークは、それを報じるネットニュースについても及んだ――。

  • (左から)日本テレビ橋本和明氏、フジテレビ木月洋介氏、MBS水野雅之氏

    (左から)日本テレビ橋本和明氏、フジテレビ木月洋介氏、MBS水野雅之氏

■多面的に評価されるフレームができるのは歓迎

――これまで世帯視聴率一辺倒だった番組の評価軸が、個人視聴率、コア視聴率(※)、さらには配信の再生回数など、どんどん多様化が進んでいるわけですが、この流れは制作者の皆さんとして、やはり歓迎されているのでしょうか?

(※)…民放各局が重点指標とするターゲット。日本テレビは「コアターゲット」(13~49歳)、TBSは「新ファミリーコア」(4~49歳)、フジテレビは「キー特性」(13~49歳)、テレビ朝日は「ファミリーターゲット」(13~59歳)

橋本:多面的に評価されるフレームができるというのはすごくいいことだと思います。

木月:そのほうがいろんなコンテンツが生まれますからね。

橋本:結局コンテンツを配信向けに作ろうとか、ファンビジネスとして作ろうとかなったときに、当然評価軸は違うわけで。視聴率ってテレビをつけてる人の裏局との取り合いの中でベストな回答とは何かということの一指標でしかないから、いっぱい見られてるけどファンがいない番組はあるし、あんまり見られてないけどすごいファンがたくさんいる番組もあるし。だからやっぱり、視聴率というものだけではカバーできない時代になっていると思います。作り手としては、的が1個じゃないというのはいいことだと思いますよ。いろんなものが正解になり得ると言われたほうが、みんな楽じゃないかなと思います。

木月:だからより、評価軸が増えてほしいと思うんですけどね。「この時間はコアを取ればいい」「この時間は個人全体を取ればいい」「この時間は配信を稼げばいい」とかになってほしいと思いますが、なかなかそうはならない(笑)

橋本:でも、長い目で見ると絶対なっていくだろうなと思いますけどね。やっぱりスポーツと一緒で、ルールは時代とともに変わっていくものだから、そこに対応できないと局として生き残っていけないだろうと思うので。いつまで視聴率である必要があるのかとか、どうやって代わりのものを測ればいいのかみたいな議論も、もう始めるときなんだなと思います。

水野:いろんな指標が増えたことはすごくいいと思うんですよね。それで急に評価される番組が出てくるということもすごくいいと思って、そこはおふたりに賛成なんですけど、一方で、作ってる人間が都合のいい指標に逃げていくのもまた違うなと思って。今でも僕は、世帯視聴率の肌感覚を分かっておいたほうがいいと思うんです。世帯8%で止まる番組と10%取る番組と、15%取る番組は、やっぱりこだわり方が違うし、視聴者の広がり方やムーブメントになる・ならないの違いがある。ファミリーコアがすごく取れてるけど、世帯が5%で止まってる番組だって、やっぱり世帯10%くらいまで上げたほうがきっとブームが起きるわけで。マスメディアとして、そこも考えておいたほうがいいんじゃないかと思うんです。なぜこれを言っているかというと、例えば、声優さんを呼べばコア視聴率が取れるとなって、他局がやったことをまんま真似すれば、地上波はどんどん同じようなことばかりやるようになるわけですよ。根っこにある「番組って何が一番大事なんだろう」ということを考えずに。こうして、「世帯が悪くてもコアが取れればいいでしょ」って本気で思ってる人がいる時代になっているのは、ちょっと違うかなと。

木月:多様性が失われていきますよね。

■番組が全部同じ方向に向いてしまう怖さ

水野:そこで、先ほど橋本さんが言った、「ファンがどれだけいるか」が大事な時代に絶対なってくると思うんです。もちろん大きな流れでいうと、コア視聴率が高いほうがCMのセールスがいいというのはあるんですけど、『プレバト!!』って比較的年齢層が高い番組だと言われる中で、ずっと(CM枠)完売なんですよ。だから、年配層に支持されてる番組が売れないというのは、まさにステレオタイプな意見であって、結局みんなが「この番組はひと言で言うとこういう番組」というのを知っていて、ファンがどれだけいるかが分かっていれば売れるという時代になっているんですよね。

橋本:すごく青臭いことを言うと、テレビってちゃんと誰かの役に立っているということがすごく大事だと思うんですよ。『プレバト!!』って僕の親世代の人たちが毎週楽しみにして、その時間が一番楽しい人もいっぱいいるわけじゃないですか。そのことの価値はちゃんと大事にする文化じゃないとダメですよね。一方で子供しか数字が取れないけどいっぱいファンがいる番組は、イベントなど違う展開にしてもいいかもしれないし。だから、さっき水野さんが言った「都合のいい指標に逃げる」のに使わないっていうのはその通りで、「自分が表現したいのはこれで、このフィールドで戦っているんです」というのを結構明確にしたほうがいいのかなと思います。何を狙って何を成し遂げているかということが、コア文化になるとボヤッとして逃げられる部分もありますから。そもそも、逃げる志で作ってる番組はコアすら取れないと思うんですよね。裏との兼ね合いも含めてテレビ全体を考えるんだったら、「この番組は上の層が面白がってくれればいい枠」、「『新しいカギ』のような若い世代の数字が高い枠」みたいに、広がりがあってもいいのになって思います。全部が同じところに向いちゃう怖さってそこですよね。

木月:まさにそれが怖いなと思うんです。

橋本:ネットでこれだけ多様なコンテンツがある中で、テレビも豊かであるべきで、それを殺すような方向には行かないほうがいいのではないかということですよね。

水野:はい。だから本当にマスであることを忘れて、専門チャンネルより狭い企画を、ゴールデンでも見かけることが最近増えたかなと(笑)。もちろん、うまくマスに昇華してる番組もあるんですけど。

橋本:コアとか個人の数字を見て日テレが上手く行ったからその戦略をみんなでやろうみたいなことも狭い話で、今や「テレビじゃない市場を全体で見たほうが良くないですか?」ってことですよね。

水野:『有吉の壁』が19時台なのにティーン層をすごい取ったっていうのが業界中で革命と言われ、みんなが元気づけられ、「主婦ターゲットじゃなくても19時台はいいんじゃないか」というトレンドが生まれたんだけど、実は全体の数が少ない19時台のティーン層を全局で取りに来てどうするんだみたいなことが、今起きてるんですよね。