南海電気鉄道と京三製作所は18日、和歌山港線で行っている「係員付き自動運転(GOA2.5)」走行試験の報道公開を実施。南海電鉄の8300系が和歌山市~和歌山港間を往復した。試験列車に取り付ける特製ヘッドマークの贈呈式も行われた。

  • 和歌山港線で実施している「係員付き自動運転(GOA2.5)」走行試験を報道公開。南海電鉄の車両8300系(2両編成)を使用する

和歌山港線の自動運転走行試験は今年8月下旬から始まった。南海電鉄が自動運転をめざす背景として、沿線の労働人口減少が挙げられる。南海電鉄の場合、運転士の68%が45歳以上であり、将来的な運転士不足が大きな課題になっている。

鉄道の世界において、自動運転は一部の地下鉄や新交通システムですでに導入されており、決して目新しい技術ではない。しかし、南海電鉄のめざす自動運転は、いくつかの点で画期的なものとなっている。

自動運転を行うほとんどの鉄道事業者は、レールから連続的に制限速度等の情報を得られるATC(自動列車制御装置)とATO(自動列車運転装置)を組み合わせている。ただし、ATCの採用率は国内在来線の1割にとどまり、南海電鉄においてもATCを採用した線区はない。その代わりとして、地上に設置された地上子を通過するたびに速度制限等の情報更新を行うATS(自動列車停止装置)が採用されている。

地上子は間隔を空けて設置されるため、ATCのように連続的に情報を得ることはできない。そこで南海電鉄は、京三製作所と共同開発した高機能ATOを用いることにより、ATS採用路線でも自動運転を可能にした。高機能ATOは、従来からATOに備わっている自動運転機能に加え、ATSと類似した制限速度のチェック機能も有する。つまり、高機能ATOがATC不在の穴を埋めることになる。

現在、自動運転を導入している地下鉄や新交通システムの路線は、地下または高架上を走り、自動車等が容易に侵入できない構造になっている。一方、今回の自動運転走行試験を行っている和歌山港線は基本的に地上区間を走り、踏切も設置されている。

  • 8300系の車内に置かれた機械類

  • 試験では2005年に廃止された中間駅に停車した

  • 列車を出発させるための緑色のボタン、赤色の緊急停止ボタンを設置

  • 列車出発時、係員は緑色のボタンを押す

  • 通常時は緊急停止ボタンに指を添え、緊急時に備える

  • 緊急時は両手で緊急停止ボタンを押す

試験では、和歌山港線でかつて営業していた旧久保町駅、旧築地橋駅、旧築港町駅(いずれも2005年廃止)の3駅付近に停止位置を設置。各駅に停車したり、3駅中1駅のみ通過したりと、さまざまな種別に対応するための試験を実施している。試験の使用車両は南海電鉄の8300系(2両編成)。電気プレーキを採用していることもあり、ブレーキの効きがよく、自動運転でもコントロールしやすいとのことだった。

11時に運転士が発車ボタンを押して和歌山市駅を出発。その後は緊急停止ボタンに手を添えるだけで、特段の操作は行わない。当日は運転士が対応したが、緊急停止等の訓練を受けていれば、運転士に必要な動力車操縦者運転免許を持たない係員でもかまわないという。南海電鉄がめざす一連の自動運転は、国内基準だと「GOA2.5」(緊急停止操作等を行う係員付き自動運転)に該当する。

  • 旧築地橋駅付近で試験列車が停車

  • 当日はモニターで試験の様子が伝えられた(写真は和歌山港駅停車時)

  • 緊急停止の試験も行われた

8300系の試験列車は旧久保町駅、旧築地橋駅、旧築港町駅に停車。いずれも目標の停止位置からプラスマイナス1m以内の停止精度を達成した。その後、和歌山港駅で折り返し、無事に和歌山市駅へ戻った。

試験列車に取り付けられた特製ヘッドマークの贈呈式も行われ、南海電気鉄道常務執行役員鉄道事業本部長の梶谷知志氏から京三製作所代表取締役社長執行役員の國澤良治氏へ贈られた。贈呈式の後、代表質問において、南海電鉄の担当者は「私達が培った自動運転のノウハウが各地方鉄道で役立つことで鉄道路線が日本全国に維持できるようにしていきたいというのが将来像」と語った。

  • 試験列車に取り付けられた特製ヘッドマーク

  • ヘッドマークの贈呈式も行われた

和歌山港線での自動運転走行試験は今後も継続される。「係員付き自動運転(GOA2.5)」の導入線区は和歌山港線と高師浜線(羽衣~高師浜間)となる予定。高師浜線は全線高架のため、自動運転を行いやすい環境にあるといえる。ただし、具体的な導入時期は未定とのことだった。