ビデオカメラを渡された街の人が“ディレクター”となって、自分の親に「聞きたいけど聞けない」疑問を取材する中京テレビ・日本テレビ系ドキュメントバラエティ特番『オトナのための こどもディレクター ~カメラを向けたらはじめて聞けた』(20日23:59~)。テレビのスタッフでは絶対に撮ることのできない家族だけの空間を映し出し、過去2回の放送は今年の日本民間放送連盟賞でテレビエンターテインメント部門優秀賞を受賞するなど高い評価を得て、今回初めて全国ネットで放送される。

この番組の企画・演出は、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』で“鈴子ママ”や“エキサイトスーパータナカ”などを担当する中京テレビの北山流川ディレクター。今回のスタジオ収録ではシソンヌの長谷川忍が涙を見せる場面もあったが、なぜ一般の人が撮影したVTRが心を揺さぶるのか。制作の舞台裏や見どころなどを聞いた――。

  • (左から)スタジオ出演者のシソンヌ・長谷川忍、斎藤工、土屋アンナ

    (左から)スタジオ出演者のシソンヌ・長谷川忍、斎藤工、土屋アンナ

スタッフがいない空間を突き詰める

この番組の構成に入っている放送作家の安齋友朗氏(『めちゃ×2イケてるッ!』など)と打ち合わせをする中で、最初に生まれた企画は、子どもが親の職場を体験する“こどもインターン”というものだった。だが、子どもが親を撮るほうが面白いのではないかと思い立ち、『こどもディレクター』の形に。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で知られる元テレビ東京・上出遼平氏が監修として参加し、親に対して「聞きたいけど聞けない」疑問を聞いていくという番組の柱が定まった。

ビデオカメラを渡してしまうというアイデアは、北山Dが企画した『オカンからの荷物です。』という番組から。親から子どもに届けられる“仕送り”にスポットを当てた番組だが、「大家族を取材したときに、娘さんがお父さんに“うちらきょうだいって生まれたときはみんな顔一緒じゃない?”と聞いたら、すごくいい表情で“全然違うよ”と答えたんです。この質問って、赤の他人である自分が聞くと失礼だから絶対できないじゃないですか。そのとき、娘さんにディレクターとして負けたという感覚があって、ここに自分がいないほうがいいなと思ったんです」と、近い関係だからこそ切り込める強みを痛感した。

『オモウマい店』でも、カメラを置きっぱなしにして撮影することで、インタビューでは聞き出せない本音や日常が切り取れる経験があったことから、「上出遼平さんとも会話を重ね、スタッフがいない空間というのを突き詰めていこうという話になって、もうカメラを完全に預けて、後日回収するという形になりました」と、番組の大きな特色が決まった。

「不完全」も番組の面白さに

機材に慣れない一般の人に撮影を託すのは、録画ボタンを押していなかったり、画角に違和感があったり、肝心な質問をし忘れたりというリスクもある中、「40クリップも撮ってくれる人もいれば、1クリップで親に質問だけして終わる人もいるんですけど、そういう撮る方の個性があふれる部分やある意味で不完全なことも、この番組の面白さになれば」と捉えている。

実際に素材をチェックすると、「本当に個性が出てるので、めちゃくちゃ面白いんです。カメラがあることで、普段だったら本当に聞けないことが聞けるというのが、想像を超えていました」と驚いたそう。さらに、「親御さんが日常とは違うテンションで出てくるのかと思ったんですけど、寝転がりながらしゃべったり、パジャマだったり、お風呂上がりの画もあって、普段の親子の光景があると思ったら、取材者と取材対象者の空気になるときもあって、不思議な感覚でした」という。

渡すのは、テレビ業界で“デジ”と呼ばれる業務用の手持ちカメラ。近年はスマートフォンで動画撮影する人も多く、放送画質にも耐えられるため、それで撮影を依頼したほうがミスのリスクも低減されてよいのでは…と考えてしまう。だが、「普段持っているスマホだと、ただの日常になってしまう。でも、デジを渡すと“引き受けたからには、ちゃんと撮ろう”という責務を持って、親に対して質問をしてくれるんです。役割があるからこそ普段なら聞けないことを聞けるというきっかけにもなっていればいいなと思います」と、機材によって“ディレクター”としての自覚を意識付ける効果があるようだ。

また、「スマホで撮ってると画面を見てしまうけど、デジだと相手の顔を見て話すことができるし、置いて撮ることもできるので、ちゃんと向き合うことができる」というメリットも。日常になりすぎず、程よい緊張感で聞きたいことが聞ける絶妙なサイズ感であることは、『オモウマい店』の取材でも折り紙付きだった。